39 旅支度
『平穏に暮らしたんじゃ面白くないでしょ?』
リリィにも言われたけれど魔法のあるファンタジー世界で ある意味チート持ちなんだから普通に生きていくだけでは勿体ない気もする。積極的に厄介事に首を突っ込む気はさらさら無いけれど ”来るものを拒まず” っていう程度には関わって行こう… 危険が無い程度には────
翌日、俺の同行に納得したのか、していないのか、その辺の事情は良く分からないけれど ”エリザベートさんが王都に持って行く荷物を纏め終えた” という連絡を執事さんから貰い その荷物を収納する為にエントランスへと向かった。
この屋敷に滞在する間、チャリはエントランスの一角に設けられた ”自転車置き場” に置かせて貰っている。離れていても異常があればリリィとの念話ですぐに対応できるし 俺自身を守るだけならロディの結界だけで十分だ。
チャリの結界は物理攻撃に特化していて 触れている者やその持ち物を守るための結界と 自身を中心にある程度の範囲結界を張ることが出来る。
しかしロディの結界は対抗出来る種類が多い代わりに腕輪を身に着けている者とその者が触れている人や物にしか効果が無い。
エントランスに着いた俺は山の様に積まれた荷物を目にして暫く呆然と立ち尽くした────
暫くして我に返った俺はその場にいたエリザベートさんを見つけて矢継ぎ早に声を張り上げた。
「正気ですか‼ 嫁にでも行くつもりですか⁈ 何ですかこの荷物の量は⁉」
「嫁に行きたくないから態々カズマに同伴して貰うのよ。平民の貴方には分らないでしょうけど これ位の荷物、貴族令嬢にとっては当たり前の事だわ」
「常識ってモノがあるでしょ。常識ってモノが! こんだけの荷物、馬車だったら五台は必要なんじゃないですか⁈」
「ごたごた言ってないでちゃちゃっと収納なさいな。カズマならこの程度の荷物、どうって事ないでしょ」
どうって事はないけれど これを全部あっさりと収納したという事実を他人に知られる事が問題だ。
「大丈夫よ。この屋敷に他人に知られて困る秘密を軽々しく口外する使用人はいないんだから」
んー、姉ちゃんと一緒で心まで見透かされている気がする。
それにしても使用人をそこまで信頼出来る根拠は何処にあるんだろう。
ま、良いか。ここで躊躇っていてもしょうがないか。ロベルトさんには色々見透かされている気がするし… 切羽詰まったら身動きが取れなくなる前にトンズラすれば良いんだし。
ただ生きていくだけならどこでも暮らせる・・・
チャリ達が一緒 っていうのが前提だけど。
「 ”どうって事無い” って事は無いですよ。後で ”他にも収納を頼みたい” って言われてもこれでほぼ満タンですからね」
「嘘ばっかり・・・」
「無理です!」
そう言ってエントランス一杯に用意されていた中身の良く分からない荷物の数々を全て収納した。俺じゃなくて ”チャリにお願いして” だけどそれは内緒だ。
それから執事さんに従者としての心得(本当の従者なんて成る気が無いから適当に聞き流したけど)や道中気を付ける事などを教えて貰った。エリザベートさんの事は ”お嬢様” と呼ぶようにと指導された。
高校を卒業したらメイドカフェに行って 「 ご主人様っ ♡ 」 って呼ばれるのが夢だったのに まさか中三にして召使い擬きになって 「 お嬢様 」 と呼ぶ相手が出来るとは──── 複雑である。
ロベルトさんは魔物騒動で忙しそうだったけど、次の日の昼過ぎになると ”あんなに騒がしかった森がウソのように静まり返っている” と言って帰宅した。
「まだ気は抜けないが一旦落ち着いている様だ。これからもっと忙しくなるかもしれないからね。今のうちにカズマに色々お願いしておこうと思って帰宅したんだけど エリザベートとはその後、上手くいってる?」
「上手くも何もあまり接点は無いですからね。道中も馬車の中と外だから話す事もあまり無さそうですし」
「そうかなあ? 護衛が少ない代わりにエリザベートには侍女を二人付けるから賑やかな旅になると思うよ」
侍女を二人付けても馬車の中と外というのは変わらないから賑やかなのは馬車の中だけなのだろう。
俺にはチャリやロディやリリィがいるから放っておかれた方が都合が良い。
そして迎えた魔王封印から四日目の朝、馬車に乗った同年代の侍女二人、御者兼騎乗しての護衛役の騎士三人、荷物持ちの平民風情一人を伴って伯爵令嬢御一行が王都に向けて出発した。




