36 ウェストン伯爵家
領主館に着くと前回訪れた際、近いうちに再訪する旨を伝えていた事もあり
執事さんに丁重に迎えられて既に準備されていた部屋に案内された。
「夕食の準備が整うまでこちらでお寛ぎください」と言われたが
一等の客間なのだろう。中に入るなり暫し呆然と立ち尽くす。
ベッドは勿論の事、応接セットと簡易ながら書斎机まで完備されている。
部屋の壁にはいくつか扉がありさしずめトイレや洗面所なんだろなと思って
開けてみた。驚いたことに風呂が併設されている。
いくらアイテムボックス持ちが貴重だと言ってもこれは扱いが良すぎる。
「リリィ、伯爵相当の貴族になると屋敷の中にいくつも風呂があったりするの?」
「私が魔道具に宿った頃には考えられない事ね。
少なくとも一個室に風呂が併設されてるなんて見た事も聞いた事も無かったわ。
最近では住宅事情も変わってきているのかしら」
「でもラグの街に湯屋は一軒しかなかったし、やっぱり
風呂付の部屋なんてかなりの好待遇だよね?」
余程大変な仕事を押し付けたいのではないかと疑心暗鬼になっていたところに
ノックする音が聞こえメイドさんが夕食の支度が整ったと知らせに来た。
案内されるまま綺麗に花など飾られた廊下をメイドさんに付いて歩く。
客間同様自分には場違いと思わせる華やかなダイニングには既に人影があり
そちらに自然と視線を向ける。
先に席に着いているその人は俺の一つ上の姉ちゃんとは
比べるのも憚れる程の綺麗な年若い女性だった。
お姫様と言っても良い。いや花の妖精だろうか?
透き通るようなプラチナブロンドに大きなブルーの瞳
小さく閉じられた唇はバラの蕾の様だ。
その見惚れるほど綺麗な女性がこちらにちらっと眼を向けたが
すぐに ぷいっ、とテーブルに飾られた花へと視線を戻した。
メイドさんが案内してくれた席はその女性の斜め前。
促されるまま着席したけれど、今しがたぷいっと横を向かれたばかりで
視線をどこに置けばいいのか悩んで挙動不審に見えたのかもしれない。
彼女が静かに立ち上がった。
その時、タイミング良く入り口に現れたロベルトさんが声を掛けた。
「エリザベート、どこへ行く?今の私はとても忙しい。
食事を摂りながら彼の紹介も兼ねてこれからの事を説明するから掛けてくれ」
彼女は納得いかないといった様子でロベルトさんを見やっている。
俺に視線を移し苦笑いしながらながら横までやって来た彼が
目の前の彼女に顔を向けて
「さあ、掛けて」とやさしく命じた。
彼女は何も言わずに再び腰を下ろした。
「和真、すまない。妹のエリザベートだ。先日16歳になったばかりだが
まだまだ子供で手が掛かるんだ」
姉ちゃんと同い年か。ちょっと苦手かも。
「お兄様、淑女の年齢をぺらぺらと親しくも無い方に暴露されるのは
不本意ですわ」
「淑女は”王子の婚約者になるのは嫌だ”と駄々をこねて
大泣きなどしないと思うけどね」
「それも知らない方においそれと話していい事ではありませんわ!
それにあんな王子の婚約者になるだなんて誰だって嫌がるに決まっていますわ!」
なんか性格は姉ちゃんに似てるかも・・・
姉ちゃんとは比べ物にならない位可愛いけど。
「その事もあって和真を雇ったんだ。あまり態度が良くないと
協力して貰えなくなるぞ」
「えっ!?」
思わず声が出た俺の顔を今度は睨めつけるようにして彼女が振り向いた。




