13 定食屋
ジルが案内してくれたのは商店街の中にある一軒家の食堂だった。もう昼の時間という事で開け放された入り口の垂れ下がった暖簾の様な仕切りを潜った。
「いらっしゃいませ… って ジル! 駄目じゃない、ここへは用事もないのに来ちゃダメって言ったでしょ。お父さんは何処に行ってるの? これからとっても忙しいんだから邪魔よ!」
「ち、ちげーよ。父ちゃんは家にいるよ。今日は定食食べにきたんだよ」
どうやらこの店にもジルの知り合いがいるようで 店内に入った途端、女店員さんが近寄りながらジルに話しかけた。
俺と同じくらいの年に見える店員さんはかなりジルと親しい様だ。
「まさか一人で来たの? 定食食べるって、あんたお金は?」
「この兄ちゃんに奢って貰うんだ」
「奢って貰うって、知ってる人なの?」
訝しげに俺の方に目線を移したので自己紹介をしておく。
「あ、俺和真って言います。ジルにはさっき商売の手伝いして貰って、その手間賃代わりにお昼をご馳走する約束をしたんです」
店員さんがジルを店の端に引っ張って行ってひそひそ話しを始めた。
「アンタ、変な仕事させられてんじゃないわよね?」
「変な仕事ってなにさ。兄ちゃんが村近くの川で捕まえた岩マスを売りに来ただけだよ。得る手伝いをして結構いい稼ぎになったから、って好きな定食奢って貰えるんだ」
「そ、そうなの? 信用して大丈夫なの?」
「うん」
「本当に? じゃあ… あそこの席に座ってて」
店員さんがこっちを見ながら指さしていた席に「兄ちゃんこっちに来て座って」とジルが案内してくれた。
そこは厨房の出入り口近くの席だった。
席に着いたらジルが照れくさそうに 「一番上の姉ちゃんなんだ」 と教えてくれた。
厨房から水の入ったカップを運んできた彼女が挨拶をした。
「ジルの姉のベティよ。で何にする?」
「ん~、お薦めは何?」
「やっぱり焼肉定食かな。田舎じゃ滅多に食べられないから」
「じゃあ俺はそれで」
頷いたベティが弟を振り返る。
「ジルは?」
「俺も同じのが良い。兄ちゃん前払いなんだ。時々食い逃げする奴がいるから」
ジルの説明に治安はイマイチなのかなとちょっと心配になった。
「いくらになる?」
「二人分で銅貨一枚だけど… 」
内ポケットから銅貨一枚を出して渡した。
「本当にジルの分まで良いの?」
「ああ。ジルは物知りだから昨日も色々教えて貰ってとても助かってるんだ。だから気にしないで」
そうなんだ、と相槌を打ってベティさんは厨房へと引っ込んだ。
「ジルの姉ちゃんはいくつなんだ?」
本人に聞くのは気が引けるのでジルにこそっと聞いてみる。
「15歳。なんだ兄ちゃん、気になるのか?」
「いや、俺と同じ位に見えるのにしっかりしてるな、と思って」
「そういえば兄ちゃん、いくつなんだ?」
「俺? 14歳」
「兄ちゃんも それなりにしっかりしてるよ」
元の世界では始終姉ちゃんに ”役立たず!” って罵られていたけど 異世界でぼんやりしていたら いつ死ぬか分からない。
ジルは会話しながら厨房の方をチラチラ見ている。
さてはこいつ、定食より姉ちゃん目当てかと納得した。
「姉ちゃん、いつからここで働いてるんだ?」
「俺が7歳になった時だから二年前から。それまではうちで手伝いとかしてた」
「何でこんな離れた町で働いてるんだ?」
「俺の住んでる村は農作物売ったお金で村に無い生活品とか買うんだけど 良く売れてた作物があんまり売れなくなってたから町に働きに出たんだ」
「何で売れなくなったんだ?」
「遠くで見つけてきた珍しい野菜を作って高く売ってたんだけど 他の村でも真似して作り出したから安くなちゃったんだ」
ああ、それってよくあるヤツだ。
キウイなんかが珍しかった頃、意外と作りやすいってんで庭なんかに植えて自分の家でも持て余すようになったっていうし 最近では高級ブドウをあちこちで作付けして値崩れしたりとか。対策で新品種の県外生産禁止なんてやってるけど世知辛いのは異世界でも同じか。
未だお客も少ないので程なくしてベティさんが注文した定食を持って来てくれた。
ジルの目がらんらんと輝いている。やっぱり定食も楽しみだったのか。
「いただきます」
と、学校の給食時の癖で両手を合わせて唱えたらジルが不思議そうな顔をした。
「俺の村の風習。この定食に関わった皆に感謝します、っていう意味があるらしい」
ほんとのところ、癖でやってるだけだから良く分からないけど 習わしなんてそんなものだろう。




