再び、宇宙へ
月。
「昴。あなたは地球に戻る時が来ました。」
無を倒し平和になった月。
「無との戦いで、エネルギーを使い過ぎたので、月の騎士を続けるだけのエネルギーが尽きようとしているのです。」
少年は、戦いの中で、太陽、月、星の騎士となり活躍したが、その性で、エネルギーを使い過ぎ、宇宙に留まることが出来なくなってしまったのだ。
「月の神秘の終わりだぴょん。」
月の精霊の銀うさぎも、月の神秘エネルギーはどうすることもできない。
「そうなんですか。悲しいですけど、お別れですね。」
素直な少年は、月の仲間との別れを受け入れる。
「昴!? 帰るな!? 帰らないでくれ!?」
「寂しくなりますね。せっかく仲良くなれたのに。」
「・・・・・・。」
月の騎士アルテミス、セレーネー、ルナも少年との別れを悲しんだ。
「ルナ。あんたもなんか言いなさいよ?」
「昴、戻ってくるんだろ?」
月の騎士ルナの言葉は、少年を信頼しているから。
「はい! 何年かかるか分からないですけど、僕は宇宙に戻ってきます!」
その問いに答える様に、少年も諦めることはなかった。
「必ず月に戻ってこいよ。覚えていてやる。」
素直に待っているとは言えない、月の騎士のルナ。
「はい!」
ルナの言葉に、自分も仲間だと認めてもらえたと、満面の笑みを見せる少年。
「どうも、みなさん、ありがとうございました。」
遂に別れの時である。
「昴!? 俺は別れたくないぴょん!?」
「う~ん。じゃあ、地球に来る? 美味しい人参はあるよ?」
「いや。俺は持ちの方がいいぴょん。」
「ワッハッハー!」
やはり月の精霊の銀うさぎは、月のうさぎでしかなかった。
「あの・・・・・・かぐや姫様。」
「なんですか? 昴。」
「最後に、ブラックホールに吸われてしまった、猫を助けてあげたいと思うんですが、いいですか?」
元、自称、宇宙魔王の宇宙猫のクロアナは、無から開放され普通の猫になったが、ブラックホールに呑み込まれて消えてしまった。
「クスッ。優しいのですね。あなたは。いいでしょう。ブラックホールから戻って来れる様に導きます。安心して、見つけてきてあげてください。」
月の女王かぐや姫が、ブラックホールから引き揚げてくれる。
「行こうか。ラスト・ミッションだ。」
「昴が行くなら私たちも行くよ。」
「みんなで探した方が早く見つかりますからね。」
何も言わなくても、月の騎士のルナ、アルテミス、セレーネーが、宇宙の迷子猫を探すのに付き合ってくれる。
「はい! ありがとうございます!」
こうして少年は、最後に宇宙での思い出ができたのであった。
地球。
「人類とタコとの和平条約が締結されました!」
最初は、侵略者だった宇宙タコだったが、共に宇宙モンスターと戦い、地球を救ったことから、共存の道を進むことになった。
「すいません! こっちも向いてください!」
「はい。ニコッ!」
記念の写真撮影を行っているのは、条約を結んだ、人類代表の国連事務総長と、地球と宇宙のタコの代表になったタコ・デビルであった。
(・・・・・・長老様。あなたは、こうなる未来が見えていたのですね。)
ジーンっと、今は亡き、タコ長老の教えが、タコ・デビルの心に響く。
「それでは、和平条約を締結パーティーを行います! 美味しい! タコ焼きと、人間焼きを、お食べください!」
決して、生きた人間をぶつ切りにして具にする訳ではない。
「おお! 人間の形をした鉄板に生地を入れて、中にアンコを入れて焼くんですね!」
例えると、たい焼きと同じである。
「美味しい! 人間焼きも美味しいですね!」
「タコ焼きも美味しいですよ!」
「ワッハッハー!」
人類とタコは、仲良くタコパーして、地球の平和を祈ったのであった。
地球。夜。少年の家。
「ニャア~。」
「ダメだよ!? クロアナ!? 浮いちゃあ!?」
「ニャア?」
元宇宙猫のクロアナは、たまに地球の重力を無視して浮いてしまうらしい。
「ここは地球だから、誰かに見られたら、大変なことになっちゃうよ。」
「ニャア。」
クロアナを月には居場所がなさそうだったので、少年が地球に連れてきて、ペットとして飼うことにした。
「はい。ご飯だよ。」
「ニャア! ムシャムシャ!」
普通に宇宙猫だったクロアナが、地球のキャットフードを、美味しそうに食べている。
「美味しい?」
「ニャア~!」
大満足のクロアナ。
「うさぴょんも地球に来ればよかったのに。」
惜しいことをした月の精霊の銀うさぎ。
「今日も、きれいだ。」
「ニャア。」
月を見上げる少年とクロアナ。
「この世に価値のない者なんてないんだ。」
夜空に浮かぶ月が、今日も少年を照らしている。
「確かに僕は、宇宙が好きなだけで、何のとりえもない普通の人間だ。」
少年の宇宙での騎士として過ごした時間は、まるで夢のようだった。
「でも、光は夜にもある。だから、僕は歩き続けられるんだ。」
自分なんか、どうせ僕なんかは何もできない、と自分を卑下していた、自分自身に自信がない少年は、もういない。
ピカーン!
少年の心と、月の光が共鳴する。
(ありがとう。昴。)
(また会おうね。)
(・・・・・・チッ、待たすなよ。)
その時、月の光が一瞬強くなり、月の騎士たちの感謝と祝福のメッセージが聞こえてくる。
「はい! 必ず、会いに行きますからね!」
少年は光の戦いを終えて、それでも宇宙を好きでいてくれた。少年は本物に宇宙が大好きなんだ。
「ニャア!」
猫のクロアナも、少年を応援してくれている。
その後の少年。
「太陽は地球から約1億5000万km離れた巨大な恒星で、主系列星の「黄矮星」に分類されます。直径は約140万kmで地球の109倍、質量は地球の約33万倍、表面温度は約5772K(約6000℃)です。」
少年は、自分の夢を叶えるため、月の仲間と再び会うために、宇宙飛行士になるための勉強を一生懸命する。
「クソッ!? 宇宙に行きたいだけなのに、なんで英語がいるんだよ!?」
宇宙ステーションでは、多国籍な人間が働いているので、共通語の英語が必須だった。
「クロアナ。おまえも宇宙に戻りたいかい?」
「ニャンニャン。」
よっぽど地球が気にいったのか、猫のクロアナは首を横に振る。
そして、宇宙飛行士の試験の面接が始まる。
「どうして、宇宙飛行士になりたいんですか?」
「はい! 宇宙に行くことが、僕の子供の頃からの夢です! それに、月に僕が行くことを、待っていてくれる、仲間たちがいるんです!」
少年は、臆することなく、面接官の顔色を窺うことなく、自分の意見を堂々と言う。
「はへっ!?」
思わず、面接官が鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしてしまうくらい。
「月には誰が待っているんですか? かぐや姫?」
「はい! 月の女王に、月の神、月の騎士たちです!」
「わ、分かりました!? 退席してください。」
「ありがとうございました!」
少年は、面接室から退室する。
(僕はやれることはやった。後は神のみぞ知るだ。・・・・・・どうか、受かりますように。)
その夜、少年は流れ星に願い事をした。
面接室。
「変わった子でしたね?」
「そうですね。でも、月に行きたいという強い気持ちは伝わってきましたよ。」
「う~ん。知識の試験もトップ合格だし、最年少の宇宙飛行士となれば、マスコミも大々的に取り上げてくれて、寄付やスポンサーも集まり、宇宙開発が進みますしね。どうしましょう?」
面接官たちは、合格者の選考に悩んでしまう。
「いいじゃないですか。彼を宇宙に行かせてあげましょう。」
その時、偉い人が声をあげた。
「彼には借りがあるので。」
「えっ? 何か言いましたか?」
「いいえ。何も。」
その人は、どこか月の神ツクヨミに似ていた。
試験の結果発表の日。
「やったー! 試験に合格したぞ! ヤッホー!」
勉強を頑張った少年は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士候補者選抜試験に合格した。
「ニャア!」
本当は、大学卒以上で、科学技術・医療・航空などの分野で3年以上の実務経験が必要。現在、日本の宇宙飛行士の最年少は29才。
「これで宇宙に行ける! みんなに会えるんだ!」
真面目にやっていると、少年がおっさんになってしまう。ということで、高校生か、20才前後で宇宙飛行士の試験に合格したとしよう。
宇宙飛行士、無重力適性テスト。
「すごい!? まるで宇宙人みたいですね!? 宇宙にいたことがあるんですか?」
少年は、まるで陸地よりも楽に、無重力空間で自由自在に動いている。
「あはははは・・・・・・。」
(実は、宇宙に行ったことがありますとは言えない!?)
少年は笑うしかなかった。
夢を叶える時。
ロケットの打ち上げのカウントダウンが始まる中、コックピットの少年は、かつて見上げた轟音と炎を、今度は体中で感じている。
――5。
――4。
彼は静かに目を閉じ、胸に手を当てる。
(みんな、もうすぐ会いに行きます!)
かつて祈った少年の心臓の鼓動が、今、確かな運命(Destiny)の音として響く。
――3。
――2。
「リフトオフ!」
――1。
0!
ホールドダウン解除。ロケットが重力を振り切り、天を突き上げる。
地上からの歓声が響く中、少年の瞳は静かに夜空を捉える。
僕は、流星になった。
終わる。




