7章
1
廃ビルの三階。窓の割れた部屋で、俺と夏芽は一時的に身を隠していた。ポイント表示が、静かに点滅している。
+30
その数字が、やけに重い。
「……」
夏芽は、まだ何も言わない。けれど沈黙は、優しさじゃない。
「言いたいことがあるなら、言え」
「あるよ」
即答だった。
「でも今は言わない」
「どうして」
「生き残る方が先だから」
正しい。正しすぎる。遠くで銃声。また一チーム、削れたらしい。
「このゲーム」
夏芽が、壁にもたれながら言う。
「最初に裏切った人が、一番有利になる設計だよね」
「ああ」
「だから、あなたは最初にやった?」
責める声じゃない。確認だ。
「……違う」
本当は、少しだけ違う。助ける選択もあった。でも選ばなかった。それだけだ。その時、視界の端に、ノイズが走る。
《生徒会より通達》
空間に、半透明のウィンドウが開いた。映像が映る。月城彩葉。椅子に座り、指を組み、こちらを見ている。
『順調ね』
淡々とした声。だが目は、愉しんでいる。
「……観戦付きかよ」
『当然でしょう。これはテストだもの』
夏芽が、睨む。
「テストって、何を?」
『決まっているわ』
彩葉の視線が、まっすぐ俺を貫く。
『あなたが、どこまで冷酷になれるか』
静かに、言い切った。
『最初の裏切り。合理的判断。評価は高い』
「評価される覚えはない」
『でもされている』
一拍。『あなたは今、全体順位三位』
思ったより上だ。
「二位と一位は?」
『まだ“踏み越えていない”』
つまり。もっと派手にやれ、と。
『次の縮小まで、残り五分』
マップの安全エリアが、点滅する。
『選びなさい、神埼白斗』
声が、わずかに低くなる。
『指揮官になるか』
『それとも、孤独な駒でいるか』
画面が、消えた。
2
五分。短い。でも、決断には十分だ。
「白斗」
夏芽が言う。
「私、あなたに従うよ」
「……理由は?」
「あなたが今、一番勝率が高いから」
信頼じゃない。合理。でも、それでいい。
「なら、動く」
俺はマップを確認する。縮小後の中心。そこに、まだ動いていないチームがいる。
「ここを叩く」
「正面突破?」
「違う」
口元が、自然に上がる。
「“ぶつける”」
他のチーム同士を、衝突させる。
「……ほんとに、指揮官だね」
「なりたくはない」
でも、もう。駒ではいられない。
3
安全エリア縮小。銃声が一気に増える。俺の予測通り、二チームが接触。混戦。
「今」
夏芽が撃つ。俺も動く。横から削る。奪う。ポイントが、跳ね上がる。
《+45》
《+20》
順位表示。
一位:神埼白斗チーム
静かに、息を吐く。
(……完全に、見られてるな)
遠く、観測室。月城彩葉は、きっと微笑んでいる。壊れるか。飼えるか。その天秤に、俺は乗せられている。でも。
(壊れるのは、そっちかもしれない)
盤はまだ、終わっていない。
――第7章・了
更新するのサボりました。すみません。
まあ、何章かは書きました。




