4章
よろしく
1
翌朝。教室の空気が、昨日と違っていた。視線が、明確に多い。隠そうともしていない。
「……噂、回るの早いな」
席に座る前からわかる。チェスの件は、もう学年どころか生徒会経由で校内に流れている。
「おはよ、白斗くん」
夏芽が、いつもと同じ調子で声をかけてくる。でも、その目は笑っていない。
「生徒会から、連絡来てる」
「……だろうな」
「放課後、第一会議室。逃げたら即ペナルティ」
軽く言うが、内容は重い。
「ペナルティって?」
「未履修扱い。ゲーム科だと、ほぼ退学コース」
「選択肢、ないな」
「ええ。最初から」
それ以上は言わなかった。言わなくても、十分だった。
2
第一会議室は、校舎の最上階にある。無駄に広く、無駄に静か。扉を開けると、そこにいた。
月城彩葉。
生徒会長席に座り、書類に目を通している。
「来たわね」
「拒否権はなかった」
「正解。判断が早いのは好きよ」
彩葉は書類を閉じ、こちらを見る。
「では、正式に通達するわ」
淡々と、感情を挟まず。
「神埼白斗。あなたは本日付で生徒会主導特別プログラムに参加する」
「……内容は?」
「簡単よ」
彼女は指を鳴らす。壁のスクリーンに、映像が映し出された。
《学内順位変動戦・βテスト》
《形式:強制参加型オーディナルゲーム》
《賭け対象:ポイント・単位・権限》
嫌な単語ばかり並んでいる。
「これは?」
「次世代ルールの実験。勝者は上へ、敗者は下へ」
「拒否は?」
「ないって、さっき言ったでしょう」
彩葉は小さく首を傾げる。
「安心しなさい。あなた一人じゃない」
画面が切り替わる。参加者一覧。そこには、見覚えのある名前があった。
「RiotDog……」
「ええ。あなたに負けた彼も参加」
「趣味が悪い」
「因果応報よ」
そして、最後に表示された条件。
《敗北条件:負債発生》
《規定値超過時、退学処理》
胸の奥が、静かに冷える。
「……本気だな」
「もちろん」
彩葉は、椅子から立ち上がる。
「この学園は、才能を守らない。使えない才能を切り捨てるだけ」
真っ直ぐに、こちらを見る。
「あなたがIFかどうかは、もう重要じゃない」
「じゃあ何を見たい」
「――壊れるかどうか」
一瞬、空気が止まった。
「強すぎる才能は、扱いづらい」
「だから試す?」
「だから壊すか、飼うかを決める」
残酷で、正直な答えだった。
「参加は、明日から」
「準備期間は?」
「不要でしょう」
そう言われて、否定できない自分がいる。
「最後に一つ」
彩葉が言う。
「このゲーム、途中棄権はできない」
「……」
「途中で思い出しても、遅いから」
彼女は背を向け、扉へ向かう。
「逃げ場はないわ、神埼白斗」
「最初から、なかったさ」
そう返すと、彩葉は一瞬だけ振り返った。
「その顔」
わずかに、口元が緩む。
「やっぱり、嫌いじゃない」
扉が閉まる。一人残された会議室で、俺は深く息を吐いた。
(……戻る気は、なかったはずなのにな)
けれど。胸の奥で、確かに何かが目を覚ましている。桜花学園は、俺を普通のままでは、いさせてくれない。
さて、白斗の退学の危機です。入学したばかりなのにね、、。最近は文字数を気にしながら書いてます。




