9章
誤字脱字報告よろしくお願いします。
1
広場中央。俺と月城彩葉だけが、向き合う。風はない。銃声もない。観戦者のざわめきすら、遠い。
『始めましょう』
彩葉が構える。その姿勢。その重心。その“間”。――知っている。頭の奥で、何かが軋む。撃つ。読まれる。移動。詰められる。撃ち返す。弾道が、視える。
(違う……これは)
初めて銃を握った感覚じゃない。初めての試合でもない。もっと前。もっと冷たい場所。
――白い照明。
――無機質な部屋。
――ヘッドセット。
声がする。
『反応速度、規格外』
『予測演算、異常値』
『コードネーム:IF』
「……っ」
視界が、二重になる。現実の広場。過去の訓練室。銃声が重なる。
『あなたは、覚えていないのね』
彩葉の声が、静かに届く。
『でも身体は覚えている』
弾が頬を掠める。HP、残り三割。なのに。怖くない。代わりに浮かぶのは、数字。軌道。確率。
(俺は……)
撃つ。彩葉の回避方向を、さらに先読み。彼女の目が、わずかに揺れる。
『……今のは』
手応え。HPを削る。記憶が、さらに割れる。
――トロフィー。
――歓声。
――「自由が欲しい」と言った声。
あれは、俺だ。だが、俺じゃない。事故。暗転。誰かが言う。
『危険すぎる』
『制御不能』
『普通に戻せ』
――神埼白斗。
与えられた名前。
「……ふざけるな」
喉から、低い声が漏れる。彩葉が、止まる。
『何に怒っているの?』
「決まってるだろ」
銃を構え直す。
「勝手に作って、勝手に壊して、勝手に試すな」
自分でも驚くほど、感情が熱い。弾丸が交差する。至近距離。互いにHP、残り一割。
『あなたは、壊れていない』
彩葉が言う。
『ただ、閉じ込められているだけ』
踏み込む。引き金。同時。閃光。静寂。視界が白く弾ける。
2
アラート音。
《勝敗判定中》
息が荒い。地面に膝をついている。彩葉も、同じ距離に立っている。
《結果:同時撃破》
ざわめき。観戦席が揺れる。引き分け。誰も予想していなかった結末。彩葉が、ゆっくりと歩み寄る。
『……やっぱり』
その声は、柔らかい。
『あなたは、壊れていない』
「……だから何だ」
『なら、壊す必要もない』
彼女は少しだけ微笑む。
『飼うのでもない』
一歩、距離が縮まる。
『――対等に、使う』
その言葉は、命令じゃなかった。宣言でもない。提案。遠くで、夏芽の声がする。
「白斗!」
意識が、揺れる。でも今は、はっきりしている。俺は、IFだ。そして。神埼白斗でもある。割れた鏡は、完全には戻らない。けれど。どちらの顔も、俺だ。月城彩葉は、静かに言う。
『ようこそ、盤上へ』
その目にあったのは、観測者の冷たさじゃない。同じ高さに立つ者の光だった。
白斗がIFだった頃の記憶を取り戻してきました。次回からは月城と共に物語をヒートアップさせていきます。もう、兵器やらなんやら出てきます。キャラも増やしていきたいなです。




