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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『上』

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第89話 追跡者

 クルガオカ都市の外周部。すでに日が落ち切った頃の繁華街の近く。外周部の中でも少しだけ治安の悪い地域にある裏路地。道の脇には注射針や薬莢、生ごみが放置されたこの場所で、レイが足を引きずりながら歩いていた。

 全身が血だらけで異臭を放っている。きっとこれは体に付着したモンスターの血のせいだ。最低限、体を拭いてはいるもののその様相は不気味。防護服はところどころ破けているし、拳銃とナイフは血だらけ、頬なんて切られたようにぱっくりと割れていた。

 そして酷く疲弊しているのかその歩みは遅く、それでいて今にでも倒れそうなほど不安定だった。裏路地にいる浮浪者や荒くれ者達は目立つレイに一度視線を送るがすぐに目を逸らす。すでに道を外れてしまった彼らでも関わらない方が良いと、そう本能が訴えかけてきたのだ。

 恐らくテイカー、これほどに負傷しているのならば不意を突けば殺せるかもしれない、という考えは浮かび上がってこない。それだけ今のレイは異質でかつ中部にいた時と似た雰囲気を放っていた。


(遺物は…明日でいいか)


 バックパックの中に入っている高価な遺物。今すぐにでも売って、明日に代金を受け取りたい。しかし今、この状態でテイカーフロントに行けるはずもなく、また行く気力も無かった。

 地下通路での戦闘。

 ナイフと拳銃、そして隙を見て、死体の下から引きずりだしたNAC-416を使い襲い掛かるモンスター達と戦闘を繰り広げた。狭い通路で逃げ場も無く、それでいてこちらの装備は物足りない。逆に相手は数が多く、防護服を容易に貫き命にまで届く攻撃手段を持っていた。

 しかしあの状況ではそれらに真向から対峙するしかなく、途中からほぼ記憶が無い。えぐり、撃ち込み、蹴って、潰して、殴りつけて、切られて、突き刺されて、最悪の思い出だ。

 何体ほど殺したのか分からない、少なくとも20は超えていた。少しでも選択を間違えば簡単に死ねる環境。常に緊張感を持って意識を研ぎ澄まし、あらゆる状況を瞬時に想定し対応する。モンスターをすべて倒しきって、階段に敷き詰められていた瓦礫を除け、所々に穴の空いた布を取っ払って出てきた頃にはすでに日が暮れていた。

 その後、刺され、噛み付かれ、切られた満身創痍の体に鞭を打って商店街跡から脱出した。幸い、モンスターに出会うことはなく無事に荒野まで着くことできた。その頃にはすでに日が沈んでいたため荒野で迷う可能性もあった。しかし朦朧とした意識の中歩き続け、どうにかしてクルガオカ都市が見える位置まで来た。

 荒野を包み込む暗闇を切り裂くように存在するクルガオカ都市。あの姿を見て感動や安心の感情を覚えたのはあれが初めてかもしれない。その少しの気力を使ってさらに体に鞭を打って、レイは都市を目指した。

 体感で3時間歩いたのではないかと錯覚するほどの長旅。都市に着いた時、レイはすでに動けないほどに疲弊していた。

 それだけの疲労。当然、遺物の換金など出来るはずもなくレイはただ家に向かって亡者のように歩いていた。

 

(今日はもうダメだ。早く休みたい)


 狭い裏路地の突き当りにある扉。あそこがレイの家だ。どこかの建物をくり抜いて作られた粗雑な家。だがレイにとっては十分すぎる場所だ。


「………はぁ」


 扉の前にまで来たレイは一旦、周りを見渡して誰もいないのを確認すると扉を開けて家の中に入った。

 その後、特に何事も起きることなく血の付着した体を、面倒だが隅々まで洗うと疲れ尽きたようにベットに倒れ、ほぼ気絶に近い状態で眠りについた。


 ◆


 次の日。レイが起きたのは昼頃だった。


「っ……った」


 体中が酷く痛む。頬の切られた傷はほぼ治りかけて、後で回復薬でもかけたら次の日には治っているだろう。体に出来た刺し傷や切り傷もほぼ治っている。だがアドレナリンが切れた今、感覚が鋭敏になった今、昨日まで感じなかった頭や臓器の痛みがレイのことを襲っていた。

 このままベットの上で一日を終えたいほどの倦怠感と疲労感だ。しかし今日中にやらなければいけないことが幾つかあるため、レイは重い体を動かして家を出た。


 最初に行ったのはテイカーフロントだ。遺物の買い取りと二日前に売った分の遺物の査定結果が出ているので、その分を受け取りに行くのが主な用件だった。レイが昨日集めたアクセサリーなどの装飾品は職員の反応を見る限り高価なようだった。査定も二日ほどかかるらしく、これには単純に装飾品の類の精査が難しいのと、あるテイカーが車両一台分の遺物を持ち帰って来たためそっちに人手を取られているためという二つの訳があった。 

 テイカーフロントを出た時には3時頃で、その後に遅めの昼食を取って、次はアンドラフォックへと向かった。用件は弾薬の買い出しと防護服の新調だ。簡易型強化服も欲しかったが、如何せん全く金が足りていないのでまだ先の話になりそうだ。


そこの傷どうしたんだ」

「昨日の探索でドジ踏みました」

「クルメガか?」

「商店街跡です」

「まあ頑張れよ」


 のように、ジグと軽く会話を交わして弾薬と補充し、防護服を新調するとその日の予定は終わった。たったそれだけだが、疲れていたため一つ一つの動作がかなり怠慢で、思ったよりも時間がかかってしまったためアンドラフォックを出た頃には夜になっていた。

 起きたのは昼だが、レイはすでに睡魔に襲われておりその日は結局、その二つ予定以外に何かすることは無く、適当に何か食べた後。昨日と同じく死んだように寝た。


 ◆


 次の日に起きた時にはかなり体も回復しており、ぼにやりとかかっていたもやが取り払われたことで思考も十分に回るようになっていた。中部で傭兵をしていた時はどんなことが合ったとしても一日で回復していたため、あの地下通路の戦闘から回復まで二日もかかってしまったのは身体が衰えたのか、それとも中部にいた時が異常だったのか。

 少なくとも昔とは少しばかり勝手が違うということぐらいは把握していなければならないだろう。

 いつものように早朝に起きたレイは携帯食料で軽く朝食を済ませた。本当ならば腹が膨れるほどの飯を詰め込みたいが生憎そういうわけにもいかない。なにせこれから遺跡探索を行わなければならなず、満足に走り回れる状態を維持しなければならないからだ。遺跡までの移動時間でかなり腹もおさまるとはいえ、動きづらくなる可能性もある。

 体は回復したと言っても完全ではない、思考の能力も十分には戻っていない。事を急かすのも良くはない。しかしそれでも今日中にやっておきたいことがレイにはあった。

 バックパックの中に弾薬と格安の廉価回復薬を詰め終わるとレイは、遺跡へと向かた。

 場所は昨日と同じくクルガオカ都市の商店街跡の一部領域。混合型のハウンドドックと戦闘した場所でもあり、地下空間へと落下する原因になった大穴がある場所だ。レイは今日、またりずに地下空間を探索しようと思っている。と言っても昨日見つけためぼしい場所を局所的に見ていくだけだ。

 加えて、というよりもこっちが本題。床の崩落に伴って落ちた装飾品を再度回収するために来ている。恐らく、時間が経つとこの大穴の存在も露呈するだろう。そうして他のテイカーが探索をする前にレイがめぼしい遺物を漁ろうという魂胆だ。

 混合型のハウンドドックとの戦闘で当たり一帯は崩壊している。そして普通、このように環境が大きく変わった場所というのにテイカーが寄り付くことはない。当然、大穴が出来たように未開領域を見つける可能性もある。しかし同時に、生態系が変わっていたり音を聞きつけた生物型モンスターや警備ロボットがやって来る可能性もある。

 そのため、テイカーはすぐにこういった場所に寄りついたりはしない。だが少し時間が経つと探索する者も出てくるため、その前にめぼしい遺物を回収する。そのためにレイは、回復しきっていない体を動かしてこうして遺跡にまでやってきたのだ。

 大穴の場所まで来たレイはまず、店舗内に遺物が残っていないのを確認するとアンドラフォックで買った手榴弾を爆発させる。衝撃と爆発音が響き、店内は崩れ去る。そして煙が収まった時には、地下空間へと繋がる道が出来ていた。

 

(まずは成功か)


 二日前。この大穴から脱出できなかったのは、崩落しきらなかった淵の部分が返しのようになって登れなかったからだ。完全に床を崩落させてしまえば、返しは無くなり、また降り積もった瓦礫を上ることで容易に大穴から出ることが出来る。念の為にロープを垂らしておくが、必要になるかは分からない。加えて、少ない伝手つてを辿って情報屋から別の出入り口に関する情報も買った。

 情報屋はかなり飄々《ひょうひょう》とした奴で「初回だから安くしておくよ」と相場よりも安い値段で交渉に応じてくれた。また、ある程度探索されつくされた小規模遺跡の外周部ということもあり、元々の値段は安かった。時間をかければ別の出入り口ぐらい発見できる。故に機密性が低く。そのぐらいに安い情報だった。

 取り合えず第一目標を達成したレイは一旦胸をなでおろすと、地下空間へと入って行った。


 ◆


 レイが地下空間に入って1時間ほどが経過した時、商店街跡地に一人のテイカーがやってきていた。


「……かなり荒れてるわね」


 二階部分が破壊されつくされ、地面には瓦礫が転がっている一帯を見て、そのテイカーが呟く。

 手に持った情報処理機器に時より視線を向けながら、荒廃した商業地跡を順調に進んでいく。モンスターの姿は見えず、また当然ながらテイカーの姿も見えない。しかしあと地点でそのテイカーが立ち止まって、情報処理機器に初めて確実に視線を向けた。

 そこには赤い点が一つ。場所はそのテイカーの後ろ。しかし振り向いてみても何もいない。


(………地下?)


 この情報処理機器はあまり高価なものではないため、立体構造を正しく把握することは出来ず、稀に性能が良くなったり悪くなったり。それもかなり使い込んでいる端末であるため精度が落ちてきており、そろそろ買い替えるか修理した方がいい物だ。

 しかし、地図が更新されても赤い点があり続けて、動き続けているということは確かに、今足元にな何かがいるのだろう。それもモンスターではない、テイカーの可能性が高い。

 単なる勘だが、ここら一帯の崩壊と関連性があるのではないかと推測し、そのテイカーはまた歩き出す。今度は無駄に金のかかる、有料の探知アプリを起動させながら。

 そして同時に眼鏡型のスクリーンデバイスを取り出してかけた。情報処理機器の画面と連動しているため、レンズの部分にマップが表示されている。探索時や戦闘時に邪魔にならないよう細工も施されており、精度の高い自動マッピングを用いて探索の足を速める。

 そのテイカーはすぐに、地下への入口を見つけるとその《《店舗の中》》に入って行った。


「ここね」


 表の売り場とは別の場所にある展示場のような場所。今は跡形もなく破壊されているが、その痕跡らしきものが地下空間に落ちている。崩れた床からは地下空間が見え、そこまで高低差があるというわけでもなさそうだ。

 もし落ちたとしてもすぐに返ってこれるほどに。そしてこの大穴。確か前までは無かったものだ。ということは商店街跡で行われたであろう戦闘に関係しているのだろう。

 もしかしたら未発見の領域かもしれない。

 確か情報処理機器には赤い点が一つ映っていた。もしかするとこの場所を先に見つけたテイカーが探索をしているのかも知れない。

 だとしたらそうこうしていられない。遺物を先に盗られるわけにはいかない。もし取られていたとしたら奪えばいい。その蛮行が遺跡で許される。


「気は進まないけどね」


 地下空間の探索は面倒だ。しかし背に腹は代えられないと、そのテイカー―サラは地下空間へと飛び降りた。

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