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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『上』

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第85話 勝利に浸って

(あいつは仲間か? ……いや、違うか)


 混合型のハウンドドック。あれが先ほど戦った四体のハウンドドック、その仲間だと考えたが、だとしたら先の戦闘の際中に攻撃してこなかったのはおかしい。大方おおかた、戦闘音を聞きつけてやって来た全く関係の無い一体なのだろう。

 戦闘は突然に始まった。

 混合型のハウンドドックが少し背を低くしたと思ったら、次の瞬間に体を震わせて砲弾を射出する。直撃でもしたら体に穴が空き、爆発によって身体は爆発四散するだろう。そんな結末を容認できるはずもない。

 レイはハウンドドックが体を震わせた瞬間に危機を感じ取っていた。砲弾が撃ち出された時には店内からいなくなっており、当然、爆発には巻き込まれない。煙立ち込める店内にレイの姿が確認できないハウンドドックは、一度周りを見渡す。鼻を鳴らし、右前足を一歩踏み出して。

 注意深く周りを確認するが、先に攻撃を仕掛けたのはレイだった。

 すでに商業地跡の二階部分に、店内の非常階段を使って移動していたレイは、正確にハウンドドックの頭部を狙って引き金を絞った。撃ち出された弾丸は、全弾とはいかずともほぼすべてがハウンドドックの頭部に命中する。しかし金属音が鳴り響くと共にハウンドドックは少したじろぐだけであり、殺しきることは出来なかった。


(硬い…内部に装甲でもあるのか)

 

 相手は混合型モンスター。背中から生えた大砲からも分かるが、機械と生体が融合している。その部分は何も大砲だけとは限らない。体の内部まで融合して、皮膚、脂肪の下に皮下装甲のような防御壁が築かれているのかもしれない。だとしたら鳴り響いた金属音にも、殺しきれなかった理由にも納得できる。

 レイはもう少し発砲して、ハウンドドックに対して負傷を与えたかったが、怯みつつもレイの方を見て大砲を向けたため諦める。

 ハウンドドックはレイの方に大砲を向けると、吠えながら砲弾を撃ち出した。レイのいた付近は砲弾の直撃と共に崩れ落ちる。しかしその時にはすでにレイは場所を移していたため巻き込まれはしなかった。

 ただ、レイの動きはハウンドドックも捕らえていたため、続けて砲弾が放たれ続ける。一方でレイも走りながらにNAC-416を発砲し、ハウンドドックの攻略の糸口を探す。

 ただ無駄に撃ち続けていても厚い皮膚と脂肪、そして装甲によって阻まれる。


(――こいつ。どんだけ)


 一方でハウンドドックは一発でも当たれば死に至る砲弾を何発も撃ち込んでくる。すでに5発以上は撃っている。体内で砲弾を作っているのか、それとも貯蔵していたのかは分からないが、弾切れを起こしてもおかしくはない数。しかしハウンドドックはレイに向けて、砲弾を続けて撃ちこむ。

 度重なる攻撃によって半壊した二階部分は、その一撃によって完全に崩壊した。崩れ去る二階部分と共にレイも転がり落ちて行き、ハウンドドックも場所が悪かったため崩壊の下敷きになる。

 レイが立ち上がるのと、ハウンドドックが瓦礫を突き破って出てくるのはほぼ同時で、互いの姿を認識した瞬間から再度、戦闘が始まった。

 二階部分が崩れ、その瓦礫が地面には散乱している。レイにとっては足場が悪く移動しにくい。しかし同時に障壁の役割も果たす。さすがに近くにいたら砲弾の爆発で巻き込まれるが、少し離れていればその威力も弱まる。

 上、という地理的な有利は無くなったが、こうしてレイに有利な環境が再度提供されている。


「―――っそうなんども――」

 

 瓦礫から飛び出したレイが今まさに砲弾が撃ち出されようとしている大砲に向けて発砲する。

 神がかり的な射撃。

 撃ち出された弾丸は砲身の中を通り、その中に準備されていた砲弾に命中する。次の瞬間に爆発音が響き、ハウンドドックの背中部分がはじけ飛ぶ。血しぶきが上がり、それに混じってオイルのような黒く濁った液体も吹き出す。

 ハウンドドックがもう一度、さらに大きく吠えた。そして背中部分に窪みがありながらも、それを感じさせないほどに素早くレイとの距離を詰める。走って来るハウンドドックに対し、レイも発砲して応戦する。大砲が無くなったおかげで、また一直線に向かってくるために狙い易く。撃ち出された弾丸はハウンドドックの眼球にめり込む。

 しかし皮下装甲があるためにハウンドドックを殺しきれず、距離を詰められる。

 ハウンドドックがレイに向かって飛び掛かる。大顎を広げ、血しぶきとオイルをまき散らしながら。噛みつき。機械部分が無くなったことで生態部分の意思が強く出てきたのか。ハウンドドックらしい動きだ。

 だがその動きならばもう、何度も経験している。

 レイは慣れた動きで、ハウンドドックを躱すと。背後からむき出しの背中部分に向かって発砲する。爆発と共に皮膚、脂肪は当然のこと皮下装甲までもはじけ飛んでいる。

 背中に向けて撃ち出された弾丸は容易く臓器器官を破壊し、喉を貫く。

 弾倉に残っていたすべての弾丸を撃ちきった時、すでにハウンドドックは動かなくなっていた。


「……はぁ…はぁ…はぁ…」


 膝に手をついて息を整える。ゆっくりと、どこか怠慢な動きで弾倉を交換する。顔についた血を拭きながら、次は腰に手を当てて天井を見上げる。


「やった……」


 高価な遺物を見つけた時よりも達成感がある。確かに。その実感があった。

 レイは息を整えるとまたバックパックを背負い直し、拳銃とナイフを懐に収めた。そしてNAC-416を慣れた体勢で持ち直す。

 ハウンドドック一匹。その程度のモンスターを倒したところでテイカーとしての仕事が終わったわけではない。テイカーの本分は遺物の収集。まだ昼下がりだ、探索する時間は多く残されている。


「………っは。報酬か?」


 どこか、ゆく当てもなくただ勘で、遺物を見つけるために商業地跡を探索していた。先ほどの戦闘によって辺り一帯は壊滅状態だ。もはや遺物など残っていない。しかし、一つだけ違和感を覚える場所があった。

 そこは砲弾によってたまたま穴が空いたのが原因かもしれないし、崩れたことで見えたのかもしれない。

 ただ分かるのは。《《そこ》》は先ほどまで無く、戦闘の余波によって現れたということ。レイの視界の先には一つの大穴が映っていた。大穴とは言っても、どこかの店舗の壁に穴が空いて、その奥が見えているだけだ。

 ただそれだけだが、それが、恐らくだがまだ誰も入ったことのない未開領域である可能性が高かった。誰も立ち入ったことが無いということは、遺物がそのままの状態で残っている可能性が高いということ。まだ高価な遺物が残っているかもしれないし、そうでなくとも状態の良い遺物があるかもしれない。

 ハウンドドックに勝利した報酬かと、そんな風にレイは解釈しながら、だが注意深く大穴の中に入る。中は暗かった。レイはバックパックの中に入っていたライトを取り出して、中を照らす。そこまで広くはない部屋だ。部屋を取り囲むようにショーケースが置かれてあり、そこには装飾品が展示されていた。


(……ツイてる)

 

 情報端末や銃よりかは安い。しかしきらびやかな装飾に包まれたこれらの品は高価だと、レイでも分かる。そして遺物の中には、装飾品の中には防御機能を持つものなどもあるらしく、予想よりも高値で取引されることがある。

 全部で20点ほど、これだけあればかなりの金額になる。


「………」


 レイはおもむろに、高価な品物の魔力に誘われるようにショーケースの中の遺物に手を伸ばす。透明の保護ケースが破壊されている物が幾つかあったので、その中でも特に高価そうな品物を選んだ。

 それが悪かったかは分からない。ただテイカーとしてそのぐらいの警戒はしておくべきだった。


「――あ」


 部屋中に警報が響きわたる。暗闇だった部屋は照らされた。これだけ高価な品物だ。防犯設備ぐらいついているのが当たり前。レイは戦闘による疲弊と達成感から頭が回っていなかった。そんな当たり前の事実に気がつけずにいた。

 あるいは。

 レイは部屋に入る際は細心の注意を払っていた。防犯設備の可能性も危惧していた。しかし目の前に現れた高価な遺物に、目を奪われ、思考能力が低下したのが原因だったのかもしれない。

 ただ一つ分かることがすれば、レイはまた、ミスを犯したということぐらいなものだ。

 

「――まずい」


 天井が割れて、側面の壁が割れて防犯設備が飛び出す。ターレット、人型ロボット、機械人形。

 人型ロボットが足を踏み出して店内に入る。ターレットがレイに狙いをつけて射撃を開始する。

 だが幸か不幸か戦闘の余波で地面はすでにボロボロだった。ターレットのその一発が、人型ロボットの重みが、その衝撃を地面が耐えられるはずがなかった。床は、地響きを鳴らしながら崩れ去る。人型ロボットも機械人形も、展示されていた品物だって、すべてを巻き込んで崩壊する。

 そしてレイも崩落に巻き込まれ、暗闇の中、《《商業地跡の地下区画》》へと落下した。


「やっぱついてなかったか…いや、これは」


 俺の怠慢だと、そう思いながら。

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