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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『上』

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第84話 他愛ない殺し合い

「どうする。殺すか」


 あの女――サラは現在、簡易型強化服を着ているようには見えない。生身であればレイと対等だ。遺跡で出会ったあの時は違う。レイには大層な自信などないが、それでも対等な条件下での戦闘であれば分があると思っていた。

 今なら殺せる確率が高い。

 こちらだけが相手の存在に気が付いていて、相手はレイの存在に気が付いていない。状況は好都合だ。いつでも奇襲を仕掛けられる。それに、遺跡では殺されかけたが機械型モンスターを差し向けたことで何とか窮地を脱した。その時に恨みも買われているかもしれない。というより、恨みを買われていない方がおかしい。

 もし街中でばったり会った瞬間から殺し合いが始まる。だなんてことは十分にありえるし。現在の状況とは反対に、レイが彼女の存在に気が付いておらず、彼女がレイの存在に気が付いていたとしたら、逆に奇襲を仕掛けられ死にかけるかもしれない。

 今度のことも考えて殺しておく方が不確定要素が減って気が楽だ。


(というか、あいつあれを壊したのか)

 

 ここに今、無傷で歩いている。つまりはあの機械型モンスターを破壊したということ。レイはなんとか巡回中の機械型モンスターを上手く使うことで逃げ延びられたが、そうでなかったとしたら…。


「殺せるか、今」


 レイは恨みを買われている可能性があって、そして遺跡では確かな殺意を持って殺されかけた。現状、発見したのがレイで、発見されたのが彼女である。この状況がもし反転していたとしたら、レイはすでにやられていたかもしれない。ここで出会えたのは逆に運がいい。レイだけが彼女の存在に気が付くことが出来た。この機会を逃す手はない。


「………拳銃で行けるか」


 そもそも街中でどの程度の戦闘が許されるのか。ここら一帯は企業が治安維持を行っている場所ではないため企業傭兵ではなく警備隊が来る。それまでに猶予は僅かにだがあり、その時間で殺しきれればいい。

 だが騒ぎを起こすのも色々と考慮すべき事項がある。まず無関係の人を巻き込むことは出来ない。だとすれば事を荒立てずに殺しきる必要がある、が今のレイがそれを出来るかと問われれば怪しいだろう。相手も相手だ。何を隠し持っているかは分からない。

 もし失敗した時のリスクが大きすぎる。


「今は、いいか」


 レイは懐に仕舞った拳銃から手を離す。そしてサラとは別の方向に向かって歩き出した。


 ◆


 次の日。レイは修理を終えて元通りになったNAC-416を持って遺跡に訪れていた。場所はこの前と同じく商店街跡だ。前は異変を感じたため引き返したが、色々と遺物がありそうな店舗があったのでこうして、もう一度訪れている。お目当ての遺物などはないが、何かあればいいかなという程度の気持ちだ。

 だが一応、どの遺物が高いだとかは調べておいた。昨日はアンドラフォックの用事を終えてからは暇だったため、その時間を使って、という具合だ。電子機器や銃などは壊れていても、粗雑な品でも高値で買い取ってくれる。

 一方で現在の技術でも十分に《《量産可能》》なものは安くなる。言い換えれば、当然だが希少性が高く、現代の技術でも作りづらいものであれば高くなる。電子機器や銃はそれに付随して未開の技術(ロストテクノロジー)が詰まっているため、さらに値が上がる。

 だが大抵、そうした遺物は先駆者に盗られているか、まだ見つかっていない未開部分にあったり、遺跡の中心部にあったりする。この外周部でどれだけ遺跡探索を進めたところで、得られる物は少ない。だからと言って遺跡のさらに奥へと踏み込むのは、今の装備では心もとない。しかしそれでは得られるものが少ない。堂々巡りだ。答えは出ない。遺跡に置いて行動が評価されるのは結果を手にした後のみ。

 遺跡の奥に進んでも、このまま外周部で探索しても、遺物という結果を手にして初めてそれが正解になる。いうなれば進んだ道を正解にしなければならない。それがテイカーという者たちの定めだ。

 

「……行くか…?」


 そしてレイもまた悩んでいた。この商店街跡は遺物がまだ残っている。だがそこまで高い物が、というわけでもない。このまま、ここで遺物を探していてもテイカーとして食っていけるだろう。しかしそれではテイカーになった意味がない。

 無理無謀。

 命を投げ捨ててでも何かに熱中したい。その気持ちには、もしかしたら中部での出来事が関わっているのかもしれないが、レイはそのことについて深く考えたりはしない。


「………微妙だな」


 朝、修理したNAC-416を受け取るためにいつもよりクルガオカ都市を出るのが遅くなった。今から少し奥の方に入って遺跡探索を行う時間は残されているだろうが、不足の事態にも備えなければならない。奥に入れば入るほど遺跡から出るのに時間を要する。どちらを取るかという問題だ。


(まあいいか)


 ひとまず、この商店街跡で前に行けなかった場所がある。そこの探索を終えてからでも間に合うだろうと、レイは考えて歩き出した。だがすぐに立ち止まって目の前に現れたモンスターに目を向ける。


(またか)


 レイの目の前には四体のハウンドドックがいた。何度も戦い、何十体と殺してきたモンスター。幸か不幸か、遺跡にいるモンスターの中では弱い部類だ。だが遺跡の外で戦ったような、クルガオカ都市の建設現場で相対した二体のハウンドドックより二回りほど大きい。加えて数は四体。そして遺跡内という、レイにとって不利な環境下。

 五分五分、ではなくレイの方が嫌な状況だ。

 両者すでに戦える状態だ。後はどちらが先に動くか。結果としてはレイの方が僅かに早かった。


 レイがNAC-416を素早く構えると黒い毛が目立つ一体のハウンドドックに向けて撃った。ハウンドドックはレイが動き出すのとほぼ同時に動き出していたが、撃ち出された弾丸から逃れることは出来ず、眼球のあたりに着弾した。飛び散った血と、弾丸がめり込んだ衝撃で片方の眼球が潰れ、一時的に動きがにぶる。頭を振って吠える黒毛のハウンドドックに対し、レイの正確無比な射撃が追い打ちをかける。ハウンドドックの厚い皮膚を銃弾は容易たやすく貫き、頭蓋ずがいにまで届く。一発の弾丸で骨がくだけ、残りの弾丸が脳を破壊した。僅か数秒、レイは黒毛のハウンドドックを殺した。


(まずは一体)


 レイが殺した黒毛のハウンドドックは指揮個体と呼ばれる、命令を出し、狩りを効率よく行うためにいる個体だ。四体のハウンドドックに統率の取れた動きで襲われれば、圧倒的な暴力で蹂躙されるだけ。今のレイはNAC-416が主武器であり、これを使ってどうにか、技術と経験で相手を上回らなければならない。

 まずは指揮個体を殺す。第一の優先事項は達成された。

 その甲斐もあって指揮個体を無くした三体のハウンドドックは一瞬、動きが乱れる。統制の取れた動きに出来た僅かな隙を、レイが見逃すはずがなく一体ずつ仕留めていく。25メートルほどの距離。その程度ならば3秒あれば、ハウンドドックは目標を殺せる。だがレイもそれは同じだ。何せ、レイはハウンドドックが持てない重火器を所有している。距離はほぼ関係しない。

 だがさすがに指揮個体を殺した後だ。僅かに照準もブレる。指揮個体のように眼球辺りに命中させることは出来ないが、弾倉内に残ったすべての弾を使えば急所でなくても殺しきることが出来る。

 ハウンドドックは両脇から、左から一体、右から二体向かってきている。そのためレイは、まず左の一体を弾倉内の弾丸をすべて使い殺すことにした。

 周りの時間が止まりかけるほど、レイは集中しながら引き金を引く。

 撃ち出された弾丸はハウンドドックの胴体、足、頭といった全身に着弾する。一発一発が皮膚を容易く貫き、肉を抉るほどの威力があるためか、弾丸を全身に浴びたハウンドドックはボロ雑巾ぞうきんのようになりながら力を失い、瓦礫に体を強く打ち付け絶命した。


(――二体目)


 レイは二体名の死亡を確認せずすぐに目標を切り替える。敵は一体だけではない、残り二体がまだ残っているためだ。急いで弾倉を入れ替えるレイ。一瞬で弾倉の交換を終えたが、頭を上げるとすでにハウンドドックは眼前まで来ていた。


「――ッ!!」


 レイは横に飛び退くと共に無理な体勢から発砲する。弾丸はハウンドドック一体の足を胴体に着弾し、動きを鈍らせた。しかしハウンドドックは連携して動いている。もう一体のハウンドドックが飛び退いたレイに次の射撃を許さぬほどの速さで接近した。


 近づいて来るハウンドドックの大顎おおあごを間近で見ながら、レイは高速で頭を回転させ最適解を導き出す。この間合いでNAC-416のような長物を取りまわすことを危険だと判断し、すぐにNAC-416から手を離す。そして身軽になった体をよじらせて大顎から何とか逃れる。

 避けた際の速度と衝撃を殺しきれぬまま地面に倒れるレイに、先ほど動きを鈍らせた、もう一体のハウンドドックがさらに追い打ちをかけた。たった一度の呼吸すらままならないぬほどの切迫した状況。地面の上で仰向あおむけになっている状態のレイに、またしても大きく開かれた大顎が迫る。レイは瓦礫との衝突によって痛む体を強引に動かし拳銃を引き抜いた。

 大顎の中の咥内。歯と歯の間に挟まった何かの肉、それらが鮮明に確認できるほどの至近距離、だがレイの顔に恐怖や怯えといったものはなかった。それどころか歯を食いしばりながらも笑みのようなものを見せている。

 レイは大顎が自らの首を噛み切るよりも早く、腕を動かしハウンドドックの眼球に《《拳銃をめり込ませた》》。突然の衝撃と痛みで吠えるハウンドドックに対して引き金を引いて脳を破壊すると、ハウンドドックは一瞬で絶命する。そして死体が力なくレオの体に覆いかぶさるようにして倒れた。


(三体目。次)


 残る一体もすでに、レイに向けてその鋭い爪を振り下ろしていた。拳銃を動かし狙いを定める時間はなかったため、自らに覆いかぶさるハウンドドックの死体を蹴って、肉壁として利用する。しかし、中部にいた時のような力が無くなっていたため、ハウンドドックの死体は微動だにしなかった。

 だが幸い、振り下ろされた爪は肉壁として利用したハウンドドックの厚い皮膚を要り裂くだけでレオには届かなかった。そしてレイはすぐに死体の下から潜り抜ける。

 拳銃を眼球にめり込ませ殺そうかと考えたが、手が届かない。弾倉の中に残る弾もわずかであり殺しきることは出来ない。この位置から発砲してもせいぜい、喉辺りを狙うのがぎりぎりだ。

 最後の最後、レイは拳銃から手を離しナイフを手に持った。

 対峙するハウンドドックも怒りに身を震わせながら大顎をひらく。

 先に行動したのはハウンドドックだった。強靭な身体を使い、レイに飛び掛かる。しかしレイの方が上手うわてだった。ハウンドドックの開いた大顎を下から蹴りあげ閉じさせる。そしてしゃがみ込みふところに入るとナイフを握り締め、ハウンドドックの喉に突き刺す。相手の飛び掛かってきた時の勢いと、レイの突き出した時の勢いが合わさり、ナイフはハウンドドックの分厚い喉を貫通する。

 切り裂いた際に血がレイの顔に飛び散った。

 ナイフを握る両手にかかる重さに耐えながらレイは、さらにナイフを深く突き刺す。ガリッという骨とナイフが当たる音と共に、力なく瓦礫の上に倒れるハウンドドック。そして断末魔のような鳴き声が響いた。

 レイは肩で息をしながらナイフを見た。刃が折れている。そして苦しそうに息をしながら倒れているハウンドドックを見てみると、切り裂いた喉にナイフの刃が刺さっているのが見えた。

 レイは痛む体を動かし、NAC-416と拳銃を拾うと、地面に倒れ苦しそうに息をするハウンドドック(最後の一体)に向けて引き金を引いた。


「……四体目」


 レイは呟きながらハウンドドックの死体を見た。


「……はぁ。やっぱダメだな、武器を高性能にしてもこれだと……外骨格アーマ―、欲を言えば強化服が欲しいな」


 今の稼ぎでは絶対に買うことができない装備達を心底、切望せつぼうしながら呟くレイ。だが今日の探索でそれらを買えるだけの高価な遺物を発見できる可能性がある、と前向きに考えたレイは手に持ったナイフを見た。

 刃が折れ、もう使い物にならないだろう。新しいのを買わなければならならず、これでアンドラフォックには三日連続で通うことになった。


「まあいいか」


 レイはあまり深くは考えないようにした。


「行くか」


 そして、NAC-416と拳銃の弾倉を入れ替え、防護服の損傷個所を確認したレイは、遺跡探索へと戻った。

 次の瞬間にレイの背後で何かが爆発した。衝撃でレイの体はぶっ飛び、どこかの店舗の中に転がり入る。


(なんだ――!!)


 背中に焼けるような痛みを覚えながら、レイが立ち上がり店の外を見る。


(ハウンド……いや)


 ハウンドドックの様だが違う。四足歩行で、そのシルエットはハウンドドックに似通っている、しかし背中に異物が装着、いや生えている。


「混合型か」


 生物型モンスターと機械型モンスターの中間に位置する混合型モンスター。生体と機械が組み合わさった奇怪な姿かたちをしている。その混合型モンスターがレイの目の前にいた。

 素体はハウンドドックだ。しかし背中から生えている大砲。明らかに普通のハウンドドックとは違う進化を遂げた個体。

 初めて、レイは混合型のモンスターとあいまみえた。普通ならば驚きか恐怖か、少なくとも笑顔だなんて表情は浮かばない。


「っはは。いいね」


 しかしレイは、無意識の内にうっすらと笑っていた。

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