第60話 憂鬱な日々に鈍痛を
反政府主義者たちの施設を出てすぐにヘッケンカトラーという武器屋がある。他都市にも同時展開しているほど有名な武器屋だ。
現在、レイとロベリアは施設から出てすぐ隣にあるヘッケンカトラーの店舗前に立っていた。
「外に出ても良かったのか?」
すでにこうして外に出てしまって、今さらという感じなのだがレイがロベリアに訊いた。特別12管理区はその特性上、部隊こそ置くことが出来ないものの、それを補うように監視カメラがそこら中に設置されている。施設が監視カメラの少ない一帯に建てられたということもあって、レイの存在がカメラに映し出されることはないが、もしもということもある。
目的地であるヘッケンカトラーは施設のすぐ隣で、移動の際に存在が露呈する可能性は低い。しかし危険性も確かに存在する以上、レイとしては一応、確認を取りたかった。
「別に大丈夫だよ。どうせ隣だし、それに怪しい奴が近くにいたら施設の監視網に引っかかるしね」
「…ならいいが」
レイは一旦頷いて意識を切り替える。
そしてロベリアはヘッケンカトラーの戸を叩いて、店内へと入って行く。中に人はおらず、カウンターの奥に店主と思われる人物がいるだけだった。
「おひさ、ブロック」
ロベリアは真っすぐにカウンターの方まで歩いて行き、大柄の男に話しかける。
「よおロベリア。昨日ぶりだな。後ろのガキが?」
「そうだね。知ってるでしょ?」
「まあちょっとだけだけどな」
レイと店主――ブロックとの目が合う。
どこかで見たことがある、レイはブロックを見てぼんやりと思った。そしてすぐに挨拶をしておく。
「雇われて今回の作戦に参加することになった。レイだ」
「ああ知ってるよ」
ブロックは手に持っていた物をカウンターの上に置いて、そしてカウンターから出てくるとレイの元まで行く。
「おい。お前は今回の作戦、どれぐらい大事なことか、本当に分かってるか」
「………」
ブロックはレイを睨みつけ、威圧的に話す。
「どのくらいの人材が導入され、どのくらいの仲間が犠牲になったのか、分かってんのか? 今回の作戦は反政府主義者の反撃の狼煙となる。失敗は許されないんだぞ、分かるか? たった一つのミスも許されない、その判断ミスが仲間の足を引っ張る。それでもお前は、この作戦に参加するのか」
真っすぐに目を合わせ、大柄の体と雰囲気でレイを圧倒する。しかしレイは毅然とした表情で言葉を紡いだ。
「そんなことは俺の知ったことじゃない」
「…………」
レイは続ける。
「俺は俺の仕事をただ完璧にこなすだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。雇われ、報酬を支払われる者として当然のことをするだけ、当然、ミスをする気も仲間の足を引っ張るつもりもない。もし不満があるなら、今ここで信頼に足る人物なのか証明してもいい」
見た目の年齢と大幅な乖離を感じるほど、毅然としてレイは啖呵を切った。
ブロックは一瞬、驚いたような感心したような表情を見せて、そして笑い飛ばすように言う。
「――っは。それでいい。俺らは友達じゃねぇ仲間だ。仕事が第一優先。まだ若ぇのに良く分かってるじゃねぇか」
ただの仕事上の付き合い。そこに感情は無く、ただ行動と結果のみが考慮される。そんなブロックの考え方と似たものをレイも持っていた。そのためにブロックは気分を良くして、ロベリアに言う。
「どこで拾ってきたこんな奴。中々に肝っ玉座ってるじゃねぇか」
ガハハ、と笑うブロックにロベリアはあきれ顔で返答する。
「だから前にも言ったじゃない。実力はあるって…それに見た目で判断すると痛い目見るわよ」
「確かにな。ただこいつは見た目通りだろ?」
「まあそうね」
そしてブロックはレイの方に向き直る。
「いいぜ。作戦時に使う武器の選別は俺に一任されてる。気に入った。特別に好きなやつを選ばせてやる。一般ではどう頑張ったって入手不可能の武器たちだ。作戦の相棒になる、慎重に選べよ?」
ブロックはそう言って、ヘッケンカトラーの倉庫裏にレイたちを案内する。厳重に閉じられた鍵を解き、入ると倉庫裏は案外広く、幾つもの箱が積まれていた。そしてその中で、一際目立つものが置いてあった。
壁や地面に並べられたガンラックに幾つかの銃が並べて置いてあった。狙撃銃、散弾銃、突撃銃、拳銃、ナイフに至るまで様々な種類の物が種類別に区分けされて並べられている。
「ここから好きなやつを選べ。今すぐに渡せるわけじゃないが、他の奴に取られないよう、俺が保管しておいてやる」
「いいのか?」
「いいぜ、このぐらい。最高の仕事には最高の装備だろ?」
「……っは。確かにな」
レイは呟きながらガンラックに近づき、適当に目についた拳銃を手に取る。
「これはなんだ」
拳銃の細部まで眺めながらブロックに訊く。
「…ああ確かにな。知らねぇのも無理はねぇか」
市販では絶対に回らない品物。レイが知らないのも無理はなかった。
「そいつはFOX-44。元はバックラックナイト社が個人向けに受注生産してた代物だ。拳銃でありながらバースト、フルオートと変更できる点が魅力だな。内部機構の改造でかなり性能も良くなる。価格は高い。威力も十分だ。まあ、だから議会連合に規制されちまったんだが―――まあ一言で言えばイロモノな武器だな。実戦で使うのにはちと、ピーキーすぎる性能だ。どうする、そいつにするか」
当然、このFOX-44とやらをレイは使ったことがない。だが説明を聞く限りではあまり良い代物じゃなさそうだ。
「…いや、やめとくよ」
レイはそう言ってFOX-44をガンラックに戻すと、別の拳銃を手に取る。
「こいつはどんなのだ」
「ああそいつはな。東部との緊張状態が続いた時に生まれたもんだ。かなりいわくつきの代物でな。かなり―――」
「ちょーっと! その辺でストップ。私も選びたいし、このぐらいゆっくり選ばせた方がいいでしょ。聞かれてたら私でも答えられるし」
突然、ロベリアが二人の話に切って入った。その様子を不自然に思ったブロックがロベリアの方を向く。
「あ?お前の武器なん、て………」
だが途中で、ブロックは口を閉じて、そして知ったように笑う。
「ああ分かったよ。好きに選べ、だがいつものやつからあまり変えないようにな」
「分かってるわよ。そもそも私がいつも使っているのはRF-44だけ。今回は長物も必要でしょ」
「――っっっは!確かにな!」
ガハハと笑いながらブロックが倉庫裏から消えて行く。その後ろ姿を唖然として眺めていたレイの耳元でいつのまにか近づいていたロベリアが声をかける。
「レイ。その拳銃はね」
そう言いながらロベリアはレイの持っていた拳銃を指さす。
レイはそんなロベリアの顔を見て、呟く。
「いいのか?わざわざ教えてもらって」
「全然かまわないよ。私達は仲間でしょ」
「………まあそうだな」
「ふふ。それはね……」
その後、ロベリアとレイの二人は二時間ほど武器選びに熱中した。
◆
PUPDの隊員が使っている病院で一人の隊員が目を覚ました。大柄のその男はゆっくりと体を動かして上半身を起こす。痛みはない、しかし左半身が動きにくい。
「…無理も無いか」
当然だと男が呟く。
少年との戦闘。少しでも気を抜けば即死の勝負。最高の状態、状況を揃えてなお、最後は味方からの支援が無ければ殺されていた。
「ありがとう」
ミーシャ、リリサ、トリス……と味方に感謝する。
大柄の男――ダロトは左半身を庇いながら周りを見る。ベットの横には小さなテーブルがあり、その上には花瓶と一つの《《手紙》》が置かれてあった。
「…なんだ」
宛名は書いていない。内容も。疑問に思いながらダロトは手紙を手に取って、封を開けて中を確認する。
『ダロトさん。恐らくあなたは今日起きるでしょう。そしてこの手紙を見るのがいつになるのかは分かりませんが、できるだけ早く確認してくれることを祈ります。単刀直入に、作戦は失敗しました。あなたが倒れてから少年は拘束されましたが、逃げ出し、その際にミーシャ隊長やリリサさんなど、部隊員四名が死亡しました。他部隊からも多数の死者が出。二十人以上が殉職しました。その後、少年は特別12管理区へと入り、僕達の行動は制限され、また出動命令も出されませんでした。そして今日、議会連合から通達があり、今回の案件は反政府主義者との関係や特別12管理区に関する繊細な問題など、僕達には無理だと、そう判断されました。よって、これからはピルグリムクッキーズの案件となります。引継ぎは二日後に行われる予定です。それまでにヒンシャとして活動し、あの男を殺しきるのは不可能に近い。これ以上組織に居ても何も成し遂げられない。だから僕はこれから個人ですべてを終わらせてきます。全員の敵を僕が取ります』
手紙に宛名は記されていなかった。しかし誰がこの手紙を書いたのか、ダロトにはすぐに分かった。
「…トリス、お前」
何馬鹿なことを、とダロトが呟く。
PUPDを抜けて、今までのすべての功績を投げ捨てて、復讐に身を焦がす選択をした後輩に、ダロトは馬鹿だと何度も思う。
「馬鹿が。お前だけじゃねぇよ。ったく」
ダロトの弱弱しい声が、静かな病院に響き渡った。




