第364話 テイカーの軌跡
立ち上がったレイは自らの体を確認した。
無くなった指は六本。右の足首から先は無いし、右腕は折れ曲がっている。右腕の負傷に関してはQuantaで補強すれば十分だ。指は残った塑性粒子で賄えばいい。
足は割り切るしかない。
どうせ長くは戦はない。レイはたった一発をぶち込むためにいる。
Quantaによって右腕は黒く染め上げられ、装甲が作られる。そして手に握られているのは爆弾だ。
「最後だ」
レイは呟くと爆弾を背後に向かって投げた。
その瞬間、爆弾は爆発しレイは爆風によって前方に吹き飛ばされる。吹きとばされる寸前に前に向かって全力で地面を蹴っていたので、レイはすさまじい速度で飛ぶ。目的地は案外離れているが、この速度ならば数十秒。
戦いの余波によって倒壊した建物が並ぶ遺跡。今もレイブンとアールがエレネイアと戦っている。
遺跡にいたモンスターはただ巻き込まれるばかり、建物はなぎ倒され両者の戦いを阻む者は何もない。もはやその三人だけの空間と化した遺跡にレイは入り込む。遺跡のところまで着くと同時にビルを蹴って方向を転換し、レイブンとアールの方を見ながら後方に飛んでいるエレネイアに近づく。
気配を極限まで消す。
遺跡でモンスターから逃げるために、隠れるために、奇襲をするために身に着けた技。
テイカーとしてエレネイアを討つ。
Quantaが起動し、右腕には黒刀が握られた。亜音速でレイはエレネイアの元までたどり着く。本当ならばエレネイアはレイに気がつけた。しかしアールとレイブンという命を賭さなければ殺せない相手に集中していたこともあり、極限まで隠密に力を振ったレイに気がつけなかった。
気がつけたのはレイがすぐ傍に来た時だった。
急いで対処しようにも刀を振る方が遥かに早い。
頭部と胴体を切り離し、次に縦に刀を振り下ろす。十字架を刻まれるようにエレネイアの体は四分割され――しかし生きていた。眼球はレイを見て、そして次の瞬間、レイの胴体に穴が空き荒野へと吹き飛ばされた。
「っは」
レイは血を吹き出しながら荒野へと飛ばされる。
しかし悔いはない。レイが浴びせた一太刀。それがエレネイアを討つきっかけになってくれればいい。事実、あの行動によってエレネイアはレイに意識を割き、再生に力を使わなければならなくなった。
どうなるか、あとはレイブンとアール次第だ。
死にかけているが久しぶりに清々しい気持ちだ。レイはそのまま荒野へと落下し、勢いのままに引きずられながらやがて止まる。
「はあ……」
暗闇。
誰もいない荒野でレイは息を吐く。そして何か、最後に独り言でも呟こうとした時、視界の中に見覚えのある顔が入って来た。
「よお。こんなところで何ぶっ倒れてやがる」
「ハカマダじゃ……ねぇか。生きてた、のか」
覗き込んだのは戦いを乗り越え、負傷を負いながらも生き残ったハカマダの姿だった。
眼球を動かすと少し離れたところに記憶合金で体を守り、また負傷を癒すイースの姿があった。眼球にも記憶合金があるということは、イースが眼球をやられたらしい。
「あとは任せてろ。とはいっても俺らももう装備が残ってねえからな。見守るしかねえが」
ハカマダはレイに回復薬をふりかける。そしてイースに合図をして治り切らない場所を記憶合金で一時的に補強した。
「まあ、俺らはここで見てるか。それともどうだ、まだやるか」
ハカマダはレイに上半身を起こさせて支えながら、荒野を見て呟いた。同じように荒野を見ながら両者の戦いを見ていたレイは疲れたように呟く。
「もういいよ……さすがに疲れたな」
「はは! 俺もだ」
そう呟くと、レイはゆっくりと目を閉じた。




