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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
終章――ロストテイカー

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363/366

第363話 ゴエティア

 ハカマダからもらい受けた設計図に描かれていたのは二挺の銃剣。かつて亡霊レイブンのいた世界で特別災害指定個体と同じ分類のモンスターを殺したことがある武器だ。

 撃ち出した弾丸は空間を撃ち抜き、納められた剣は空間を断裂させる。

 

 しかしゴエティアでもアモンとバルバトスの融合体を殺しきれるとは限らない。相手は特別災害指定個体二体が合わさっている。これで強さも二体分だ、とは簡単にならないが、少なくともその程度には強化されていると見込んでいい。

 何せ二体が融合した後、食い合うわけでもなく共生し、こうしてまた新たなモンスターを生み出しているのだ。これは偶然ではなく必然。マーセラフィム・ワルスキャナがバルバトスとアモンを作った際のプログラムに仕込まれていたのだろう。

 

 ハカマダからもらい受けた秘密兵器を使ったとて相手になるか分からない。一方的に蹂躙することはありえない。恐らく拮抗した戦いになる。それでいて勝負は一瞬だ。

 相手はバルバトスの性質を宿している可能性が高い。その場合、戦闘が長引けば耐性を獲得されゴエティアでも殺しきれなくなるかもしれない。それでいてクロムの耐久力も引き継いでいる場合、そう簡単には殺せない。

 クロムの耐久力で攻撃を受け、バルバトスで耐性を獲得する。

 目の前のモンスターがそのどちらともの性質を受け継いでいる場合、戦闘が長引くだけジリ貧。勝負は一瞬で決め切らなければならない。

 

 いつもならば得物を持った瞬間、先手を取って攻撃する。

 しかし今、レイは動けず。同時に目の前のモンスターも動こない。周りを取り囲む壁、場は閉塞感に満ちている。強敵と対峙した際にいつもならば場に緊張が走る。張り裂けんばかりの静寂と焦燥。

 しかし今はそれが無い。

 緊張も不安も焦燥も慢心も無い。

 

 酷く冷静に状況を見れている。恐らく戦いは10秒とかからずに終わる。攻防は一瞬。僅か一手で終わるかもしれない。

 ゴエティアの攻撃方法。

 果たして何か。体に這わせた茨か、バルバトスのように触手を伸ばすのか。それとも別の攻撃手段があるのか。


 いずれにしても目の前のモンスターと向き合ったまま動かないこの時間がこれ以上長く続くとは思えない。

 迫っている。 

 合図。

 遥か遠く。遺跡のある場所で亡霊とアールがエレネイアと戦っている。そしてハカマダとイースが戦っている。各地から鳴る爆発音。銃声。地面が破裂する音。空間が割れる音。

 耳を澄ます。

 周りから聞こえる戦闘音と共に地面が抉れる音がした。レイの足元から。


 その瞬間、レイはゴエティアをおもむろに地面に向けて放つ。弾丸は地中に這っていたアモンの茨を撃ち抜く。『神墜とし』でも負傷を与えることができなかった茨を一発で断裂させ、そこから連鎖するように茨は破裂していく。

 異常を察したモンスターは地中深くで根を差していた茨を途中から切り離し、レイを見た。その時に、ちょうどレイは地面を強く踏みつけモンスターに接近しようとしていた。

 

 レイが足に力を入れた時、目の前を夥しい数の茨が覆う。地中で張り巡らされていたアモンの根が今地上に飛び出した。全方位を囲い、足元からも再度襲い掛かる。しかしレイはこれまでのテイカー稼業の中で自分よりも遥かに強いモンスターに全方位から襲われることに慣れている。 

 決して土壇場での付け焼刃などでは無く、テイカーとして生きて来た基礎が土台となってその対処に一切の迷いも間違いも見られない。前方や上下、左右、背後に至るまでレイは襲い掛かる茨を認識し、対処しなければならない優先順位を考えるまでも無く無意識の内に設定する。

 銃剣で切り裂き、あるいは撃ち抜く。

 弾は切れず、あらゆるものを撃ち抜き、切り裂く。加えて切り裂いた後、ゴエティアは対象の組織を破壊する毒を即座に製作し、打ち込み、繁殖させる。それはウイルスのような構造を持ち、しかし細菌のような自己増殖を繰り返す。

 レイが弾丸を撃ちこんだ瞬間、茨が連鎖的に崩壊していくのはこれが原因だ。

 背後からの茨に対しては左手で持ったゴエティアで切り裂いて対処すると共に、他の方向は二挺のゴエティアで弾丸を撃ちこんで破壊していく。たった一発で茨は砕け散り、連鎖的に崩壊する。

 モンスターは崩壊が茨全体に伝播する前に自切することで逃れるが、失ったものは大きい。レイの周りを取り込んでいた茨の包囲網は解け、レイは一瞬でモンスターとの距離を詰める。

 

 しかしすぐに茨は再構築し、再び目の前を覆った。

 レイは止まらず、もう一度弾丸を撃ちこむ。これで一瞬でも道が開ければモンスターの元までたどり着ける。

 弾丸が茨に着弾した。当然、弾丸は突き抜け茨は破壊される。その後、茨は弾丸の効果によって自壊を始め――崩壊が伝播しない。茨には弾丸が通り抜けた穴のみが存在し、それ以外は無い。

 適応されている。


(――使うか)


 ゴエティアには一度しか使えない弾丸がある。今それを使うか。しかしモンスターの本体を殺す手段がなくなる。今は身を削って道を切り開くしかない。

 持つ手を変え、完全に剣として銃剣を扱った。

 遅いかかる茨を切り落とし、撃ち砕き、なぎ倒してく。しかし無尽蔵に現れる茨を前に対処は追いつかなくなる。その際に塑性粒子の壁を使い、後方を守り抜く。

 しかし。


(早い―――っ!)


 茨は塑性粒子を侵食し、破壊する。

 すでに適応された。バルバトスの適応能力は西部で戦ったあの時よりも進化している。アモンと融合したからかは分からない。しかしただ現実として適応能力は飛躍的に上昇していた。

 

 塑性粒子に適応されたことで防御手段を失い、茨がレイの体を直接触れた。茨の全身に生えた棘。それは先端に粘着性のある液体が付着しており、対象に触れることで棘は抜け、対象に付着する。

 その瞬間に寄生が開始する。

 バルバトスによってその寄生する速度、増殖する速度はさらに上がっている。


 強化服に触れた茨は棘を付着させ、一瞬にして強化服を蝕んでいく。10秒とかからずに肉体に到達し、食われるだろう。しかしその前に殺す。

 剣を振り下ろし、目の前を覆う茨を切り裂く。 

 しかしその先に広がっているのは幾層にも重なる茨の壁。本体はすでに遠くに移動している。茨は体を蝕み続けている。茨はレイに対して耐性を獲得している。


 それがどうした。

 

 レイは塑性粒子が壊され、総残量が減っているのを感じながらも剣を振り下ろし茨を切り開らく。体中に茨が突き刺さり、棘が侵食する。すでに強化服は性能のほぼすべてを失い、レイは肉体性能だけで茨の森を行進する。

 両手に持った銃剣すらも茨に浸食され始めた時、体全体に茨が巻き付いた後、レイはバルバトスとアモンの融合体を目に焼き付ける。すでに臓腑が食われ始めている。寄生されていた。


 口からは血を吹き出し、爪は剥がれ、片目は無くなっている。

 それでもレイは突き進み、たどり着いた。

 融合体の元へと。


「死んでくれよ」


 恨みを込めて、願いを込めて、レイは呟くとゴエティアに搭載された一度きりの機能を解放する。

 ゴエティアは空間に作用する兵器だ。

 撃ち込んだ弾丸は空間を貫き、剣は空間を断裂する。その機能の複合技。ゴエティアを震源地として空間ごと破裂させる。レイすらも巻き込んだ自爆。


 今、レイはそれを起動する。

 一瞬、暗闇に包まれていた荒野を閃光が照らす。その光量故に遠くにいたハカマダやレイブンでさえレイが何をしたのか理解できた。しかし各々が自分の戦いに集中しているため、レイに対しては一切の気をかけることはできず、その爆発を横目で見ることしかできなかった。


 荒野を駆け巡った一瞬の閃光が収まったその直後、音すらも消し飛ばす空間の爆縮が引き起こされる。

 荒野全体に広がった閃光は吸い込まれるようにレイの元まで収縮すると、次の瞬間にもう一度閃光が広がる。先ほどよりも強く、広く、儚く。

 

 火柱など起きず、爆炎など上がらず、ただ凄まじい空間の悲鳴を轟かせながら爆発は起きた。

 それは瞬きする間に終わり、気がつくと打規模なクレーターが出来上がっていた。周囲を覆っていた茨や地中を這っていた茨はすべて巻き込まれ消失。そして打規模なクレーターの中心にはレイの姿があった。

 辛うじて肉体としての形を保っているだけで皮膚は焼け焦げ、千切れている。両手を合わせて六つ指が千切れていた。それだけではない、右腕は別の方向に折れ曲がっているし、右の足首から先は無くなっていた。


 しかし生きていること自体が奇跡だ。

 アモンとバルバトスの融合体。もしレイが負けて逃がしていたら亡霊たちは危なかった。

 たとえ自身を犠牲にしてでもここで殺せたのは大きい。


 たとえ膝を付き、息すらも朧げでも勝てたのは何よりも重要だった。まさか見返りの無い、自分にとって関わらなくてもいい戦いに参加する時が来るとは思わなかった。

 自分の為の利益のために行動していたのに、まさか世界の命運だとかそんな意味の分からないことに首を突っ込んだ。


「ふう……」

 

 地に手をついて立ち上がる。

 強化服は破け、塑性粒子を失った。満身創痍。しかし立っている。まだレイにはアモンが寄生している。レイ自身が生き残ったせいでアモンを殺しきることはできなかった。

 このままアモンを道ずれにするために死ぬか、それとも最後に手を貸すか。

 後者しかないだろう。

 燃え尽きる命で慣れない人助けと行こう。

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