第362話 蓋環寄生体アモン
蓋環奇生体アモンは東部にある遺跡から発掘された兵器の一つだ。基本的には生物に寄生することで繁殖を続ける。寄生されれば今、レイの目の前にいる者達のように体全体に金属光沢のある茨が巻き付き、一目で分かる見た目をしている。
基本的に寄生された者は強力な身体能力を得る代わりに行動のすべてをアモンに支配される。しかしレイが見る限り目の前の者達は自意識があるようだ。いくら特別災害指定個体と言え別世界のマーセラフィム・ワルスキャナからの干渉を受けたエレネイアの支配を逃れることはできなかったようだ。
アモンの寄生されても特別な耐性が施された人造人間は意識を奪われず、またアモンにすべてを侵食されるわけでもなく、現在は寄生というより共生している。アモンによる身体強化の恩恵だけを受け、白装束の者達は身に撒いた茨をレイに向けて放つ。
その瞬間、白装束の者達は電磁機構砲台によって身体の半分を撃ち抜かれる。
それでも残っていた身体の部位も続けて放たれた電磁機構砲台の銃口から伸びる稲妻が通り過ぎ、次の瞬間には肉片すら残さず弾き飛ばされていた。
(さて、ここからか)
この程度でアモンを殺せるとは思っていない。今のレイの装備を相手にアモンの力を借りて少し身体強化した程度の白装束の者達では格が違いすぎる。しかし白装束の者達を殺せたところでアモンを殺せたとは思っていない。
レイは電磁機構砲台を撃ち続け、白装束の者達が炭になっても生き残り続けるアモンの茨を攻撃する。しかし有効なダメージは与えられず、逆に人造人間が死んだことでアモンは自由になった。
エレネイアと人造人間によって非活性化状態に抑えられていたが、縛っていた者が死んだことで活性化状態となり特別災害指定個体としての本来の力を取り戻す。
本来ならば白装束の者達と同時にアモンを殺しきりたかったが電磁機構砲台で殺しきれないのならばそれこそ『神墜とし』でも撃ち込まなければならなかった。現状、ここがレイの最後の戦い。
最初から最大火力をぶつけてもよかったが、敵が後ろに控えている可能性を考慮してQuantaを温存した。それが吉と出るか凶と出るかはこれから分かる。
蓋環寄生体アモンは一瞬にしてその肉体を膨れ上がらせる。同時に、電磁機構砲台でも砕くことができなかった白装束の者達が持っていた装飾品にひびが入る。今までアモンによって隠されていたカプセルのような装飾品。
レイがそれを見た瞬間にQuantaは突撃銃から『神墜とし』へと姿を変えた。
カプセルに入っていた緑色の液体には見覚えがあった。数十時間前にもクラウディアの拠点を襲撃した時に見ている。カプセルの中に入っていたのはバルバトスだ。前は特効薬を打ち込むことでバルバトスを殺しきることができたが、今回はアモンがいるせいで障害となって打ち込むことができない。
加えて、アモンが持っているもう一つの性質。寄生した対象の性質を引き継ぐという厄介なもの。バルバトスに寄生した場合――寄生できてしまった場合、その脅威度は各段に上昇する。
今すぐに殺さなければならない。
一瞬にして造形された『神墜とし』はアモンの座標が組み込まれ、引き金が落とされる。
アモンのいた周辺の空間が歪む。その直後、小規模空間に亀裂が走りアモンは圧力によって潰された。
しかしアモンは鉄のような形と色を保った茨のまま、地面に押し付けられるだけで殺せていない。そしてバルバトスはカプセルに守られ、またアモンの茨に包まれていたおかげで生き延びている。
そして目を凝らしてみてみるとカプセルから漏れ出したバルバトスとアモンが食い合うように茨の中で溶け合っていた。食い合っている。すでにバルバトスはアモンに寄生されたか。レイは『神墜とし』もう一度落とす。しかし茨に対してダメージを与えることができない。
『神墜とし』でも殺せない。しかし当たり前のことだ。アモンは元来より『神墜とし』の直撃を受けようが生き残れる頑丈さがある。
これはバルバトスに寄生し性質を受け継いだからこそ『神墜とし』から逃れたわけではない。アモン本体の硬さ故。『神墜とし』でバルバトスを殺しきれたのは相性がよかったからだ。バルバトスがあらゆる事象に適応するとは言ってもそれには上限がある。異常なまでの繁殖力と適応力の代わりに肉体強度がそこまで高くはない。そのため『神墜とし』でも対処しきれた。特別災害指定個体の中で放置した場合の厄介度、危険度では最高水準にいたが、繁殖する前であれば腕利きのテイカーでも殺しきれる耐久性のモンスターだった。
しかし外環寄生体アモンは違う。特別災害指定個体らしい肉体性能。『神墜とし』ですら僅かな負傷しか与えられない。寄生するというのはあくまでもアモンにとって複数ある戦い方の内の一つというだけ。アモンは別に寄生せずとも、モンスターとして他とは隔絶した力を持つ。
目の前にいるのは特別災害指定個体だ。
レイは対処を間違った。
気がつけばバルバトスは茨の全身に触覚を広げ、同時にアモンもバルバトスの性質を吸収していた。
(……違う)
食い合っているのではない。アモンが寄生しようとしているわけでも、バルバトスが侵食しようとしているわけでもない。アモンとバルバトスは今《《共生》》している。
特別災害指定個体に該当されるモンスターはアールのいる世界を終わらせるため、別の世界のマーセラフィム・ワルスキャナが遺跡を送った際に切り札として用意した個体群の総称だ。
一体ずつが遺跡を守り、星を覆いつくさんとプログラムされた破壊のための生物。
エレネイアと亡霊たちとの戦いによって総数72体にも及ぶ特別災害指定個体は処理されたが、まだ七体残っていた。それがこの世界に遺跡と共に送り込まれ、特別災害指定個体として機能している。
元々は同じ目的のために、同じ開発者から生み出された生物。
共食いなどせぬようプログラムされているのが当たり前だ。そして共食いしないように《《だけ》》プログラムされていればいい。共生することで変態を遂げる可能性も考えられる。
加えて、相手はエレネイアだ。別世界のマーセラフィム・ワルスキャナからと特別災害指定個体についての情報を受け取っていてもおかしくはない。もしその推測が当たっていればなぜアモンで強化した部下にバルバトスの入ったカプセルを忍ばせたのかその理由は納得できる。
『神墜とし』での攻撃も虚しく、外環寄生体アモンと典痘災害バルバトスは完全な共生を迎える。
それは一つの生命体となり、人型を形成していた。しかし人型であるというだけで、体からは茨が千切れたコードのように出ているし、バルバトスの体を構築する肉片が常に全身を流動している。
もはや『神墜とし』は効かない。バルバトスはすでに『神墜とし』に適応している。
バルバトスとアモンが融合したあのモンスターが動き出す前にレイは殺しきる手段を用意する必要があった。幸い、その手段はある。少し早いが、ハカマダから貰った設計図を試す時だろう。
すでに脳内に地図は叩き込んである。今回は亡霊やアールもいた。どのような物質で作られて、どのような構造をしていて、どのような理屈で動いているのか、それらすべてを知ることができた。
『神墜とし』よりもより正確に、より早く、より本物に近い形での造形が可能。
脳内に記憶した記憶と伝え聞いた情報と共に、設計図通りにその物体が作り出される。
体感としては1分にも及ぶ長考。実際には1秒にも満たない僅かな時間。
レイはその時間で設計図通りの武器を作り上げた。
『ゴエティア』。レイが《《両手》》に持つ銃剣の名だ。




