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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
終章――ロストテイカー

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361/366

第361話 決戦は突然に

 アールは人格再生機構としてレイの体内で成長しながら経験を共にした。その中でレイが中部で追われる記憶や西部でテイカーとして活躍した記憶などすべてを共有している。

 一心同体。レイ自身でその自覚は無いが、同じ記憶を持つ者同士だ。


 アールはレイがいなければこの場にいない。元は別の世界でエレネイアと世界を賭けて戦った存在であり、その時に負けて消滅している。だからこそ、本来ならば死んでいる人物。彼が蘇ってこれたのにはレイの存在によるところが大きい。

 最終的にはジンが用意した強化人種に人格再生機構を埋め込む形で自意識を獲得したが、その基となったのはレイだ。あらゆる経験を積み、あらゆる技能を磨き、あらゆる状況に対処してきた。人格再生機構にとってその環境は恵まれている。

 もしかしたら亡霊が人格再生機構のため、それらの障害をレイのために用意したのかもしれないが、その真相は分からないし、聞く必要もない。ただ、アールから言える言葉があれば、それは感謝しかない。


「ありがとう、君のおかげで私はこの戦いに参加することができる」

「……」

「自らの手で終わらすことができる。本当に、ありがとう」

「感謝はいい。代わりに勝ってくれよ」

「当然だよ。これ以上、君たちの世界に迷惑をかけるわけにはいかないからね」


 アールはゆっくりと荒野の先を眺め、空を見た。


「少し昔の話をしよう、聞いてくれるかな」

「ああ」

「エレネイア・イングレニア・パラグライン。彼女は君も知っている通りマーセラフィム・ワルスキャナによって生み出された強化人種だ。そしてマーセラフィム・ワルスキャナを殺した人物でもある。同時に、私もマーセラフィム・ワルスキャナによって生み出された強化人種だ」

「……」

「つまり、エレネイアと私は有り体に言えば姉弟ということになる。そして共にマーセラフィム・ワルスキャナという親を殺した犯罪者でもある。なぜ、私たちがマーセラフィム・ワルスキャナを殺し、そして私たちが仲たがいをしたのか、その理由に関しては伏せさせてもらう。ただ、私と仲違いをいたエレネイアが別世界のマーセラフィム・ワルスキャナと連絡を取り、私たちの世界を終わらせようとしたのは事実だ。私の世界が滅んでしまったのも、エレネイアがおかしくなってしまったのも、すべて私の責任だ」

「……」

「到底話し合いなどで解決できる規模の問題ではない。私はこの背負った責任をエレネイアを殺すことで果たすしか方法がない。個人的な、自業自得な問題だ。しかし君は、手伝ってくれるかい」


 レイは笑って突撃銃を握った。


「ああ。俺もこの問題を終わらせないといけないからな。手伝うぜ」

「そう言ってくれるとありがたい」


 アールは喋りながら遥か空を見上げ。


「さて、始めようか」


 その瞬間、空から数人の人物が降って来る。まるで重力など感じさせず、ゆっくりと地面に降り立つ。しかし足を地面が触れあった瞬間、地平が揺れ、砂塵が舞い散る。

 立ち込める砂塵が視界を塞いでいてもレイには見える。一人は羽衣のような物を身にまとい、アールと同じような朧げな存在感を漂わせている。その周りにいるのは白装束の目立つ服装の者たち。


「やっと会えたわね。あなたのことをずっと見ていたわ。あなたが培養液に浸された液体の中の肉片で、私は外からそれを見ていたのだけれど、ちゃんと覚えているでしょう」


 僅かに微笑みながら《《エレネイア》》はアールにそう告げた。


 ◆


 エレネイアが突然来たことに対してレイたちは驚かない。事前に、アールがいる時点で姉弟である彼らには互いの位置が感覚的に分かる。そのためいずれ場所は分かってしまうと伝えられていたからだ。


「覚えているよ。君は今と同じ笑顔を浮かべてみていたね」

「君じゃないでしょ、私にはエレネイアって名前があるのよ」

「今更、名前で呼ぶ必要があるのかな」


 エレネイアは微笑みを消し、真顔でアールのことを見た。


「雑兵集めて、それで勝てると思ってるの。前と同じくぐちゃぐちゃに千切ってあげるわよ」

「やってみなければ分からないだろう」


 アールが指を鳴らす。

 その瞬間、大地が割れた。

 そして地面から幾つもの分厚い壁が突き出る。壁はレイやアール。そしてエレネイアやその側近たちとを分断した。

 エレネイアの対処をするのは亡霊とアール。 

 その他側近はレイとハカマダ、イースでそれぞれ対処する。


 壁の出現と共に隆起した大地は移動し、アールと亡霊、そしてエレネイアを近くにある都市がある場所まで移動させる。一方でハカマダとイースは遺跡とは逆方向へと移動させられた。

 壁に囲まれたまま三人の白装束の者達と向き合うハカマダとイース。すでに戦闘の準備は整っている。


「行くよ、ハカマダ」

「ああ。元帝国騎士団団長として、お前らに引導を渡してやるよ」


 自分の戦友でもあり誇れる部下でもあり、そして学友でもあった者たち。今は自意識を奪われ、脳を取られ、電脳へと置き換えられ、エレネイアの傀儡となってしまったかつての仲間。

 今、引導を渡す時だ。


「始めようか」


 ハカマダが厚い鉄板に触れ、造形した人型機械に乗り込んだ。


 ◆


「あら、久しぶりね亡霊レイブン》」


 多数のモンスターが蔓延る遺跡内で周り様子など気にせずエレネイアがアールの隣にいる亡霊の名を呼ぶ。レイブンは頭の後ろを掻きながらエレネイアを見て苦笑した。


「随分と着飾ったな。俺が前に開けた穴隠すためか」

「もうとっくに完治してるわよ」


 レイブンが拳を握り締め、アールは格納されていた剣を引き抜いた。


「レイブン、始めようか。ラウンド24だよ」

「ああ。再開だ」


 二人はそうして戦いに身を投じた。


 ◆


 荒野。仲間が誰一人としていない場所でレイと二人白装束の者達は互いに見合っていた。

 話す必要すらない。

 レイは突撃銃を構え、白装束の者達を撃ち抜いた。しかし弾丸は当然の如く弾かれる。

 代わりに白装束は破け、中にいた人物が露になる。それは人造人間。目に光は無く、不気味なぐらいに色白だ。そして、体の周りに身に着けているのは茨のような鉄の帯。

 

 果たしてそれが何なのか、レイにははっきりと理解できなかった。

 しかし、脳内にある情報とバルバトスを管理しているというエレネイアの特異性から、目の前の者達が一体何を体に這わせているのか理解できる。


 蓋環がいかん奇生体アモン

 東部に存在する二体の特別災害指定個体。バルバトスともう一体。その一体こそが目の前で人造人間の体に巻き付いている寄生型のモンスター。蓋環奇生体クロムである。

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