第357話 ハカマダの本分
突然の襲撃者に驚きながらクラウディアの戦闘員たちがある施設内に集まる。この中に襲撃者はいる。そうして建物に足を踏み入れた瞬間、先頭を歩いていた戦闘員の体が真っ二つに飛んで行った。
そしてその事実を認識した瞬間、後続の戦闘員すら巻き込んで建物ごと横一閃に断ち切られる。異常を察知し、身を引いて建物から逃れた戦闘員もいたが、追撃を仕掛けるようにレイが現れ、至近距離から突撃銃を頭部に打ち込まれる。
建物に集まった戦闘員のほとんどは僅か10秒と経たずに全滅し、建物ごと崩れ死体は埋もれていく。
「おい、レイ見ろよ」
「人造人間か。無尽蔵の兵隊が用意できるわけだ」
その渦中。レイとハカマダが倒壊した建物の瓦礫の上である場所を指さしながら話し合う。
指の先には真っ二つに破壊された培養ポットがあった。中からは緑の液体が流れだし、足元まで濡らしていた。同時に、真っ二つに切られた裸の人間の死体も瓦礫に挟まれて転がっている。
先ほどまでこの培養ポットの中で生きていた人造人間の死体だ。
この施設内にはこうした培養ポットが数十個ほど置かれていた。クラウディアの拠点にはこのような施設がまだ多く有り、培養ポットの数は100を上回る。
ボファベットの操縦に特化した人造人間。単純労働のための人造人間。あらゆることを行える万能型の人造人間。一つの培養ポットから多くの性質を持つ人造人間を製造することができる。
単純労働などの頭を使用しない人造人間であれば二日ほど、ボファベットを操縦させるとなると三日ほど培養ポットの中で育てれば使える人員として育つ。
これが各地に設置されているのだ。
クラウディアの持つ無尽蔵の兵站。その根本はこの培養ポットにあった。
しかし、取り合えず今ここにある分はすべてレイとハカマダが破壊する。来る三日間。熾烈を極めるであろう戦闘に備える時間を与えるため、クラウディアの作戦に致命的な遅れを生じさせるため。今ここである分だけ破壊する。
疲弊はしない。
ただの準備運動だ。
ハカマダは建物を破壊する原因を作った鎖のような兵器を手に持ち、周りを見渡す。
「5分だ。それでいいよな」
「ああ」
レイは答えアーティファクトの突撃銃を握り締めた。その瞬間、レイの右腕を割って黒い液体が流れだしアーティファクトを取り込んでいく。飲み込み、侵食し、気がつくと突撃銃は無くなっていた。
「いいのか、貰いモンなんだろ」
「突撃銃とQuantaとで役割が被ってる。どっちも使おうとするのは非効率だろ?」
「お前なら両方を使うことぐらいできると思ったんだがな」
「俺は別に完璧じゃない」
アーティファクトの突撃銃を取り込んだQuantaはさらに強化される。性能が上がり、強度が増し、造形できる上限が上がる。
統括管理人格が新しくQuantaを作る中で追加した機能の一つだ。
別世界の武器を吸収し、糧とする。その上限は存在するものの、天井は遥か先。レイのQuantaは未だ成長途中だ。
そしてレイとハカマダは僅かに笑い合って言葉を交わし、何の合図も無く戦闘を始める。
強固な装甲と外骨格によりハカマダに対しては一切の負傷を与えることができず、逆に蹂躙されていく。先ほど建物を両断した鎖の手のひらにある穴から体の中へと格納し、新しく武器を取り出す。
それは銃剣。
レイがハカマダの外骨格アーマーを乗った際に使ったものと見た目はほぼ同じ。しかしながら性能は各段に上。そして何よりもハカマダ自身が他とは隔絶するほどの技量を持つ使い手。
来る戦闘員を銃剣で薙ぎ払い、襲い掛かるボファベットを弾丸で撃ち砕く。
ボファベットがハカマダを拘束しようと鎖を放とうが、その巨体に見合わない過敏な動きですべてを避け、弾き落とす。あらゆる作戦を真っ向から否定し、その機神に宿る暴力のまま押し通す。
性能差だけでも周りとは隔絶している。
しかし何よりも、ハカマダの操縦技術が群を抜いていた。あらゆる動作を精密に行える分、扱っている機体を完璧に乗りこなすのは難しい。自動制御機構が搭載されていないため、少しでも判断を間違えば、生まれたての子供のように何も成せずして転び、立ち上がるのに一定の時間が必要となる。
しかしハカマダはそのハンデを感じさせない。逆に強みとさえしている。
自動制御機構が搭載されていないおかげであらゆる動きをすることができる。本来ならば倒れてしまうような体勢。本来ならば自動制御機構が働いて強制的に倒れないよう重心が傾く。しかし無いため重心が勝手に変わることは無い。
曲芸師のように、重厚且つ巨大な一つの人型ロボットが戦場を駆け巡る。
ボファベットを破壊し、戦闘員を踏みつぶし、殴り飛ばし、両断する。千切っては投げ千切っては投げ。戦場は一瞬で地獄と化す。
その一方、レイのいる戦場は僅かな発砲音だけが響くだけでハカマダのものと比べるととても静かだった。戦闘員はレイを発見するよりも早く、気がつくと殺されている。
弾丸を撃ちこまれ、頭部が吹き飛ぶ。共に行動していた仲間がその事態に気がつき、弾丸の軌道からレイのいる位置を予測した時、すでに銃口は自分に向けられている。
Quantaから撃ち出される弾丸。到底防ぐことなどできず、成す術はなく殺される。
ボファベットであろうと例外なく、装甲を貫通し、そのまま操縦桿を撃ち抜く。もはやこの荒れ果てた戦場でレイの姿を見つけることすら不可能。気がついたところでその直後には死んでいる。
やっとの思いで攻撃できたかと思えば塑性粒子に阻まれる。その鉄壁を潜り抜けても強化服が控えている。レイに対して攻撃を与えることはほぼ不可能な状態にあった。
もしここでレイに負傷を与えられる手段があるとすれば自爆。クラウディアが持つ最大の切り札でもあり、予知不可能な災厄。
典痘災害バルバトス。
その分体をクラウディア陣営は未だ保存している。世界を終わらせるために必要な遺跡という兵器すらも飲み込む危険性を秘めた諸刃の剣。しかしバルバトスを使い、レイやハカマダを殺せるのならば今後の為になる。
来る最終決戦でこの二人はあまりにも邪魔。
クラウディアの戦闘員。その中でも最上級指揮官に分類される者がカプセルを取り出す。
解放した瞬間にバルバトスは胎動を開始し、一瞬で成長する。進化を繰り返し、あらゆる事象に適応する。レイは過去にバルバトスを殺しきる寸前まで持ち込んだが、その代償として片腕を失い、半年という期間を昏睡で消費した。
今、バルバトスを解放したとて進化の途中で討伐され、レイを殺しきることはできない。しかし負傷を与え、今後の予定を狂わすことができる。
決断は一瞬。
最上級指揮官がカプセルの中身を解放する。その瞬間、最上級指揮官の腕すらも貫いて一つの注射器がカプセルに突き刺さる。
レイは見逃さない。あらゆる可能性を考慮する。当然バルバトスに関しても同様だ。
事前に、ハカマダから渡されていたバルバトスに対する特攻薬。今、胎動すらしてないバルバトスにそれを打ち込んだ。その瞬間に、バルバトスは鼓動することすらできず、一度も生きることすらできず、死んだ。
人造人間として最上級指揮官は一切の動揺を見せず、事態の把握に努める。そして現状を分析し終えた後、手立てが見つからない現状に困惑を覚えた。
その次の瞬間には刀によって肉片になるまで切り刻まれる。
「……やっぱりか」
バルバトス。危惧しておいて正解だった。
この一つだけとも限らない。しかしハカマダもいる。レイと同じ状況になろうが、同様に対処してしまうだろう。
周りを見渡す。
すでに戦闘員はおらず、この場にはレイ一人のみ。
そして同時にハカマダから通信が入る。
『ちょうど五分だ。そっちは』
『終わった』
二人はそう会話を交わし、合流する。




