第355話 最後の戦い
部屋にはレイ、エレノア、ハカマダが集められていた。そこに亡霊やアールの姿は無く三人だけだ。この中で主にハカマダが話を進めていく。
「まずここにいない亡霊とアールだが、あいつらは一足早く東部入りしている。俺とレイはそこに合流する形だ」
先に東部へと入り、戦う準備を整える。そう言ったハカマダに対してレイが指摘する。
「大丈夫か。東部は相手の領域だ。奇襲の心配は無いのか」
「無いとは言い切れない。だがもともと亡霊とアールだけで作戦は行われる予定だった。そこにレイと俺が加わった形になる。あっちは別に俺らがいなくても戦えるよう準備はしてる。今回は俺らがいるから先に東部入りして相手の様子を伺っているだけだ。もしそれで奇襲を仕掛けられたら戦えばいい。そうでなければ俺らと共に行けばいいだけだ」
「……分かった」
レイの質問が終わったのを確認すると、ハカマダがエレノアを見た。
「あんたはここで引き続き反政府主義者を率いてクラウディアと戦ってもらう。なに、俺らがエレネイアと戦うのが遅くても三日後。それまで耐えててもらえたらいい」
「了解した。もしあんたらが負けたら」
「その時は全部終わりだ。あんたらがクラウディアと拮抗してようが、負けていようが、勝っていようが。エレネイアとそのそばを守る奴らが来れば戦況は意味を為さない」
「そんなに強いのか」
「あいつらがいた世界の技術水準は遺跡を作り出した水準とほぼ同じだ。要はあの遺跡を開発、運用、管理できるような文明に生まれている。この世界よりも遥かに優れてる。当然、武器も相応の進化を遂げ、俺らの世界では太刀打ちできない。あんたらがいた所で意味が無い」
「確かにな。敵の本陣だろ。そんな危険な奴らだ。お前らだけで大丈夫なのか」
「まあな、それこそ、俺やイース、レイのような奴でなければ戦力にはならん。追加で戦える人員を補充しようにもダグラスやスカーフェイスだが、あいつらはこの世界の住民だ。あまりこの件に関わる必要は無いな」
「世界の滅亡がかかってるんだろ。必ずしも無関係とは言えなく無いか」
「亡霊はあくまでも俺の世界の問題だと言っていた。本来ならばレイも俺も巻き込む予定はなかったんだ。まあ一応、スカーフェイスにはすべての事実を話してある。来るか来ないかはあいつ次第だ」
「……そうか。取り合えずじゃあ、私は守り切ればいいだけだな」
「戦いは長くても三日で終わる。だからこの三日。物資をすべて出し切って耐えてくれ」
「了解した」
そして、話が終わったのを確認したレイが先ほどの会話の中で思い出したことを言う。
「そういえばイースはどこだ」
この作戦会議の場所にイースが呼ばれていない。彼女も戦いに参加する。この場にいた方がいいのではないだろうか。
「言い忘れていたが、イースは亡霊と行動を共にしている。記憶合金の強化を受けるためにな。イースは現状、身体強度は問題ないが記憶合金だけであれば決め手に欠ける。亡霊から申し出があって強化をさせるために同行させている」
「いいのか、イースはあんたのために来たんだろ」
「イースが良いって言ったんだ。どうせ、この戦いを終えれば話す機会はいくらでもある」
「どちらかが死んだら」
「そん時はそん時だ。俺たちは腐ってもテイカー。同時に戦士だ。大切な人が亡くなろうとそれを受け止めることができる。レイ、お前なら分かるんじゃないか」
脳内に中部で亡くした者達を思い浮かべる。やっと今、受け止め、受け入れることができた。
「確かにな……相応の時間は必要だがな」
「だろうな」
すべての質問を出し切り、ハカマダは話を進める。
「今後の予定だ。分かってると思うがレイと俺は明日の早朝に東部へと行く。エレノアは引き続き待機。俺らは東部に行く際に辺り一帯のクラウディア人員を掃討してから行く。だから少し休めるはずだ。後の三日に備えてくれ」
「了解した」
「レイは取り合えず明日の準備でもしててくれ、中部と東部を分ける大峡谷までは車両で進む。これにクラウディアからの妨害を考慮して半日ちょっとかかる計算だ。そして峡谷に着いた後は亡霊の支援の元、前哨基地まで移動。東部に辿り着く。その後は機を見計らいエレネイアとの戦いに移る。詳細はその時になるだろうが、主にエレネイアと戦うのは亡霊とアール。イースを含め俺らはその側近とやり合うことになる」
亡霊が懐から二つのカプセルを取り出す。
「敵はすでにバルバトスを培養し、管理下に置おいている。あるいは生物兵器として運用で来ている可能性が高い。身を持って分かっていると思うがバルバトスは強い。『神墜とし』でも殺しきれなかった程度にはな」
レイは『神墜とし』で遺跡内のバルバトスをすべて消滅させた。しかし都市の外にまで逃げていたバルバトスには対応できず、結局スカーフェイスが最後に仕留めきった形になる。
それほどに強いバルバトスをエレネイアは増殖させ、また管理下に置いている可能性が高い。そうなれば容易に戦力はひっくり返る。その時のために亡霊たちは対抗策を用意した。
「この二つのカプセルを打ち込むことでバルバトスの遺伝子情報を組み換え、壊死させる。実験ではバルバトスを消滅させることができた。ただ本番では分からない。バルバトスは異常な進化を見せる。このカプセルにも対応される可能性がある。しかし、一応、対応策として用意しておいた。クラウディア陣営が使うか可能性も考慮してエレノアにも幾つか渡しておく。レイと俺は一つずつ最後の戦いに備えて持っておく。分かったか」
レイとエレノアはそれぞれ頷いた。そしてハカマダはレイを見て、懐から数枚の用紙を取り出した。
「レイ、Quantaはもう動かせるな」
「ああ」
レイが『それ』と呼ぶ兵器Quanta。すでにレイは前と同じように動かせるまで体に順応させていた。
「本来Quantaは電脳化した奴ぐらいしか使えない代物だ。頭の中で武器を分解し、ネジの一本に至るまで長さ、性質、温度、硬さ、すべてを数値としてはめ込み一本の武器を造形する。通常の脳では不可能な代物。電脳化していても武器を作り出すのに多少の時間を要する。だがお前は瞬時に武器を造形し、使える状態にまで整える。一度見た武器もすぐに造形できる。挙句の果てには一度設計図を見ただけの『神墜とし』ですら造形して見せた。はっきり言って異常だ。だからこそ、異常なお前に最後の武器をやる。使いこなせるかは別だがな」
そう言ってハカマダがレイに渡したのは一つの設計図。別世界の兵器。『神墜とし』と同類の神器だった。
「造形できるかできないか。できなくても構わない。しかしお前ができるというなら、亡霊がいた世界でバルバトスと他の特別災害指定個体に該当されるモンスターを葬った武器を手に持つことができる。どうだ、楽しみだろ」
ハカマダは歯を見せて笑った。
レイはテーブルに広げられた地図を指でなぞり、そして笑い返す。
「当たり前だ」
「お前ならそう言うと思ったぜ」
ハカマダは一度目を閉じて息を吐いてから、口を開く。
「じゃあ明日、また集まろう」
「ああ」
「了解した」




