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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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第348話 マーセラフィム・ワルスキャナ③

「そして、あなたにQuanta(クアンタ)を渡したのは私です」


 PUPDに追われ、入った遺跡の倉庫で見つけた『それ』。機械が持ち運んでいるのを奪って装着しただけだ。


「あなたには必要だと思いました。近くにいた機械からたまたま取ったと、そうお考えであったと思いますが、実のところ私が機械を誘導し、あなたが取りやすいよう動かしていました」

 

 考えてみればたまたま機械から取った物があらゆる状況にも対応できるような万能の兵器である確率なんて低すぎる。細工されていたと言われても驚きはしない。

 ただ、ここでふと疑問を覚えた。

 統括管理人格はあの遺跡にいて、レイの手助けをした。

 遺跡は別世界からの兵器だ。それを支配している統括管理人格が遺跡にいたのはおかしいように感じる。というより、なぜ別の世界から送り込まれた遺跡と目の前の統括管理人格は理解できているのだろうか。

 支配権を持つ。

 少しおかしなことが起こっている。


「あんた、なんで遺跡を管理できてるんだ。立場的にはあんたも攻められた側だろ。なんで兵器である『遺跡テールム』を支配できてる」

「少し思い違いをしていますね。訂正していおきます。まずここは遺跡ではありません。亡霊とアールが築いた城塞都市の名残です。私はその管理を任されている統括管理人格です」

「待て、だとしたらなんで中部の遺跡にアクセスできた。あそこは『遺跡テールム』なんだろ」

「はい。しかし『遺跡テールム』と言えど万能のセキュリティシステムを構築しているわけではありません。それに、この世界にある遺跡は中途半端で故障していますから、私が途中で介入し、武器を送り、それをあなたの元に送るのなんて造作もないことです」

「そう、なのか」

 

 そう言われれば納得することしかできない。今のレイに統括管理人格の言葉が虚実であるか見抜けるだけの知識も力も無い。 

 レイは一度、義手になった自らの右腕を見て、質問を変えた。


「俺がモンスターに攻撃されない理由は、体がこの世界の人間のものじゃなくなったから、っていうのであってるか」

「はい。人格再生機構の副作用です。アールの肉体を復元しようとして、結果的に私達の世界の人間になってしまった」

「あ、でも待てよ。あの遺跡は、『遺跡テールム』はお前らの世界のものでもないんだろ。だったらなぜ攻撃されない」


 今までは遺跡が統括管理人格のいた世界のものだと思っていた。しかし『遺跡テールム』は統括管理人格のいた世界を潰すために送り込まれた兵器。そのためレイの体が統括管理人格のいた世界の者に成り代わろうが攻撃されるのではないか。レイの抱いた疑問は至極真っ当なものだった。


「そうですね。少し説明を省略していました。厳密には、私達の世界の人間とレイさんとでは僅かに違います。というのも人格再生機構に手を加えて『遺跡テールム』に攻撃されないよう作られています」

「それで、俺が攻撃されないのか?」

「はい。しかし例外が幾つか。現在エレネイアの管理下にあるモンスターと特別災害指定個体に指定されているモンスター。それらに対しては効力を発揮しません」

「エレネイアの管理下って、確かエレネイアはマーセラフィム・ワルスキャナの作った強化人種で、お前らの敵だろ。だが同じ世界の住人のはずだ。なんでモンスターを管理下に置ける」

「それは話すと長くなりますけど、簡単に言えばエレネイアは別世界のマーセラフィム・ワルスキャナからの干渉を受け、一時的にモンスターの管理権を譲渡されている状態です。彼女の目的は私達の世界の生き残り、つまりは亡霊を殺すこと。そして他の世界からの干渉を受けず、危険分子として存在する《《この世界を消滅》》させること。アールに関しては、伏せさせていただきますね。もし聞きたいなら本人に聞いてください。レイさんから抜き取った人格再生機構を強化人種に埋め込んで『アール』がすでにいるので」


 色々とややこしいことになっている。聞けば聞くだけ疑問が増殖するし、答えてを得ているにもかかわらずあまりにも規模感が大きいため実感が湧かない。


「分かった。じゃあ取り合えず」


 レイは一旦すべてを飲み込む。


「エレネイアって奴はあんたらの世界の生き残りとこの世界を壊そうとしているってことだな」

「随分とばっさりまとめましたね」

「さすがに情報量が多いからな」


 取り合えず聞きたいことはこれですべて。疑問はすべて解消することができたし、ある程度真実も知れた。あと分かっていないのは「亡霊に聞け」や「アールに聞け」と言われたものぐらいである。

 それに関しては経済線を越えた後に言えばいいだろう。

 だが会話を終わる前に一つだけ最後の疑問がある。


「亡霊の目的はエレネイアを殺すことなのか」

「はい」


 ノーネームが言っていた戦いとはこのことなのだろう。レイにとっては意味が無く、関わるだけ面倒な戦い。


「だったら殺した後どうなる。俺たちの世界はどうなる」

「分かりません。もう一度申し上げますが、この世界はあまりにも特異すぎる。あなたの世界はこの戦いを終えることで完全に幹から離れ、地面へと落ちる。そこから新たな生命ものがたりを芽吹かせることができるかは分かりません。あなたが芽吹かせ、そして幹となり新たな木となる可能性。切り開くのはあなたがた。私達別の世界の住民が関わることではありません。元より、この世界は特異点であり『遺跡テールム』が送り込まれたことでさらにおかしくなった。もはやこの先どうなるか分かりません」


 マーセラフィム・ワルスキャナが西暦2500年まで生まれていないという分岐した世界でありながら存在する特異点。加えて他の世界から『遺跡テールム』や亡霊たちが来た。

 元々おかしな世界がさらにおかしくなった、ということだ。


「分かった。取り合えずじゃあ俺の質問はこれで終わりだ」


 後は亡霊に聞くことしか残っていない。

 そう答えて、後ろのソファーで半ば寝そうになっていたイースを呼ぶ。

 イースはだらりと立ち上がって、記憶合金を足に纏わせると体を運ばせながらレイの横に来る。そしてレイが立ち去ろうとした時、統括管理人格が口を開いた。


「最後に一つ、私からの提案です。飛行ユニットに乗って経済線を越えませんか? そうしたら一瞬で亡霊やハカマダの元までたどり着けますよ」


 レイがイースの方を見た。イースは無表情のまま「私はいいよ」とだけ告げる。

 冷静に考えて一度帰って準備を整えてから経済線を越えた方がいいだろう。その方が反政府主義者と連携が取れるし、安心だ。しかし僅かながらに時間がかかる。そして統括管理人格の話を聞く限り、どうやらそう時間は残されていないらしい。


「なあ、亡霊とエレネイアがぶつかるのはあと何日ぐらいだ」

「一週間後、帝国領内にて亡霊とエレネイアは衝突します」

「やけに具体的だな」

「亡霊から話は聞いているので」


 一週間。それも帝国領で。とても今から経済線を越えては間に合わない。しかし飛行ユニットならば間に合う。

 このことをすべて知っていて、計算された上で統括管理人格は提案してきたのだろうか。


 意味のない戦い。参戦する気が無いのならばゆっくりと経済線を越えてマザーシティに行けばいい。

 ただもし亡霊が負ければ、もはやこの世界は存続していないのかもしれない。

 選択肢。

 レイは選ぶ。最も自分が納得できる方へと。


「頼めるか」


 その答えに統括管理人格は僅かに口角を上げた。


「分かりました。もう準備は整っています」

 

 レイの答えをすでに予想していたのか、あるいは。

 しかしまだイースの質問が終わっていない。まずはそれが終わってから。そしてレイはその前にしなくてはいけないことがある。


「通信制限を解除してくるか」

「なぜですか」

「いきなり消えたら迷惑をかけるからな、連絡しておきたい」


 ミケにもイナバにも、いきなり消えてしまったら迷惑をかける。それに経済線を越える手段まで用意してくれていたのに、結局使わない。そのことについても一言謝罪しておきたい。

 他にも話すべき人はいる。もしかしたらレイは西部に戻ってこないかもしれないのだ。

 だから、今ここで連絡する必要がある。


「分かりました。制限は解除しましたので」

「助かる」


 通信端末を取り出しながら別室へと移動しようとするレイにイースは告げる。


「先に待ってるから」

「ああ」


 二人はそう会話を交わし、イースは自らの持つたった一つの疑問の答えを得るために質問を、レイは別れを告げるために部屋の外へと出た。


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