第345話 完全都市ライバック
「着いたか」
レイが呟く。
荒野で停止する車両の前には一つの都市があった。とても遺跡には見えず、だがこの世界のものではない。隔絶した技術力によって支えられた一つの都市。別世界の都市があった。
完全に自動修復機構が活きており、あらゆる防衛設備が健在。
今はまだ少し遠くで待機しているが、この距離でも攻撃される可能性がある。
「いいよ」
記憶合金を排出し、いつでも戦える体勢をイースが整える。そしてイースの合図と共にレイは車両を走らせた。
近づくごとにその荘厳な、非現実的な都市の情景がはっきりと見えるようになる。空を飛ぶ飛行ユニット。走る車両。そのどれもが普通の遺跡とは異なって、たった一つの支障もなく運行されている。
外周部に至るまで自動修復機構が稼働する遺跡。それが完全都市ライバック。
そこに今、レイたちは近づいていた。
車両の速度は早く、あれだけあった距離もすでに縮まり、もうすぐで辿り着く。
レイは片手でハンドルを握り、もう片方の手で突撃銃を握り締めた。いつでも引き金を引ける状態。イースも同様にいつでも戦える状態。二人とも完全な状態で完全都市ライバックへとたどり着く。
外へと繋がる大通り、荒野とは違い舗装された地面に車両が踏み入れる。
「取られた」
レイが異常を察知してイースに伝える。
すでに車両はレイでは操作できなくなっていた。完全都市ライバックへと足を踏み入れた瞬間、車両の操作権を奪われた。
「出る?」
「ああ」
操作権を取られただけで攻撃を仕掛けられているわけではない。車両はゆっくりと大通りを直進するだけだ。しかし明らかに危険な状況であるため車両から降りた方がいい。二人がそう判断し、扉を破壊して外に出ようとした瞬間。車両の進行方向に光学迷彩によって隠されていた機械型モンスターが姿を現す。
浮遊しており、形は足と腕が三角形で、胴体は丸い。異質なデザイン。
二人はすぐに戦闘態勢へと入り、車両を突き破って出ようとする。しかし、すぐに一つの違和感に気がつき、動きを止めた。
「何のつもりだ」
「分からない」
目の前の機械型モンスターは、まるで執事が挨拶でもするかのようにお辞儀をしてから車両に道を譲った。
歓迎されている?
分からない。逆に誘導されている可能性もある。
しかし危険だ。車両から出た方がいい。
「……ちっ」
レイが車両の扉を突き破ろうとした瞬間、扉を覆うように。いや車両全体を覆い隠すように張られた簡易防御障壁のような半透明の防御障壁が張られているのが見えた。
「もういいんじゃない? どこで戦っても敵の腹の中だよ」
逃げ出そうとするレイにイースが言う。
すでに車両は大通りを進んでいる。もう完全都市ライバックの中にある。もはやここまで来たらどこで戦うとかの問題でもないは事実だ。それに先ほどの機械型モンスターの動きから歓迎されている可能性もある。
無駄な動きをする必要もない。
「そうだな」
レイはそう答えると座席に背中を預けた。
その時、車両が速度を上げる。まるでレイ達が現状を受け入れるのを待っていたかのように。
そして車両は速度を上げたまま今度は浮遊し始め、完全都市ライバックの中心にある電波塔に向けて進みだす。
もう後戻りはできない。その予感を感じさせるには十分な旅路。
さらに加速した車両は一瞬で電波塔の元までたどり着く。
電波塔の一部が開き、飛行ユニットを受け入れるであろう部分に車両が格納された。
その後、勝手に扉は開く。
「出ろってことか」
「多分ね」
レイとイースはそれぞれ車両から出ると周りを見渡す。機械型モンスターの気配こそ感じられないものの、何かすれば防衛設備が一気に稼働するということぐらい分かる。
慎重に、周りを見ながらレイとイースが格納庫内を見渡していると、奥の扉が開き一機のロボットが入って来た。僅かに地面から浮いており、見た目から案内用に作られたロボットだと分かる。
見た限りでは武器も備えていない。
「レイ様。イース・マーダ様。こちらへどうぞ」
案内用ロボットはそう言って、扉の外へと二人を案内する。
(行くか)
(それしかないね)
二人は目を合わせ会話するとロボットの言う通り扉の外に出た。外は一本の道が広がっている。白い壁が一面に張り巡らされ、距離感覚がおかしくなる。その中で二人はロボットについて道を進む。
すると階段に辿り着いた。
「ここから先はお二人でお進みください」
ロボットは二人にそう告げると階段を下って消えていく。一方でレイとイースは階段を上がればよいのだろうか。
ここまで来て今更足を止める理由も無い。
レイとイースはそこまで長くもない階段を上がり始めた。とても静かな、二人の足音だけが響く。階段の繋がる先は案外早く、レイとイースは目的地である上の階へとたどり着く。
一面透明な壁に囲われた空間に幾つかの機械が置かれ、壁からは荘厳な遺跡の風景と遥かなる荒野を見渡すことができる。金を払っても良いと思えるほどの絶景。しかし二人の視線はそちらへは向いていなかった。
雑多に置かれた機械の前に一人の女性が浮かんでいた。
半透明で、後ろが少し透けているのを見るに現実に存在している人間ではないように思える。それか、光学迷彩に近い装備を使って自身の存在をおぼろげに見せているのか。
少なくとも、部屋の中で佇むその女性とレイとの視線は合っていた。
「私は統括管理人格。よく来ましたね、レイ」
◆
「そちらはイース・マーダさんですね」
自らを統括管理人格と名乗った女性はゆっくりと一人ずつ足先から頭の先まで見ていく。
品定めとは違う、不気味な緊張感。
「二人同時、というのは時間が惜しいですから。一人ずつここに来た理由について聞きましょうか」
統括管理人格は二人に述べる。
「長くなるようですので、残った方は別室で休んでいただいても構いませんよ。統括管理人格はあなたたちを歓迎しています」
レイは脳内をフルで回転させながら、慎重に言葉を選び絞り出す。
「その前に共通の話題ぐらいは共有しておいた方が楽なんじゃないか」
「それもそうですね。では、代表としてレイ。聞きたいことはありますか」
「遺跡は別の世界から送られてきた兵器って認識で会ってるか」
統括管理人格は顎に手を置いて僅かに考える素振りを見せる。その後に一つ頷いてからレイを見た。
「分かりました。話しましょう。しかし質問の返答であるのならば『はい』で済む話です。しかしあなたが知りたいのは別のものでしょう? 私のことや、亡霊のこと、別の世界のこと、樹木図のこと。ハヤサカ・レンレやアーネス・ウォッチャー、ハカマダから聞いた話の真偽が知りたいのでしょう?」
「ああ」
「では話しましょう。ちょっとした昔話です。詳しくは省かせてもらいますけどね、長いので」
部屋が暗転し、巨大なホログラムが映し出される。
「ダイジェスト版です。すぐ終わりますよ」
ホログラムに記録された映像が開始する。ホログラムには一人の男が映し出されていた。
「彼はマーセラフィム・ワルスキャナ。彼がことの、いえすべての発端です」




