第342話 カイム
レイとイースが車両に乗っていた。どこまでも続く荒野を砂塵を巻き上げながら走る車両。高性能なスプリング機構によってある程度の窪み程度ならば中にいるレイとイースに少しの振動も感じさせない。
こうして車両での移動を始めてはや二日。
レイたちは列車で完全都市ライバックに近い都市まで行くと、そこで降りて車両に乗り込んで移動した。
完全都市ライバックの近くにはその潜在的な危険性から都市は無く、あるとしても財閥やテイカーフロントが完全都市ライバックを監視するために置いた基地だけだ。この辺りには遺跡も少なく、本当に何もない荒野がただ続くだけになっている。
レイ達はこの荒野を二日間ほど走り続け、一度テイカーフロントの基地まで行く。
そこで物資やその他の装備を整え半日ほどかけて完全都市ライバックに足を踏み入れる。ただ車両に乗って一日目はただ移動するだけでありとても退屈だ。退屈すぎて、イースは走り去る車両から飛び降りて運動がてら隣を走って並走していた。
それからここはモンスターも少ない地帯であるため、もしレーダーにモンスターが映ればまるで密猟者のようにレイとイースは真っ先に向かって狩っていた。どんなモンスターでも今の二人であれば一瞬で倒してしまうのでタイムロスは無く、予定通りに基地までたどり着くことができるはずだ。
「ありが、と」
楽しみと言えば食事ぐらいだ。
空も落ちて来た頃、レイとイースは車両の運転はAIに任せ自分達は荷台で夜ご飯を食べていた。揺れはほぼ無いので汁物の料理をしても液体が飛び散ることは無く、何なら荷台部分で火を起こして調理していた。
主に調理の担当はレイだ。
食材のカットに関しては記憶合金を操って効率的にできるイースの担当。
荷台部分に天幕を張り、外と遮断するとレイとイースは出来たばかりの料理を食べる。
「おいし、い」
料理を食べたイースがその言葉を零すとレイは満足気な表情で自分も頬張った。しばらくはそのまま無言で食べ続ける空間が続いたが、途中でイースがレイに問う。
「ハカマダ、とはどういう、関係だった、の?」
「テイカー稼業の途中に会った。まあ偶然じゃないんだろうがな」
「そう。私は、ヤマタ……巷間都市で、かな」
レイは特にイースの過去については聞いていない。なぜ彼女が完全都市ライバックに行くほどの危険を冒してまでハカマダの情報を探ろうとするのか、多少の興味はあるものの聞くに聞けない話題であるためレイから切り出したことは無い。
しかし今日は、イースが切り出した。
「ハカマダは……ヤマタ巷間都市の事件から、私を救っ、た」
レイは皿を持ち上げながら訊いた。
「その詳細は聞いてもいいのか?」
イースは僅かに考える素振りを見せる。そしてしばらく考えた後に一度息を吐いてから答えた。
「いい、よ」
そう言いながらイースは鍋から料理を救う。そしてふーふーと息を吐いて料理を冷ましながら喋り始めた。
「私は……強化人種……ホムンクルスのようなもの、で。ヤザワ学術院が、別世界に送り込む、ために………作った、のが私。世界を、越えるためには、相応の肉体強度が必要、で。だから私は強い。この子は………肉体強度を上げるための、装備と、して私に組み込まれ、ている」
イースの足元から滲みだした黒い液体。記憶合金を触りながらイースが続ける。
「私と同じ、強化人種は……もう一人いて、カイムって言う。私の方が優秀……で、本当なら、別世界を越えるのは私、だった」
「……」
「でも、実際に使われた、のはカイムだった。カイムは、実験の失敗で、別世界へと送られたまま、返ってこなく、なった。多分……死んでる。その時の、失敗がヤマタ巷間都市の、事件に繋がって、る」
「………」
「あの失敗で、私達の、世界と、別世界との因果的な……繋がりが、できて遺跡を呼び込んで、しまった。だからヤマタ巷間都市は、別世界から、送り込まれた遺跡に、上書きされた。分かっ、た?」
「ハカマダとの出会いがまだだが?」
「あ……」
イースは手に持っていた皿を床に置く。
「遺跡に上書き、された、時。私は、逃げた。だけどモンスターがいて、死にかけ、て。そこで助けてもらった、のがハカマダ」
ヤマタ巷間都市の事件が起きた際にハカマダがその場にいた。偶然ではないだろう。
「ハカマダ、がいた理由は、分からない。でも、私は、その後ハカマダに、助けてもらってから、テイカーとして生きる、道を教えてもら、った。だから、ハカマダは、命の恩人。まだ、何も、返せてない。だから、ハカマダに何か返して、あげたい」
助けてくれた恩を返すためにハカマダを探している。義理堅いのか、あるいは他の理由も混じっているのか。少なくともヤザワ学術院が起こした事件というのは予想通りかなり闇が深いものらしい。
そして研究の失敗をきっかけに遺跡という兵器がこの世界に再度送り込まれることになったが、基幹システムがあった場所が遺跡に成り代わっていたのはこれを応用したからだろう。
だがレイが考察できるのはこの程度。
「そうか」
そう一言答えることしかレイには出来なかった。
イースの話から考えるその心情については察するに余りあるし、その時の詳細はハカマダとイースしか知らないだろうし、レイはただそう答えるしかできない。そして僅かに笑いながら続けた。
「恩返しなんだったら、会わないとなあいつに」
イースは真っすぐにレイを目を見据えて答えた。
「うん」




