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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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第341話 南へ

 レイとイースが列車に乗っていた。目的地は南にある都市だ。そこで降りて車両を使って完全都市ライバックまで向かう。距離は離れているが列車を使い、高性能な車両で移動するということもあって案外早く着く。

 短い旅だ。

 

「終わったらしい……から帰るね」

「ああ」


 レイにそう言うとイースが自室へと戻る。

 今、レイとイースは少し用事があってデッキの方まで出ていた。というのも列車での移動は貨物列車での移動と同様にモンスターの危険に常に晒されている。当然、防護壁や護衛など、モンスターの脅威に対しての対処は多く設置しているが、それでも予想外の事態が起きて防衛戦をすべて突破される可能性がある。

 その際、たまたま乗車しているレイとイースが対処に乗り出る。これは別に頼まれたから、とかではなく移動手段である列車を失うことによって旅に遅れがでることを危惧しているためだ。

 普通ならばそんな危機はないのだが、レイが外套の男だと知れ渡り、イース・マーダが同行しているとなると予想外の事態が起きても、起こされてもおかしくはない。今も高速で移動する大型のモンスターが現れたという情報が入り、表に出て来ていた。

 しかしただ大きいだけだったようで無事に討伐することができたらしく、イースは何もないことが分かると自室へと戻って行った。そして残されたレイもしばらくデッキに立ったまま風に当たった後、部屋に戻ろうとした。その時にちょうど通信端末が震えた。


 通信待つを取り出し、宛名を見たレイは僅かに目を見開いて驚いたような表情をした。

 そして僅かに悩んだ後、電話に出る。


「……久しぶりだな、生きてたのかあんた」

「はい。生きていましたよ、無事に」


 電話越しに彼の声を聞くのもなんだか懐かしいような気分だ。

 

「ミナミ、もうマナ(あいつ)には伝えたのか?」

「はい。しかと」

「そうか。大変そうだな色々と」

「はは。お互い様ですよ」


 ミナミは基幹システムを奪取するあの事件からの三か月間。消息が不明だった。その理由についてはすでに察していたものの、マナに連絡は来ておらずすでに死んでいたと思っていた。

 しかしどうやら基幹システムを奪ったあの事件の日、マナからミナミへと下された命令を、いや《《主人》》のために動いたミナミは無事に仕事を完遂していたらしい。

 

「そういえば、聞き忘れてたんだが、《《あれ》》はマナの命令か、それとも自分の意思か?」

「どちらともですよ。マナ様からの指示はありませんでしたけど、西部に戻って来た時点でやらなければならないと分かっていましたから。これでゆっくり寝れそうです」

「使ったのは自傷性のアーティファクトか」

「よく知っていますね。事件を見聞きした程度でしょうに、そこまで分かっているのですか」

「勘だ。これでもそれなりに修羅場くぐってることぐらいあんたなら分かるだろ?」

「はは。そうですね」


 レイがデッキの柵によりかかった。


「それで、用件は世間話だけなのか」

「はい。そうですよ」


 ミナミの返答にレイが口を開いたまま固まる。

 数秒の逡巡。

 その後、レイは噴き出すように苦笑して答えた。


「そうか。何もないのか」


 今までただの世間話をしたいから、という理由でレイに電話を掛けてくるような人はいなかった。誰でも裏があり、世間話は場を温めているだけ。本題は別にある。今回も色々と勘繰ってみたが、どうやらレイの考えすぎであったらしい。


「ええ。強いて言えば、あなたへの感謝をするために電話させていただきました」


 レイは僅かばかり時を置いて答えた。


「…………そうか。今あんたはどこにいるんだ」

「マナ様の元に向かっています。ここ数カ月は少しばかり雲隠れしなくてはいけませんでしたから、久しぶりにお嬢様のお顔を見たいと思いまして」

「マナと会った後はどうするんだ」

「会った後……ですか。どうでしょう。お嬢様の傍にはクロエとサンシャがついています。そしてお嬢様は強くなられた。もう、私は十分でしょう。私はもう過去の人間です。主人が、マナ様のお父様が亡くなられた時から今を生きたいとは思えません」

「難儀だな」

「ええ。無駄に生きながらえて少々気難しくなってしまいました」

「はっは」

「ははは」


 レイが体の向きを変え、デッキに肘をついて荒野を見渡す。


「中部では世話になったよ」

「迷惑ばかり、かけましたけどね」

「はっは。もう《《過ぎた事》》だろ。自分の中で折り合いをつける時間は十分あったんだ。もう何も思わないよ」

「そう言っていただけるとありがたいです」


 少しばかり互いに何も話さない時間が続いた。

 レイは荒野の遥か先を眺め、風を浴びる。

 電話先からはミナミが運転しているであろう、排気音と荒野を駆ける音が聞こえた。

 互いに通話先から聞こえる音に耳を傾ける。

 そして先に口を開いたのはミナミだった。


「今までありがとうございました」

「ああ。こちらこそ。楽しんでな」

「そうですね。最後ぐらいは罰当たりませんか」

「どうだかな」


 そしてレイが通信端末から顔を離した。


「基幹システム奪取の依頼中マナ様を守っていただきありがとうございました」

「あの護衛二人のおかげだ」

「そう自分を過小に評価しないでください、謙遜でもないのでしょう」

「……本心だ」

「では勝手に感謝させていただきますよ」

「そうか……」


 レイが通信端末の画面を触り、終了ボタンに指を近づける。


「それじゃあ、さようなら、レイさん」

「ああ。またなミナミ」

 

 通話が切れる。

 昔と同じようにミナミの方から一方的に。しかし前とは異なってミナミだけが言いたいことを言って終わらせるのではなくて、レイと話したうえで切った。中部、西部、長い時間を過ごしてきた。

 その結果が、今の通話には表れている気がした。


「……戻るか」


 荒野を眺め、そう言ったレイは思い出しながら振り返った。

 三か月前。

 レイが基幹システムを奪取しているその裏で、バルドラ社の取締役であるアダムス・バルハラが旧時代製の強化服を着た刺客に殺されるという事件が起きていた。

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