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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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340/366

第340話 西部事変

 三か月後。

 レイとミケがテーブルを囲んで話し合っていた。


「これで終わりです。ありがとうございました」


 ミケが軽く頭を下げる。


「こっちこそ迷惑かけた」


 そうして二人が目を合わせて軽く苦笑する。

 今回の基幹システムの件からすべてが穏便に終わるまでには三か月の時を必要とした。

 その間、レイが戦いのこと以外で関わることは無く後の準備を進めていただけだ。体の不調などはありながらも、レイは三か月をほぼ休みながら過ごし、動きも勘も鈍っている。

 しかしこのミケとの会話を終えた後に行く場所は非常に危険なのでここ最近は忙しくしていた。レイの体はもう旧時代の人のもので遺跡にいったとしても暴走した機械型モンスターや異常進化によって生体に埋め込んだプログラムが消えた生物型モンスターと戦うしかなかった。 

 今更、この体を利用して遺跡を集めるのもどこか面倒で、レイは懸賞首討伐などを勝手に請け負っていた。そのためここ最近は色々と忙しく、気がついたらミケからの連絡があり、内容は財閥との争いが終わったことについてだった。

 思い返してみれば様々なことがあった。しかしあれだけこじれた財閥とテイカーフロントとの関係が三か月で終わるのならばかなり早い方だろう。


「レイさん。本当に行かれるので? こちらから経済線を越えさせることもできますが」

「いや、その前に行っておきたい」


 今のテイカーフロントには制限こそあるものの経済線を越えることのできる権利がある。それを使えばレイを中部へと行かせることも容易い。本来、レイの目標は経済線を越え中部に戻ること。

 だがその目標を差し置いて今のレイはやらなければならないことがある。テイカーフロントと財閥との争いもほぼ終わり、レイの力もいらなくなった今が絶好の機会だ。


「本当に行くんですね」


 今からレイが行く場所は危険という言葉で推し量ることすらおこがましい程度には魔境だ。

 しかしレイは行かなければならない。それが《《ハカマダとの約束》》だ。


「では、テイカーフロントで《《完全都市ライバック》》への道のりはサポートさせていただきます」

「いや、そこまでしてくれなくていいよ」

「いや受け取ってくださいよ。あなたは恩を返しただけ、とかまた言うでしょうけど、テイカーフロントにとって功労者であることには変わりないんですから」

「分かった。でもわざわざ人員を手配する必要はないからな」

「分かりました。立ち寄る都市のテイカーフロントで支援を受けられるよう調整しておきます」

「助かる」

「いえいえ」


 レイが立ち上がる。同時にミケも立ち上がった。


「じゃあ」

「はい」


 ミケが一歩下がり姿勢を正す。そしてテイカーフロントの職員として頭を下げた。


「今までありがとうございました」

「ああ。こちらこそ」


 レイが答え扉の方へと向き直る。するとミケが背後から近づいてレイを抱きしめた。


「本当にありがとうございます。楽しかったですよ」


 そしてミケとしての感謝を述べて離れる。レイは半身を後ろに傾けて、笑いながら答えた。


「ああ。俺も楽しかったよ」


 ◆


 レイがテイカーフロントの施設を出た時にはすでに空は暗かった。完全都市ライバックへと行くのは明日になるだろう。


「おわ、った?」


 テイカーフロントから出て来たばかりのレイに外で待機していたイースが話しかける。


「ああ。お前は本当についてくるのか」


 レイが歩きながらイースに問う。


「うん。ハカマダ、が言っていた、こと……だから」

「そうか」


 基幹システムを奪取したあの日。ハヤサカはイースの手によって殺された。機械型モンスターはすべて破壊され、平静を取り戻したところに生き残った戦闘課職員が基幹システムの元までやってきた。

 どうやらアーネスと財閥の部隊をほぼ片付けたのはイースだったらしい。イースからしてみるとハヤサカの元まで行く際の腕試し程度だったのだろうが、戦闘課職員にとっては命を助けられた形になる。 

 ひとまず基幹システムについてはマナとその護衛に任せ、レイとイースはその場で待機。スカーフェイスはいつの間にかいなくなっていた。過去に同じ部隊としてテイカー稼業に勤しんでいたダグラスを己の手で葬ったのだ、スカーフェイスにも思うことがあったのだろう。

 イースも同様にハヤサカを殺し終え、生涯をかけて追いかけた敵を消したことになる。喜びと虚無感。生きる目標が無くなったような気分だったのだろう。ハヤサカとう宿敵を殺した後にしてはイースの目に光や元気がこもっている様子はなかった。

 レイも昔、同じような経験をしたことがある。

 だからこそ気持ちを理解できたし、だからこそレイが何も手助けすることができないのが理解できた。レイはただ、あの荒れ果てた研究施設内で座りこむイースの隣で壁に背を預けることしかできなかった。


 しかしイースがふと「ハカマダ」と呟いたのをきっかけに、レイも完全都市ライバックのことを思い出した。

 完全都市ライバックに行けばもう一度ハカマダに会える。そういった形容しがたい確信がレイの中には確かにある。だが、それが現実的に考えて確証があるわけでもない。


「いいのか。別にハカマダには会えないかもしれないんだぞ」

「いい、よ」


 完全都市ライバックは危険だ。特別災害指定個体として認定されているのは当然のこと、今まで完全都市ライバックの方から人類に脅威を向いたことが無く、未知数な部分も多い。

 それでも、イースはハカマダに会うためにレイに同行する。

 最初、ぎこちない親切心から出た言葉だ。イースの「ハカマダ」という言葉を聞いた時に、二人の関係についてある程度察し、レイはハカマダとの約束と完全都市ライバックのことを話した。

 

 二つ返事だった。


 それからの三か月。案外早くもうここまで来てしまった。


「じゃあ明日だ。もう準備は済ませてある。いつもの所に来てくれ」

「分かっ、た」


 そう言うと二人が分かれる。

 すでに車両だけでなく列車の手配もしている。本来ならば財閥関係者しか使えない代物だが、今回の一件で色々と力関係も変わった。テイカーフロントも多少口出しできるようになったらしく、列車の使用許諾もその一部だ。

 完全都市ライバックは西部の南にある。

 まずは列車を使い南まで向かい、そこから車両で移動だ。

 一週間とかからずに完全都市ライバックまでたどり着くだろう。そこからレイたちがどうなるかは分からない。しかし何かが起きるのは事実だ。


「はあ……」


 暗い空を見上げながら息を吐き、レイは想い馳せた。

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