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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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第338話 イース・マーダ

「ハヤサカッッ――!!」


 イース・マーダは研究所内に入るなり、透明な壁を一枚隔てて奥にいるハヤサカに叫んだ。

 直後、イースの羽織っていた黒色の外套が液体状になる。地面へと滴り落ちて水たまりを作る。そして液体状化した外套は瞬きをする間にもう一度イースの体に纏わりついた。

 液体はイースの意思のまま、ハヤサカのいる場所に向けて一本の針となって伸びる。

 一直線に矢のように伸びた針だったが壁に突き刺さりハヤサカの元までは届かない。しかし壁には突き刺さった。レイが突撃銃で壁に僅かな凹みをつけたのと同様にイースの周囲を取り囲む液体状の何かも壁を僅かに破壊する。


「久しぶりだね、イース。ヤマタ巷間都市からずっと私のことを追いかけていたのかい?」

「カイネはどこだ! お前があの時に――ッ」

「カイネ……ああ、あの子のことか。君が一体何の恨みを持ち、執着を抱え、私達を追うのかその理由は今まで分からなかったが、そんな単純なことだったのか。自分自身でも気がついているだろうに、カイネはヤマタ巷間都市で起きた事件の際、遺跡の転移座標と被ってしまっていたから――」

「うるさい!」

「うるさいと言われてもね、いつまでも友の死を信じず、盲目的に、ただ衝動的に、憂さ晴らし的に、私を追いかけてきたようだけれど、その実、気がついていたんじゃないかい。もう死んでいると、もうこの世にはいないと、遺跡に飲み込まれて潰されてしまったと、分かっていながら信じずに何十年と棒に振って私を追い続けた。イース。今も昔も変わらず哀れだな」

「もういいよ」


 イースが透明な壁のある場所まで近づく。

 そしてイースの目の前にある壁に液体状の何かが張り付いていく。それもただ張り付くだけではない、ゆっくりと浸食し壁を飲み込んでいる。


「記憶合金……もうそんなちゃんと扱えるようになったんだね」

 

 イースが体に纏う液体状の物質は記憶合金。数年前、イースがヤザワ学術院の実験体として遺跡に関する事件に対処するための力。しかし事件を機にイースはハヤサカの元を離れ、その際にハカマダと出会った。


「うるさいよ。もう終わらせるから喋らないでよ」

「喋るさ。遺言はできるだけ多い方がいいだろう? それに友の復讐に燃える君は中々に滑稽で、死ぬ前の楽しみとしてはちょうどいい」


 イースが押し黙り、ハヤサカが増長する。その一方でレイはマナの近くにいるクロエとサンシャの元にいた。


「なんでこっちに来たんだよ」

「あそこにいるのも野暮だろ」


 困惑気味のクロエからの言葉を、レイも困惑気味に返す。そしてマナに視線を送った。

 マナは基幹システムのロックを解除するために脳波を測定している。頭にヘッドギアのようなものを装着し意識はない。今はそのために仮想空間へと送られてそこでロックを解除している。


 特にモンスターも来ないこの空間は中々に平和なものでレイと護衛の二人は話し合う。

 すぐ隣から聞こえてくる破裂音やイースとハヤサカとの問答には耳を傾けず。

  

 そして一分もするとイースとハヤサカとの壁を隔てていた壁も薄くなりあと少しでハヤサカの攻撃が届くようになる。その時、レイはクロエとサンシャとの会話を切って、イースの元に向かう。


「どこに行くんだ」

「いや、少しぐらい手伝いをな。それとお節介だ」


 クロエからの問いに対してそう答え。レイはイースの隣に立つ。そして後ろの壁に背を預けにやけ顔を浮かべながら死を待っているハヤサカを見た。何も話さず、会話は交わさず。

 レイは次に隣にいるイースを見る。液体状の何か、確か記憶合金と言っていたが、これで壁を侵食するのはかなり疲れるのだろう。イースの顔には疲労の色が見えた。レイは一度目を閉じて考えた後、刀を取り出す。まだリモコンのような形で、展開していないものだ。

 そうするとイースがレイの方を見る。

 

「君は……外套の……すまない。割り込んできてしまって」

「大丈夫だ」

「ハヤサカを見つけ出して戦うために外套の男(きみ)の力が欲しかったのだけど、どうやら必要ないみたいだ。最後、譲ってくれるかい」

「ああ」


 レイはそれだけ言うと刀を展開する。そして透明な壁に突き刺した。記憶合金が侵食したことで壁は薄くなっており、刀の刃先が貫く。そして柄の部分を回すと刀身が赤黒く光り、直後爆発した。

 同時に壁には亀裂が走り、崩壊寸前。

 レイはイースが抱えているハヤサカとの関係をよく知らないが、それでも二人の会話からある程度理解できる。それに対して同情も共感もできるほど感受性に優れている訳でもないし、断片的なことだけ聞いて感傷に浸るわけでもない。

 二人の後ろにある複雑な関係など知らないし、ハカマダと知り合った時のことなども知らない。しかし勝手なお節介の一つとして、レイは壁にひびを入れた。


 ひびが入り、いつでも破壊できる状況になると同時に後ろに下がってクロエとサンシャの方を見た。その時にちょうどパスワードのロックが解除できたらしく、寝ていたマナが起き上がってヘッドギアを外していた。

 同時にレイの背後から壁の割れる音が響く。


 直後、研究施設が揺れた。


「……な」


 後ろから響いた破裂音。同時にレイの背後からイースがぶっ飛んできて横を抜けた。

 壁を貫通し、遥か後方へと吹き飛ばされたイースを見た瞬間にレイは悪寒を覚え全身の鳥肌が逆立つ。そして突撃銃を構えながら振り向いた。そこに立っていたのは一体の機械型モンスター。

 人型。しかし完全に人の形というわけではない。言うならば昆虫を人を模して作るとああなる。体全体を覆う装甲は昆虫の外皮のように照り輝き、角ばった姿かたちをしている。

 

 疑問に思っていた。

 イースがなぜ外套の男を求めたのか。ノーネームが公開した情報では外套の男がハヤサカ技術研究所に関わりがあるとは断定できない。その要素が無い。しかしイースは外套の男を探し求めた。

 ハヤサカ技術研究所に関しての情報が欲しいから、ではないだろう。

 だとしたら一つしかない。戦力の一つとして、イースは外套の男を求めたのだ。


 ハヤサカ技術研究所が持てる戦力に関しては不明だ。しかしアーネスや機械兵器があろうとイースならば簡単に切り抜けられる。当然、少しは苦戦するだろうがそれでも相手にはならない。

 だがイースは外套の男という特別災害指定個体を殺した男を欲した。

 つまり、特別災害指定個体を殺せるほどの男がいなければハヤサカ技術研究所を襲撃したところでハヤサカを殺しきれないと分かっていた。その障害となるのはアーネスか。いや違う。

 もっと別の、もっと強力で、強靭で絶対的な存在。

 そう、今目の前にいるような。


「逃げ―――」

 

 レイがクロエとサンシャ、そしてマナに向けてそう叫んだ瞬間、レイの体はイースと同様に遥か後方へと吹き飛ばされた。

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