第336話 失敗作と成功体
基幹システムまでの道のりは長くない。今の速度で行けば1分。これは地形が変化し、モンスターからの妨害によって進路が変わる可能性を考慮しての時間。もしこの大通りを真っすぐに行ければ数十秒で辿り着く。
ここが正念場。
レイはモンスターを刀でなぎ倒しながら突撃銃の弾倉が交換し終わるのを待つ。
依然としてモンスターは多い。基幹システムのある場所に近づくごとに数も質も上がっている。
しかしあと30秒。ここさえ持ちこたえれば届くはずだ。
「……なんだ」
車両が曲がり、基幹システムのある場所まで一直線に続く道路へと入る。道路の向こう側。それは一瞬見ただけで異質だと理解できた。今、レイ達の周りはモンスターで溢れている。
しかし基幹システムがあるであろう場所一帯には一体たりともモンスターの姿が見えない。これはレイ達が近づいていないから防衛設備が起動していないだけ、という問題ではない。
まるであそこの部分が神聖な場でもあるかのように、その存在すらも朧げ、どこか儚さを覚える。戦闘の後が残り、機械型モンスターが周囲を埋め尽くす周りとは決定的に違う。
基幹システムの周りだけがまるで異世界。別の世界のようだった。
本能で、直感で、あそこにまでたどり着くことで、あの境界線を越えることがゴールだと認識できる。距離としては数百メートル。高速で移動する車両ならば数秒で辿り着く距離。
しかし現実はそう上手くいかない。
道路にはびっしりと機械型モンスターが埋め尽くし、地面には亀裂が走ろうとしている。
(行くのか)
いつもならば、サンシャはここでハンドルを切って迂回経路から入っていた。しかしサンシャにその傾向はみられない。真正面から、この夥しい数のモンスターを相手にする決意を固めていた。
話さずともその決意を受け取る。
マナの表情は引きずり、クロエは苦笑する。
レイはただ突撃銃の出力を最大にした。
瞬間、目の前で車両に向け右腕に装着された銃器を向けていた機械型モンスターが木っ端みじんに吹き飛んだ。車両はレイの開けた穴から一直線に通り過ぎる。すでに退路は無い。
金切り音にも聞こえるほどの連射速度で突撃銃は発砲音を響かせた。機械型モンスターが力場装甲を展開しようと、簡易防御障壁を展開しようと、集まって壁に成ろうと。
地面が隆起し障害と成り果てても、モンスターの死体が積み重なろうと。
車両の目前に立ちふさがる障害をすべて破壊する。同時に、クロエとマナは演算処理を最大に、車体の周りに力場装甲を常に纏わせる。もうここでエネルギーを使い切ろうと関係ない。
すべてを出し切り通り抜ける。
力場装甲によって全体を保護された車両はまさに高速で移動する岩石。いや岩石などよりも遥かに硬く、強靭で、質量を持っている。比肩するところのない兵器とかした車両が残ったモンスターの在外すらも踏みつけ、弾け飛ばしながら高速で進む。
目の前にいた夥しい数のモンスターは一瞬にして機械片となって飛び散った。周りからはモンスターが来ているが、すでに基幹システムのある場所は見えている。境界線まであと少し、五秒程度で車両はその上を駆け抜ける。
しかし車両の目の前に障害が現れる。
空中を浮遊する機械人形。全体に滑らかな形で手はなく、足は無く、クリオネのような形をしていて浮遊していた。明らかに異質な個体。車両がこのまま突っ込めば何か良くないことが起こるのは本能的に理解できた。
すでにレイは突撃銃を撃ちきっている。
しかしここでレイが行かなければ、ここまで来て終わる。負ける。
レイが刀を構えた。その瞬間、レイの足元に力場装甲が展開される。まるでこれを足場に使えと、そう言っているかのようだった。レイは力場装甲を蹴り、超音速で衝撃波を出しながら機械型モンスターとの距離を詰めた。
同時にモンスターの周囲が歪み、来ていた強化服から軋むような音がする。恐らく、旧時代の強化服でなければ一瞬にして千切られ、潰され、殺されていただろう。そして機械型モンスターを破壊することすらも叶わなかっただろう。
しかし今、レイは旧時代の装備で身を包んでいる。機械型モンスターがいた時代の装備で戦っている。同じ土俵。経験と技術で優るレイの勝ちは揺るぎないものだった。
機械型モンスターの胴体に刀が突き刺さる。
直後、レイは柄の部分を捻る。するとモンスターの表面に亀裂が走り、そこから火花がほとばしる。そして火は強くなり、爆発音を響かせながらモンスターは粉々に砕け散った。
機械型モンスターを倒し終わったレイはちょうど後ろから来ていた車両に飛び乗った。
そして車両は境界線を越え、基幹システムの存在する異質な空間へと入る。
その瞬間、それまでレイたちを襲っていた機械型モンスターが動きを止める。まるで安全地帯の中にでも入ったかのようだ。空気感も変わり、雰囲気もどこか現実感が無い。
その中で一台の車両が道路を走っている風景は普通のことなのにどこか違和感を覚えた。
「あそこっすね」
目の前の研究施設。旧時代の建物が立ち並ぶ遺跡内にあってあの建物だけが現在の建物に見えた。
車両はゆっくりとその施設まで近づき、止まる。
「どうするっすか」
「俺が前を行く」
危険の有無を確認した後、車両から降りて来た一同はレイを先頭に施設まで向かう。
信号でも基幹システムがあの研究施設の下にあるのは確かなようだ。
施設の入口であるドアは透明で、よく中が見えた。開けた空間。巨大な一つのコンピューターが中央にあるのが見え、その横で白衣姿の女性がレイたちに手を振っていた。
「……」
一同は立ち止まり、果たしてこのまま進んでも良いものか頭を悩ませる。
あの白衣姿の女性は恐らく《《ハヤサカ》》だ。ハヤサカ技術研究所の現所長であり事の発端。
「行きましょうよ、どうせ変わりません」
サンシャの言葉を聞き、レイは歩み出す。
そしてハヤサカに目を向けながら扉を開いた。
「やっと来たね。そんな怖がらなくてもよか――」
一発の弾丸がハヤサカの元に向けて放たれる。しかし弾丸は直前で分厚く透明な壁によって阻まれる。
レイは続けて突撃銃を撃ちこむが壁に僅かな凹みができるのみ。
「野蛮だなぁ。君は。ここまで来てしまった以上、私は何もしないよ。早く基幹システムを貰うといい」
ハヤサカが一つ、大きなコンピューターとは別に小さな機械があるのを見て、それを指さす。
「基幹システムの一部が地上に露出している。マナだったかな、ロックの解除は自由にしていいよ」
レイが一瞬で三人と目を合わせる。そして意思を伝え合った。
「俺が見ておく、確認してくれ」
レイはハヤサカに目を向けながらマナと護衛の二人を基幹システムの元まで向かわせる。
その間、レイはハヤサカを見る。
「はっは。そう睨まないでおくれよ。私は別に敵じゃないだろう? 何なら君とは世界の秘密を紐解く同志じゃないか」
「…………」
「だんまりか、つまらないね。せっかく君は私という最重要人物に出会っているというのに」
その時、レイはマナの方を見る。するとマナを含めクロエやサンシャは基幹システムとレイを交互に見ていた。
どうやらあの地上に露出しているコンピューターは基幹システムで間違いないらしい。ロックの解除についてはレイの感知するところではないので、マナと護衛の二人にすべて任せ、レイはハヤサカの対処へと移る。
しかしこれといってすることもない。この分厚い壁を突き破ることは叶わないだろうし、今は取り合えず怪しいことをしないか見張っているだけだ。とは言っても、動きの一つ一つ、すべてが怪しく見えてしまうが。
「まったく、ノーネームも難儀な奴だよ。私はここまで頑張って来たってのにバラされて終わりだ。すべてを知ってる癖して当たり前に教えてきやしないんだから。独り占めはよくないよね、レイくん?」
「…………」
「本当につまらないな君は。まあいいよ。物語ならここでネタバラシでもするんだろうね。『来世より』みたいにね。私も例にならってネタバラシ、もとい憂さ晴らしでもしようかな。今まで集めて来たものは無駄になったし、こうしてまた無駄にしてしまった。ちょうど清算するにはいい機会だ」
「……」
「じゃあしかと聞くがいい。この世界、いやこの歪な原理をね」




