第335話 各々の役割
レイたちが遺跡の中を進んでいる。レイの不安に反し、遺跡に入っても何も起こらずモンスターの反応も今のところは見られない。しかし異変は確かにある。レイが今まで見て来た遺跡とは風景が違う。
外側から見て覚えた違和感を肯定するように、建物こそ立ち並んでいるものの、二つの物体が重なり合わさったかのような不格好な形をしている。外から見えたビルとプレハブ小屋が合わさったような建物。工場と複合ビルが融合したような建物。どれもが異質だ。
しかし異質なだけ。何かそれ以上の異常事態が起きているわけでも、襲ってきているわけでもない。依然としてモンスターはおらず、遺跡内を車両は走り続ける。
「あっれれ……おかしいですねー」
サンシャが呟く。その声は車両の天井部分に乗っているレイにも聞こえた。
その声には困惑が多く含まれている。しかし無理もないことだ。車両が映し出すレーダーには一体たりともモンスターがいない。高性能なレーダーは広範囲をより精度高く探知することができる。しかし拡大化した探知範囲に一匹たりともモンスターの生体反応が見えない。
というより、レイたち以外に生命が存在していない。
「まあいいです。取り合えず発信地まで一直線でいいっすよね」
基幹システムの居場所は、基幹システムが特殊な信号を出し続けているおかげで分かっている。もしこの信号が嘘で、ハヤサカ技術研究所にはめられたのだとしたら笑うしかないだろう。
今のレイ達にはこの信号を信じる以外に選択肢はない。もし信じなければ遺跡内で立ち往生だ。立ち止まってしまう、進むしか選択肢が残されていないのに。だから進む。
何があるかもわからないのに、馬鹿みたいに直進し続ける。
もうすでにレイ達は遺跡の外周部を抜け、中域へと入ろうとしている。中域からは自動修復機構が活きている。レーダーには映し出されていないもののモンスターが出てくるとしたらこの地点からだろう。
レイ達の走る一本の大通り。基幹システムの発信地まで繋がる一本の道。まるでこの道を行けと言わんばかりに基幹システムまでの道は一本に整備されていた。今からレイ達は駆け抜ける。
目線を少し遠くにやってみれば荒廃した遺跡と自動修復機構によって全盛期が保たれたままの遺跡がある。その二つの境界は恐ろしいほどにはっきりとしている。道路は一歩奥に行けば亀裂はなく塗装されている。融合したようなビルは無くなっている。
自動修復機構が活きている地点と外周部との間に存在しているビルに関しても、外周部側は窓が割れ、壁には亀裂が走っている。一方で中域側はいつでも使える綺麗な状態が保たれている。
一歩前は荒廃した世界が広がり。一歩進めば整備された旧時代が広がる。
今、レイ達はその境界へと近づく。
「じゃ、よろしくっすね」
サンシャの合図と共に最終準備へと入る。
クロエの前にはホログラムが浮き上がった。そして聴力を強化するヘッドフォンを装着する。
今からクロエはレイが捌き切れなかった攻撃から車体を守る役割を全うする。抜けて来た攻撃に対して局所的に力場装甲を展開し、攻撃から車体を守る。クロエはレイでも捌き切れず抜けて来る攻撃を瞬時に判断した上で、力場装甲を展開する場所を設定し、力場装甲の量と質に関しても演算処理で完璧に行う。
聴力は最大に。視力も最高潮に。ホログラムを操作する指先以外の感覚は捨て去って力場装甲を展開することに全力を割く。クロエの突出した演算能力を活かす時だ。また、その後ろではマナが後部部分に展開する力場装甲の演算処理を担当する。
そこにマナも加わって車体の後方部分の演算処理を担当する。
そして車体の上ではレイが真正面から敵の攻撃から車体を守る。強化服、突撃銃、刀、塑性粒子。すべてを活用し車体を守り抜く。それがレイの使命だ。
「さて行きますよ」
サンシャはいつもの上ずったような高い声ではなく、心底冷え切った極限の集中下にいるかのような声色で合図を出す。
その直後、車両は共感性を越える。
ピピ――――
地面から飛び出たターレットに対して、完全に展開することすら許さずにレイが弾丸を撃ちこんで破壊する。
しかし遺跡の防衛施設がそれだけであるはずもない。
建物が変改し、あるいは開き、中から機械型モンスターが飛び出す。ドローンが飛び交い、地面に亀裂が走ると隆起し車両の行く手を阻むように壁ができる。その中で、レイは車両の天井部分に立って防衛に当たる。
常に塑性粒子を展開しながら現れる機械型モンスターに対処する。
今回は瞬間火力が求められる場合は無い。突撃銃の連射速度を制限し、アーネスとの戦いの時のように弾倉を交換する時間を極限まで減らす。弾を一発も撃ち漏らさず、爆弾を持ったドローンを空中で撃破する。
ある程度の攻撃ならば旧時代製の強化服がレイを守り抜く。背面は塑性粒子の壁が防ぐ。
あとは飛び掛かる機械型モンスターを突撃銃で破壊し、あるいは刀で切り落とすだけだ。
しかしレイだけでは捌き切ることなど到底できやしない。
どうしても抜けて来た弾丸が車体へと命中する。そうした時にクロエとマナが力場装甲を瞬時に展開し、攻撃を防ぐ。たとえ爆発物を投げられようと、対仮想防御機構用弾丸を相手にしようと、量と質共に的確に合わせられた力場装甲が車体を守る。
しかし、現状何よりも重要な役割を占めているのがハンドルを握るサンシャだ。
たとえ地面が隆起しようとも、モンスターが立ちふさがろうとも、まるで生き物の体のかのように車体を回転させ、上下を入れ替え、側面を走行しながらすべての局面を切り抜ける。
車体の天井部分に張り付いているレイや力場装甲を展開するために演算処理をしているクロエとマナからしてみると動き回る車体というのは煩わしいものだ。レイに至っては車両が側面移動をする時に離れ、自分は周りのモンスターを倒し、踏み越えながら合流地点で天井部分に降り立つという芸当を何回も行っている。
というより、サンシャが本気でハンドルを握った瞬間からレイはほぼ車両の天井部分にいない。周りを走り回りながら守り、モンスターを破壊している。
しかしサンシャがこれほどの技術を持って攻撃を避けなければ今ごろ車両は破壊されていた。さすがのレイも地面が隆起し壁となるような現象にすぐに対応できるはずがないし、穴を開けるにしても突撃銃の全弾を一気に撃ち出さなければならない。そうすれば一定期間突撃銃が使えなくなる。
だからこそサンシャの運転技術が必須だ。
同時にクロエとマナもその事情を理解しているのでわざわざ怒ることも口を出すこともせず、ただ演算処理に専念していた。
この連携が険しい道のりを乗り越えた。
すでに基幹システムが存在する発信地はすぐそこだ。




