第334話 牙城に近づく
レイが遺跡の中へと姿を消す。その光景を後ろから戦闘課職員を束ねる立場にあるグレンという男が見ていた。アーネスと財閥どちらにも意識を割かなければならないためレイを見ていたのは一秒にも満たない時間だったが、それでも無事に見送り、後は任せた、と心の中で唱える。
そしてグレンは向き直り、自分達の敵を見る。
背後には財閥。目の前には巨大な人型ロボット。財閥は恐ろしい速さで近づきながら狙撃を繰り返し依然として脅威的。しかし現場に到着するまでに1分から2分ほどの猶予がある。
それまでにアーネスを仕留めきる。可能か不可能か、どちからと問われてみれば可能性は低いだろう。しかしやらなければならない。これでも何十年と遺跡で生活を共にした身。予想外にも、無理難題にも慣れている。それを乗り越えて来たからこそ今ここにグレンは立っている。
そして仲間も同じだ。
皆が歴戦のテイカー。引退したとはいえその実力は健在だ。
『特殊弾倉を使う』
強化服内部に取り付けられた伝達装置を使い仲間に言う。次の瞬間には突撃銃から弾倉を落とし、懐から取り出した特殊弾倉を装填する。そしてアーネスに目を向ける。
アーネスは現在足を地中から完全に出し、二足で地に立っている。その姿は巨大。雲を突き破るのではないかと錯覚してしまうほど。朝焼けの後光がアーネスの背面を照らし、実体よりもさらに大きくその姿を映し出している。
レイが破壊したコックピット部分はすでにナノマシンによって修復され、最初と変わらない。電磁装甲と力場装甲に加え簡易防御障壁も復活しているだろう。もう一度、アーネスのいる牙城へと迫るのは難しい。
しかし厳しくとも、殺しきらなければならない。幸いにも辛うじて戦力は揃っている。
今、剛腕を振り回し、レーザー砲を撃ち出すアーネスに対して三人の戦闘課職員が拮抗した状況を作り出している。特殊外筋性強化外骨格によってアーネスに対しても渡り合える。
あとは周りの人員次第。
グレンは財閥のことに関しては完全に仲間に任せ、自分はアーネスだけに集中する。装填したばかりの特殊弾倉の重みを僅かに感じながら、突撃銃を構えた。特殊外筋性外骨格を着た三人の仲間がアーネスの周りを動き回りながら関節に対して重いを攻撃を与えている。
しかしそれだけでは殺しきれない。
人型機械は壊れたところからすぐにナノマシンによって修理が開始される。一発で決めきる何かがなければ殺しきれない。出し渋りはしない。今この瞬間に仕留めきる。
グレンは隣にいる仲間と視線を合わせ意思を伝える。その瞬間、隣にいた仲間は持っていた紐を思いきりアーネスの方に投げつけ、コックピットの当たりの簡易防御障壁に先端が粘着する。
そして紐の収縮機能を使い、体を簡易防御障壁へと接近させた。先ほどと同じく特殊爆弾を張り付け、一時的に簡易防御障壁を弱めたところで特殊外筋性強化外骨格の力で押し切るという算段だ。
特殊外筋性強化外骨格の力さえあれば力場装甲も電磁装甲も、強化装甲も砕くことができる。
しかしアーネスにも狙いぐらい分かっている。一瞬、三人の職員から目を離して特殊爆弾を持って近づく戦闘課職員に攻撃を仕掛ける。しかし、その行動を事前に特殊外筋性強化外骨格を着た三人の職員が阻む。
僅かな隙。
職員は簡易防御障壁の元までたどり着くと特殊爆弾を簡易防御障壁に粘着させる。次の瞬間に職員は、今度は紐を棒のような硬化状態にして収縮機能を解くことで勢いよく後方へと吹き飛ばされる。
これで特殊爆弾の効果を受けない。
職員は後方へと吹き飛ばされながら特殊爆弾の起爆スイッチを押し込んだ。
次の瞬間に爆弾は爆発し、簡易防御障壁にひびが入る。そこにグレン達が特殊弾倉を撃ちこんでいく。弾丸は矢のように細長い形状をしていて、後ろの部分からは火薬が鳴いていた。
凄まじく甲高い音を響かせ、特殊弾倉は簡易防御障壁とぶつかった瞬間に破裂する。
簡易防御障壁には僅かに穴が空き、こじ開けるようにしてそこから特殊外筋性強化外骨格を着た戦闘課職員が割り入る。力場装甲をその身で貫き、電磁装甲をも貫通し、内部のアーネスまで届き得んと拳を振るう。
戦闘課職員の内一人が強化装甲を破壊し、コックピットが僅かに見える程度の穴を開けた。そして別の戦闘課職員がアーネスの元に拳を叩き得んと振り上げた。
その時、超高速で接近してくる飛翔体の存在を探知機器が感知する。
同時。拳を振り上げた戦闘課職員がアーネスの元に振り下ろそうとした時、飛翔体は人型機械のコックピット部分に直撃する。
「――――早い」
グレンが飛翔体の姿を目で捉え表情を歪める。
その飛翔体とは人であった。二メートルを優に超える巨体に分厚い装甲を着こみ、体の半分は機械化されている。空間が歪むほどの熱量と圧。手に持った戦鎚はその人物を象徴する武器である。
人の体を優に超える大きさを持つ戦鎚。飛翔体はそれをアーネスに振り下ろす中で周りにいた戦闘課職員を巻き込んだ。戦鎚と特殊外筋性強化外骨格が触れあった瞬間に装甲が弾けとんだ。その直後、強化服ごと職員は肉片となって飛び散る。
戦鎚は強化服を撃ち砕いたがその抗力で威力が減衰することは無く、逆に勢いが強まった。直後、振り下ろされた戦鎚は強化装甲を完全に貫きながらアーネスの眼前で止まる。
人型機械ではなくアーネスが展開している簡易防御障壁に阻まれたためだ。
戦鎚は止まり、簡易防御障壁にはひびが入る。もう一度男が戦鎚を振り降ろそうとした時、衝撃で吹き飛ばされながらもすぐに戦線へと復帰した一人の特殊外筋性強化外骨格を着た戦闘課職員が高周波ブレードを男に向けて振り下ろした。
しかし次の瞬間に戦闘課職員は戦鎚によって胴体が弾き飛ばされ、四肢は飛び散った。
邪魔者は消した。男はアーネスに向けて戦鎚を振り上げた時、すでにコックピット内にアーネスの姿は無かった。
「――ッチ。離れやがった」
男は操作を失い倒れ行く人型機械を踏みつけながら呟く。
そして今度はテイカーフロント職員の方を見て言った。
「一分だ! 一分で仕留めきってやるよ!」
グレンが目を見開く。
そして歯を噛みしめながら心の中で呟いた。
(……早いぞ。もう来たのか――《《ダグラス・ボリバボット》》!)
西部で名を馳せた三人のテイカーの内一人、ダグラス・ボリバボットは今テイカーフロントに斧が身一つで叩きあげた戦鎚を向ける。
そしてテイカーフロント職員の殲滅へと動こうとした瞬間、ダグラスが黒い外套に攫われるようにして吹き飛ばされ、《《次の瞬間には消えていた》》。
「……」
その場にいたテイカーフロント職員は目の前で起きた出来事が信じられず、また安心から放心状態だった。彼らは歴戦のテイカー。目の前で何が起きたのか当然理解できていた。
「来てくれたのか」
グレンが呟く。
今、ダグラスを吹き飛ばし、自分も共に荒野の遥か遠方へと移動していったのは《《スカーフェイス》》だ。
スカーフェイスは今回の依頼でダグラスとの因縁を終わらせるつもりだった。その背後にある複雑な事情に関してはグレンには推し量ることができないものだが、今は取り合えずこの状況をポジティブに享受するしかない。
敵は去り、場は一旦平静を取り戻した。しかしすぐに財閥が来る。依然として攻撃は続けられていた。そして一分もすれば財閥と直接の戦闘を強いられることになる。それまでに準備をする必要があるだろう。
「まだ僕は生きているのだから、忘れて貰っては困るな」
グレンの遥か後方。地面に走る亀裂付近で姿を現したアーネスが声を張り上げる。そして次の瞬間に、地面を抉りながら多数の機械兵器が地上へと姿を現した。




