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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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333/366

第333話 戦闘課職員

 財閥からの奇襲は予想だにしていない出来事であった。というのも財閥が座標までたどり着くのはあと10分ほどかかる予定だった。どれだけ少なく見積もっても5分ほど。

 しかし実際はもうすでに辿り着き、攻撃まで仕掛けられた。

 原因はすでに解明できている。光学迷彩によって本来の居場所を隠し、偽の位置情報によって惑わせ、場所を詐称してた。当然、テイカーフロント側もそれを見破るために幾つかの策を講じたが、どうやら財閥側が一枚上手だったらしい。

 テイカーフロント側は気づけずに先手を打たれてしまった。しかし元歴戦のテイカーだ。戦闘課職員はその一発ですべてを理解し、対策を取る。

 

 背後からの弾丸によって奇襲を受けた戦闘課職員は一瞬で判断を行い、それを全体に共有する。一部の人間はアーネスに注力しながら、別の部隊は財閥の対処へと移る。

 それとは別に三人の人員が車両へと近づいた。


 その時、レイは突撃銃の弾丸が回復するのを待ちながらもう一度刀を手に持った。そして人型機械へと近づこうとした時、戦闘課職員のリーダーらしき男から肩を持たれる。


「待て」


 今は人を呼び止めている場合ではないだろうと、銃弾が飛び交う中レイは振り向いた。


「なんだ」

「君は遺跡に行け、基幹システムを頼んだ」


 確固たる意志が込められた視線を向けられ、レイも真摯に受け止める。よくよく考えてみれば歴戦のテイカーである戦闘課職員のリーダーがレイを無為に呼び止めることなどありえない。

 現状。客観的に考えて一番に戦力があるのはレイだ。これは技術的な面でも経験的な面でも装備的な面を鑑みた上で簡単に出せる結論。財閥が来た今、無為に時間を使うことはできない。

 アーネスの対処に手間を取れば財閥に先を越される。しかし財閥に気を向けばアーネスから攻撃を受ける。どちらにも対処しなければならずとても遺跡内部へと入ることができない。

 もし入ることができたとしも一人か二人。それも拮抗状態を保つために必要でない、そこまで戦力の無い人員のみだ。しかし現状、この現場において無駄な人員は一人たりとも存在していない。 

 皆が一流のテイカー。己の持ち場を理解して動いている。しかしそれでも拮抗状態を保つことしかできない。しかしまだレイが残っている。レイだけは戦闘課職員ではなく、しかしながら現状ここにいる中で突出した力を持っている。

 

 レイがアーネスの対処へと行き、戦闘課職員が財閥の対処へと移る。それでも良いかもしれない。いや、それの方がより確実だ。しかし任務を完遂するという視点から見れば完璧とは言い難い。

 レイがいなくなればアーネスはさらに動きやすくなり、それだけでなく財閥が近づけば狙撃だけではなく肉弾戦も始まる。その時にレイがいれば勝てる。しかしそれでは基幹システムを奪取するという目的を、回り込んだ財閥にされてしまうかもしれない。

 故に、戦闘課職員はアーネスと財閥の相手を引き受けることを覚悟し、レイに依頼を出した。

  

 基幹システムの元まで行けと、マナとクロエとサンシャと共に任務を達成しろと。そう今依頼した。


 そして自分達が死ぬかもしれないという覚悟が込められた視線を向けられ、受け取ったレイは当然頷いた。


「分かった。頼んだぞ」

「ああ。当然だ」


 レイがその場から瞬時に離れ、少し離れた場所に泊めてあった車両の元まで行く。車両にはマナがおり、運転席と助手席にはそれぞれクロエとサンシャが座っていた。まるで、レイが来るのを待っていたかのように。

 恐らくマナの護衛をする上で車両の中にいるのが一番安全だからという理由でいただけだろうが、好都合だ。レイとサンシャが目を合わせた瞬間、それだけ意思の伝達は済んだ。

 

 突如としてサンシャはアクセルを全開で踏み込み車両を発進させる。

 レイは途中から合流するように車両の天井に飛び乗った。そして車両はアーネスの傍を通り、遺跡へと向かう。地面の亀裂を乗り越えた――その時、それまで戦闘課職員の方を見ていたアーネスがレイを見た。


「乗っているのがマナ・シリウスだね。行かせないよ」


 アーネスが人型機械の腕を振り落とす。空気を破裂させながら勢いよく近づく剛腕。

 レイは塑性粒子の壁を作る準備を進めながら弾丸の回復が済んだ突撃銃を構えた。しかしそれらすべては意味のないこと。レイたちが遺跡へと行く道は予想外に整備されていた。


「助かる」


 剛腕が車体に近づき、接触しそうになった瞬間、間に三人の戦闘課職員が割り込んだ。

 外骨格アーマ―のような見た目の巨大な強化服を着た三人の戦闘課職員が剛腕を受け止める。あまりの威力に戦闘課職員の強化服が軋み、足が地面に埋まる。しかし完璧に受け止めた。

 今、戦闘課職員が来ている強化服は元々車両の車体に使われていたものだ。見ると、戦闘課職員の乗っていた車体の幾つかは装甲を抜き取られた形で放置されている。

 これがテイカーフロントが作成した車両が持つもう一つの顔。車体が瞬時に特殊外筋性強化外骨格へと変化する特別仕様。通常の強化服よりも装甲が厚く、機能を詰め込むことができる余白がある分、力場装甲の出力も高い。

 

 その出力故、人型機械の剛腕をも受け止め。尚且つ三人が一斉に片手で剛腕を抑えたまま、もう片方で剛腕を殴りつけることで人型機械をよろめかせすらもした。そして戦闘課職員が作ったその僅かな間によってレイ達はアーネスの脇を走り抜け、遺跡へと近づいた。

 そして近くで遺跡を見た瞬間、レイの脳内に違和感が過る。

 これは長くの間遺跡に身を置いて、その景色を目に焼き付けたからこそ分かる違いだった。


 遺跡に立ち並ぶ建物は自動修復機構は外周部だけが僅かに稼働していなかった。最初はすべてが稼働しているとばかりに思い込んでいた。しかし近くでみれば違う。街灯によって光り輝いているのは遺跡の中域から中心部にかけてだ。中心部は違う。

 

(待て、なんで気がつかなかった)


 外周部の自動修復機構が稼働していないないことなどすぐに気がつけたはずだ。近づいたから気がつけた、これは少しおかしい。レイは自分自身を疑い、そして遺跡の変化にも目を留める。

 今まで見て来た遺跡とは異なり、目の前の遺跡に立ち並ぶ建物はどこか変だ。まるで二つの建物が融合したかのような、そんな不思議な見た目。例えばプレハブ小屋とビルが合体した、かのような意味もない不可思議な光景。


 目の前の遺跡は通常とは異なる。そしてこの建物の異変についても近づくまで気がつけなかった。


(……あ)


 というより、最初見た遺跡と今見ている遺跡は形が変わっている。間違いでも何でもない。純然たる事実として目の前の遺跡は数分前の遺跡とは別物だ。

 

 危険だ。

 

 脳が信号を鳴らす。しかしレイの危機感など意味のないものかのようにサンシャが元気よく口を開いた。


「よーし! 突っ込むっすよ!」


 今更立ち止まる選択肢はない。今までのレイならば僅かに足を止めていた。しかし今、サンシャがレイの前を突っ走ってくれたおかげで最後に思いきりがつけた気がした。


「はっは」


 車体の上で敵襲に備えながら、レイは笑った。

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