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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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第331話 決断と選択

 レイが光り輝く遺跡に目を向けながらミケと電話していた。その周りでは護衛をしていた他の車両が続々と集まり、テイカーフロント本部からの連絡を待っている際中だ。

 こんなところに人間の住む都市があるわけがないし、これまでの操作でも遺跡があることは分かっていなかった。そして第一陣、第二陣、第三陣、そのどれもからも「遺跡がある」などと言う連絡は入って来ていない。

 第二陣、第三陣の奇妙な失踪。ハヤサカ技術研究所の拠点があったという前情報。目の前に存在する遺跡は通常の遺跡とは取り巻く状況が異なっている。中に基幹システムがあるとして、悩んでいれば財閥が来るとしても、そう簡単に遺跡の中に入ってよいわけが無い。

 決断は慎重に、しかし迅速に行わなければならない。

 そして今、それを行うのは幸いにも現場の人間ではない。財閥が来るまであと少し。しかしその時間でテイカーフロント本部と連絡を取ることができる。数分とかからずに本部からは返答が返って来るだろう。

 果たして遺跡に行くのか行かないのか。撤退するのかしないのか。財閥と戦うのか戦わないのか。すべての選択権を現場の人間は上に委ねている。いや、もはやこの状況でレイ達だけが『現場』の人間などと言えるはずもなく、イナバやミケを含めた全員が戦いに身を投じる仲間である。

 

 だからこそ、レイ達は上からの報告に従う。それがたとえ命を投げ出すようなものだったとしても。ここにいる戦闘課職員はそれだけの覚悟ができている信頼の厚い者達だ。

 そしてレイも依頼を受けた以上、完璧に役割を果たすつもりだ。


『分かった。じゃあ頼んだぞ』

『はい。そちらも』


 ミケとの通話が終わり、レイはマナの方へと歩いて向かう。ミケは戦闘課職員の集団の近く、車両の傍でクロエとサンシャに囲まれていた。そこにレイが遺跡の方を見ながら合流する。


「そっちはどうするつもりなんだ」


 レイの言葉にクロエとサンシャは困り顔を浮かべ、マナは思い悩む。

 今回、あくまでも上の指示に従うのはレイと戦闘課職員だけ。その中にマナと二人は含まれていない。たとえ遺跡の中に行け、という指示がマナに下ったところで、それは指示ではなく願いになる。

 何ら強制力はなく、マナの意思次第。行けないならばそれまで、行くのならば護衛するまで。


 少し前までとは取り巻く状況が違いすぎるのだ。前までならばノーネームの情報が信頼に足るか分からないものの、基幹システムがあるものとして動けた。たとえそれが嘘でも仕方ないと、そう言える覚悟を職員たちはしていた。 

 しかし今目の前にあるのは遺跡だ。基幹システムがあるかどうかなど分からない。どうやら、第三陣が基幹システムの信号を受け取ったらしいが、今は無い。遺跡から発せられる信号によって覆い隠されているためだ。稼働する遺跡らしく妨害電波を発しているらしい。


 つまり、遺跡に基幹システムが残っているか不透明だ。前までならば迷わず向かえた。しかし今はそうもいかなくなっている。あるかどうか、その不安が芽生えてしまっているためだ。

 その不安がここで立ち止まり、テイカーフロント本部に指示を仰ぐという事態に繋がっている。この選択自体は間違いではない、しかし不安を増大させるものではあった。


 何より、基幹システムがあるかどうかも分からないのにマナが行く必要があるのか。前までならばハヤサカ技術研究所の拠点を襲撃するだけで事足りた。しかし今は遺跡を探索する必要性がある。

 基幹システムが無いかもしれない、遺跡の出現という不可解な状況によって基幹システムは壊れてしまったかもしれない。この状況でパスワードを解除するためだけにマナが行く必要があるのか。

 ないだろう。

 護衛するにしても戦力の無いマナを連れていくより、基幹システムの破壊に舵を切った方が早く、安全だ。

 その事実をマナと護衛の二人も理解しているため、ここで悩んでいた。恐らくテイカーフロントは二つの案を出す。マナが行く場合、行かない場合。この選択を迫られた時、迅速に決断しなければならない。

  

 財閥が来ている。今は何ともないが遺跡がどのような事態を引き起こすか未だ不明。事は早めに済ませておいた方が良いだろう。もし上から連絡があればマナたちはすぐに返答を出さなければならない。

 

 遺跡に行くという決断はほぼ無い。場所は遺跡だ。足手まといはいらない。基幹システムの破壊へと邁進した方が賢い。この際、パスワードのロックを解除し基幹システムを稼働する状態で手に入れることができた時の益については考えない。壊した方がどう考えても良いからだ。


「お嬢様。私は帰る方が良いと思います」

「私も同意見っす」


 クロエとサンシャがマナに告げる。これは単純に護衛として危険が減るだとか、仕事が減るだとかの安い理由ではない。マナの身を直実に心配しているからこそ出た言葉だ。

 もはやマナがいる必要が無い。その認識は全員が共有していた。そしてその上でレイ達がマナの答えを伺う。


「どうしたいんだ」


 レイが問う。

 マナが行けばその分危険が多くなる。周りに配慮するのならば行かないだろう。


「行きたいわ」


 しかしマナはそう言った。

 その言葉の裏にある因縁や思いについてレイは推し量ることができない。しかし昔と変わらない。フィクサーから依頼を受け、完璧にこなす。テイカーとして、傭兵として、レイとして、仕事を任せられたのならば完璧にこなすだけだ。


 レイとサンシャとクロエとが互いに一度目を見合わせて返事した。


「了解した」

「任せてくださいっす」

「分かった」


 それぞれ返事をすると準備を進める。レイはミケにすでに保存しておいた文面を送る。

 それはマナの決断に関してのことだった。

 今回、マナが来ることで他の戦闘課職員に迷惑をかけることになる。しかしそれで任務が失敗してしまえば足手まといどころの話ではない。そのためマナの護衛として参加するのはレイとクロエとサンシャの三人だけだと伝えるために、メールを送った。

 そしてちょうど、テイカーフロント本部からも指示が通達される。


(……だろうな)


 テイカーフロントからは『基幹システムの破壊』が命じられた。もしマナが付いて来るようであれば、そして無事に基幹システムに辿り着けばパスワードのロック解除を優先する、とも書いてあった。

 マナの決断を尊重する形で送られてきた文面だ。

 そして同時に、指示からはマナの護衛にはつかないくていいと、そういう記載もされていた。これで本当にマナにはレイを含めた三人しか護衛に付かなくなった。しかし逆にやりやすい。

 

 レイが戦闘課職員と共に行かないのは戦力的に相当の痛手だ。しかしレイはテイカーフロントからではなくミケとイナバから依頼を受けているに過ぎない。この二人がノーを突きつけるまでは当初の依頼を遂行するだけだ。

 

 強化服をいつでも起動可能な状態に設定し、突撃銃を持ち、準備を整えたレイが戦闘課職員を束ねる元腕利きのテイカーと視線を合わせる。


『任せたぞ』

『ああ』


 二人は軽く目で会話する。そしてレイと戦闘課職員がそれぞれ遺跡へと足を踏み入れようとした――その時に、空から降って来た。砂埃すら舞い散らせず、落下して気速度を考えると非現実的なほど静かに一人の男がレイ達の前に着地した。


「基幹システムはある。そう言いに来たところだったけど、どうやら要らなかったみたいだね」


 その男はレイ達の表情を見て呟く。

 決断は済ませた。基幹システムがあろうとなかろうと『ある』ものとして戦闘課職員は行動する。きっと基幹システムがあるかないか、それで悩んでレイ達が一歩踏み出せないと踏んでいたのだろう。

 しかし違うと目の前に立って分かった。


「歓迎するよ。レイ、この体で合うのは初めてだね」


 男が顔を上げて立ち上がる。

 レイと視線を合わせ口角を釣り上げた。見覚えのある顔。それは懸賞首。何度か戦い話した相手だ。


(やっぱいるか)


 レイが《《アーネス・ウォッチャー》》を目の前に据え、心の中で呟いた。

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