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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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330/366

第330話 座標での異変

 先行隊から続けての連絡はない。今のところ座標の位置にハヤサカ技術研究所の拠点があったということしか分からない。しかしこの『連絡がない』という事実だけでも色々と勘繰ることができそうだ。

 普通ならば連絡はすぐに共有されるべきだ。先行隊からテイカーフロントの本部へと伝わり、その後にレイたちのような各部隊へと通達される。ある程度の過程こそ経るがそこまで時間がかかるような行程でもない。

 次の連絡があるのならばすでに来ているはず。

 考えられる線は幾つかある。まずテイカーフロント本部が先行隊から来た情報を停めている場合。先行隊から届いた続きの連絡が予想以上の混乱を引き起こすものだと判断し、敢えて他の部隊には知らせないという線。

 もう一つ。

 単に先行隊から連絡が来ていないだけ。先行隊が何らかの理由によってテイカーフロント本部に連絡を送れる状況ではないのか、それとも《《すでに死んでしまったか》》。

 確か先行隊は三つの部隊から構成されていたはずだ。一部隊六人であるから座標に辿り着いたのは18人。このかなり多い人数がテイカーフロントに続きの連絡を出せずに全滅。

 先行隊はテイカーフロントでもかなり指折りの実力者。元は腕利きのテイカーを職員として雇用したような経歴と実力がある人物だ。遺跡で生活を共にしてきたテイカーということもあり、単純な腕っぷしだけでなく予想外の状況というのにも慣れている。

 奇襲を受けたところですぐに壊滅させられる可能性は低い。しかし場所はハヤサカ技術研究所の拠点。何があるか分からない。たとえ腕利きのテイカーでもモンスターの住処に入ってしまえば生きて帰れないように、地理というのは戦う上で重要だ。


 思考を巡らせる一同。その時テイカーフロントから連絡が入る。


「……そう簡単には行かないようだな」

「……そうっすね」


 メールには先行隊からの信号が潰えたことを伝える旨が書かれていた。

 だとすると、とレイは思考を巡らせた上で呟く。


「要は三つ巴ってことか」


 信号が途絶えた。先行隊は全滅したものと考えてよいだろう。

 本来ならば先行隊がノーネームの設置した障害を突破しながら基幹システムを先に占領するはずだった。しかし第一陣で行っていた先行隊がいなくなったことで逸れも難しくなった。

 これから先行隊に続いてテイカーフロントの部隊が到着するだろうがハヤサカ技術研究所を相手に、また18人の腕利きの職員が全滅した背景を踏まえると、簡単に行くはずがないだろう。

 それでいて財閥はすでに出動している。

 

 財閥が座標の位置までたどり着くのは時間の問題。レイ達が着くのと同時か、少し遅れて到着するだろう。

 この時までハヤサカ技術研究所とテイカーフロントとの争いが終結している可能性は限りなく零に近い。つまり座標でテイカーフロントと財閥、ハヤサカ技術研究所が一堂に会することになる。

 基幹システムのためにテイカーフロントと財閥が手を組むことなどありえず、あくまでもハヤサカ技術研究所は基幹システムを奪い去るために邪魔な障害として対処し、テイカーフロントと財閥はそれぞれを基幹システムを奪い合う敵だとして殺し合う。

 

 座標で財閥とテイカーフロントとハヤサカ技術研究所が互いに互いを敵として戦い合うのはもうすでに必然。あとはどちらが勝つかという結果のみ。


「……はあ」


 窓の外を見ると空はすでに赤くなり始めていた。朝焼けだ。日の出が近づいている。

 時刻は5時40分。

 レイたちが座標へと着く頃だ。


 ◆


 レイ達より先を行く第二陣、第三陣の部隊が座標へと到着する。その度に情報が伝えられた。

 第二陣からはハヤサカ技術研究所と交戦中にあること。これから交戦すること。

 第三陣からはハヤサカ技術研究所と戦う第二陣と接触したこと。同時に財閥の一次部隊が現れたこと。三つ巴の戦闘になりながらも情報は送り続け、またテイカーフロントからレイ達へと情報は迅速に伝達された。

 

 しかしある時を境に第二陣からも第三陣からも連絡がぱったりと途切れ、それ以降消息が不明。財閥がどうなったのか、ハヤサカ技術研究所はどうなったのか、テイカーフロントの部隊は全滅したのか、すべてが不明な中で一番先に辿り着いたのはレイたちだった。


「……」

「……」


 運転席と助手席からそれぞれ前方の景色を視界に入れ、誰よりも早く状況を理解したサンシャとクロエが言葉を失う。その次にレイがトランク部分からフロントへと視線を送り、現状を把握した。

 車両は座標から少し離れた場所で止まる。当然だ。座標の場所まで行ってしまったらレイ達に何が起こるか分からない。というより、物理的に行けない。


「レイくん、これはどう考える」


 クロエが言葉を絞り出してレイに訊く。レイはまだ混乱しているものの状況を少しずつ整理していく。


「確か……第二陣、第三陣からの連絡によるとハヤサカ技術研究所の拠点はそこまでの大きさではないはずだ。それでいて基幹システムは地下に埋め込まれている。財閥やハヤサカ技術研究所の妨害によって地形の詳細なマッピングは済んでいなかったが、テイカーフロントへと送られた未完成の地図では、幾つかの簡易的な建物が立ち並ぶ空間だったはずだ」


 しかし違う、とレイがフロントから見える景色を視界に収める。

 第二陣、第三陣が命を賭して作った付近の詳細な地図。情報処理端末による自動マッピングによって形作られたハヤサカ技術研究所の拠点。あまり大きくはなく、プレハブ小屋のようなものが幾つか立ち並ぶ空間。

 なぜ第二陣、第三陣が消えてしまったのかは不明で、現場に着き次第基幹システムの奪取と共に捜索を開始する予定だった。しかし目の前の景色を見てしまった以上、それが無意味だと分かる。

 恐らく死んでいる。財閥の部隊も同様に。


 跡形もなく。

 第二陣、第三陣が残した地図は意味のないことになった。


 目の前に広がる光景は、懐かしく、同時に緊張感を覚えるものだった。慣れ親しんだ場所、光景。レイに生きる術を与えた空間。第一陣にも第二陣にも第三陣からも報告が無かった異常空間。

 レイ達の前に広がるその異質且つ見慣れた光景に、思わず言葉を漏らした。


「これは……目の前にあるこれは、間違いなく《《遺跡》》だ」


 フロントから見えるのは朝焼けの空を切り裂くような光を灯す遺跡。自動修復機構が完全に稼働している一つの遺跡だった。情報処理端末の自動マッピングによって作られた地図とは遥かに異なる旧時代の遺産がそこに佇んでいた。


「周りの部隊を集めてくれるか、俺はテイカーフロントに連絡する」


 レイがクロエとサンシャに告げる。

 マナという最重要人物をレイと二人だけで守っているはずがない。レイ達の車両の周りには並行して付近を警戒するテイカーフロントの車両が走っていた。それを今一つに集め、今後の予定を決める必要がある。

 遺跡を前に猪突猛進はできない。しかしだからといって立ち止まれば財閥が来る。

 その決断をするために集める。周りの部隊もそのつもりのようでクロエとサンシャがわざわざ連絡する以前にレイたちの元まで集まろうとしていた。その中でレイはトランクを内部から開けて外に出る。


 そして、通信端末を片手に光輝く一つの遺跡に視線を送った。

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