第329話 基幹システムの座標
しばらく走りった頃、すでに財閥が動き出したと情報が入った。ノーネームから送られてきた座標から一番近くの都市から関連企業の部隊が出動し、それだけでなく他の場所からも部隊が出てきている。
相手はテイカーフロントと違いある程度事を荒立てたところでもみ消せばよいだけ。出動している部隊はテイカーフロントよりも多い。それでいて身に着けている装備は最高級のものだろう。移動手段として使っている車両も今レイたちが乗っている物と同程度かそれ以上の性能がある。
敵部隊が目的地にまで辿り着くまでそう時間はかからないだろう。
しかしそれでもテイカーフロントの方が早い。やはり財閥よりも早く情報を伝達されていたのが大きいだろう。ただそれでも基幹システムの奪取が遅れれば、そしてマナが辿り着くのが遅れれば財閥との直接対決は避けられない。
基幹システムはもともと経済連のものだ。所有権は経済連に、ひいては財閥にある。それを無理矢理奪おうとしているのだからテイカーフロント側の立場は弱い。しかしテイカーフロントももし基幹システムを奪われれば、テイカーフロントが無くなる。厳密にはテイカーフロントは存在として生き残るものの今の経済連と同じ、財閥のために動く手足となってしまう。
そうなれば戦って負けた後と同義だ。テイカーと職員のことを考えるのならばここで基幹システムの奪取が失敗に終わった時点で、今の幹部たちは全員辞職して、テイカーや職員に影響を及ぼさないよう配慮するのが当然だろう。
恐らく、イナバを含めた幹部たちももうその決断をしているのだろう。
この戦いが終わった時、自らの手中に基幹システムが無ければ辞職という名の、文字通りの死を受け入れる気概でいる。手に入れさえすればスカーフェイスやイース・マーダと言った存在の抑止力によって財閥はむやみな戦いは避けるはずだ。
直接的な戦いになったとしても恐らく財閥はテイカーフロントに勝てる。しかし被害は大きい。今夜のこの事件で出た損害には目を瞑り、負けを受け入れるしかないはずだ。出来たとしても多少の責任追及だけ。テイカーフロントはその程度の責任ならば負えるし、最悪幹部一人を犠牲にすればいいだけ。
それに、今回テイカーフロントには最終手段が残されている。
「本当に、私って必要なのかしら」
ふとマナが呟く。静かな車内にマナの声はよく響き全員の耳に伝わる。最初こそその意味を全員が理解できていなかった。しかしレイは少ししてその意図に気がつき、遅れてクロエとサンシャも気がつく。
「マナ様。あれは最終手段です。さすがのテイカーフロントも使える状態の基幹システムが欲しいはずですよ」
マナの懸念。それはテイカーフロントの最終手段に関してのことだった。テイカーフロントとしては基幹システム内部にある経済連が所有していた管理権を渡さないことが大事だ。
そのため、もし奪われるようなことがあれば破壊してしまおう。そういった手段を取るのは容易に想像できる。というより、それが最善だ。もしマナが辿り着くことができず、基幹システムを奪われるようならば爆破して悩みもある程度吹き飛ばす方が楽だ。
基幹システムの核を構築しているアーティファクトの性能が分かり切っていない今、爆破しても恐らくアーティファクトは破壊されないだろうが、それでも基幹システムが無くなればアーティファクトを上手く稼働できるかは不明。
別にテイカーフロントは爆破した後にアーティファクトを奪ってしまっても構わない。
基幹システムを構築しているアーティファクトはまだ経済連とテイカーフロントとの仲が良かった時代に《《貸していた》》ものだ。ただ貸していたことに関して銘記している資料に関しても基幹システムの中に保管されていて、他の場所に保管していた資料は経済連が財閥に乗っ取られる中で消失した。
取り合えず。テイカーフロントにとっては基幹システムがそのままの状態で手に入れることができるのが一番。次点で破壊だろう。現状、テイカーフロントの先行隊は財閥よりもはるか先を進んでいる。先に辿り着くのはテイカーフロントの方だ。
そうして現状について色々と考えているとレイやクロエ、サンシャの元に一報の連絡が入った。
「……」
「……」
「……」
三人はメールを見て開いた口を閉じる。最初こそは吉報。しかし読んでいくとどうやら面倒な事態になっているらしく、口を閉じてしまった。
座標の位置にノーネームは何かしらの仕掛けを施していることは分かっていた。ただ基幹システムを置いておくだけでは味気ないし、何も無かったら簡単にテイカーフロントが奪取できてしまう。
ノーネームの人柄は分からないし、何をしたいのかも現状理解できていない。しかし障害を設置してくることは分かっていた。モンスターか、環境的なトラップか、未発見の遺跡の中にあるのか、ある程度予測できていた。
しかし先行隊が発見したのはそのどれでもない。
今まで予想すらしていなかった脅威。ノーネームが裏に隠す意図が透けて見える現状だった。
「いやーこれは面倒っすね」
「そうだな」
メールを見てクロエとサンシャが呟く。それに続いてレイも頭を抱えながら口を開いた。
「ここでこいつらが絡んでくるのかよ」
基幹システムが置かれた座標はハヤサカ技術研究所の拠点の中だった。




