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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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第328話 現状到達点

 レイは笑いながら渡された注射器に薬剤の入ったカプセルをセットすると、自らの左手に打ち込んだ。

 特にこれといった影響はない。一般の強化薬を使用した際の高揚感を感じるのみだ。

 敷いて言えば他の強化薬よりも体に馴染むのが早い気がする。レイ自身、あまり強化薬を使用した経験がないが、それでも他の強化薬と異なってすぐに体に浸透した気がする。


「どう、何か変化はあった?」

「いやこれといったものはないな」


 特筆して大きな変化はない。

 強化薬を打った結果そう判断したレイはマナの質問に対して答えた。しかしすぐにその考えを否定する。


「いや、少し……かなり違うな」


 即効性ではないのか、少し経った今強化薬を打った影響が体に現れ始めた。まず視界が以前と少し異なっている。遠くのものを見ようとするとき眼球は自動でピントを調節するが、その時の動きが速くなっている。

 窓越しに荒野を眺めることでその変化に気がつくことができた。

 それだけではない。

 体は軽く、感覚は鋭敏だ。腕を動かすだけでもその変化が知覚できる。指先の動き、筋肉の動き、すべてが手に取るようにわかり自由に動かすことができる。人間は自身の体を完全に動かすことはできていないという話があるが、今のレイは自らの体を完全に動かすことができているような気がした。

 前までもレイは自分の体を完全に動かせていると考えていた。少なくとも常人よりかは遥かに感覚に優れ、あらゆる動作を脳内で思い描いたように行えた。しかしそれは誤りだと今気がつかされた。

 明らかに、今の方が体を動かすことができている。

 より高い精度で、より早く、より強く。腕を動かす動作一つとっても違う。これらすべてが強化薬の効果だと――現状から判断するに――思うしかない。レイが今打ち込んだ強化薬と中部で打ち込んだ強化薬。どちらとも同じスーツケースの中に入っていたものだ。


 もしかしたら相乗効果があるのかもしれない、そう考えるのも不思議ではない。


 自らの体に起きた変化についてレイが確認していると、助手席に座るクロエから声をかけられる。


「ちょうど良かったな。モンスターだ。頼めるか」


 レイが相手しなければならないのはノーネームからの刺客だけでも、財閥だけでもない。荒野を移動すれば当然モンスターと出会う。マナを無事に送り届けるために処理するのはレイの仕事だ。

 そしてちょうど強化薬の効果と身に着けたアーティファクトの性能を試すにはちょうど良い機会だ。


「分かった。開けてくれるか」

「了解」


 クロエがトランクを開ける。レイは僅かに風を感じながら遥か後方にいるモンスターを見た。

 自らの足元すらも見えない暗闇の中で、レイは確かに数キロ先を走るモンスターの姿を鮮明に捉えることができた。


「……ふう」

 

 レイが現在持っているのは刀と銃器の二つだ。直接戦うわけでもないし、激しく動くわけでもない。強化服と刀を試すことはできないだろう。しかし、銃と義手を使う絶好の機会だ。

 中央部分に何かが詰まったかのように歪な形をしていた銃器がレイに触れられることによって展開し突撃銃のような形になる。全体的に角ばっていて凹凸が目立つデザインだ。

 現代で取り入れられている滑らかな曲線上のデザインとは大きくかけ離れた形の銃。しかし何故か邪魔にならない。少し狭いトランク内でも取り回しが気にならないほどに。

 それでいて重心も隔たりが無く持ちやすい。

 ただ、旧時代の武器というだけあってモンスターとの距離がある程度離れていようが確実に撃ち抜いてくれるだろう。しかしこの距離を突撃銃で撃つというのは気持ち的な部分で違和感がある。

 

 レイが照準器を覗き込み、そう思った瞬間。突撃銃は姿を変え表面の装甲が移動しながら内部構造すらも変化する。そして瞬きをする程度の瞬時の間に突撃銃から狙撃銃のような形になった。

 内蔵された照準器の倍率も変更され、より遠い場所まで照準を合わせることができるようになる。


 砂塵を巻き上げながら移動する一体の生物型モンスター。その巨体は準懸賞首として認定されてもおかしくはないほど。夜の荒野にはこういったモンスターに運が悪ければ遭遇してしまう。

 故に移動は基本的に控えられる。


 だが今は緊急時であるため移動せざる得なくこうしたモンスターと出会うのは仕方のないことだった。

 今までならば対処に一苦労するモンスターだろう。『それ』の使用を余技なくされていたかもしれない。


 しかし今は違う。


 静かに、ただゆっくりとレイが引き金を絞る。その直後、撃ち出された弾丸は数キロ先にいたモンスターに直撃する。引き金を絞ってから着弾まではレイでも一瞬気がつくのが遅れる程度には一瞬の出来事だった。

 体感では指先に力を入れた瞬間に照準器に映っていたモンスターが弾けとんだような感じだ。

 あれだけの巨体。しかしたった一発の弾丸で体全体を弾け飛ばした。それほどまでにアーティファクトの力は絶対的。やはり旧時代産といったところか。撃ち出した時には発砲音が無く反動も無かった。

 銃を撃った、という感覚を抱かない程度には現在の武器とはかけ離れた性能をしている。


「終わったぞ。報告しておいてくれ」

「分かったっす」


 サンシャが答えるのと同時にトランクが閉まる。


「いやーすごいっすね。それがアーティファクトっすか?」

「ああ」

「あれだけの巨体が一発っすよ。Gシリーズのランク『10』よりも性能高いんじゃないっすかね」

「どうだろうな」


 バルドラ社のGシリーズの最高級品モデルと今使っている武器の性能を比べながら、レイは自らの体を武装するアーティファクトに目を向けた。同時に目に入って来たのは車体の内部に取り付けられた時計。

 時計には3時40分と示されていた。

 もうすでに財閥に情報が渡っている頃。そしてそろそろ動き出す頃だ。

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