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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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第326話 護衛と主人

 レイが車両の前に立つマナを見た後、近くで車両に荷物を運びこんでいた二人の護衛に目を向けた。その時、レイの視界に入ったのは見覚えのある人物。


「久しぶりだな」

「にゃははーお久しぶりっす」


 マナの横で護衛していたのはクロエとサンシャだ。

 二人はレイの姿を見つけるとそう言って、またすぐに荷物の整理へと移る。レイはその姿を見て横にいるミケに問いかけた。


「あいつらは機密部隊だろ」


 クロエとサンシャの二人はテイカーフロントの敵である経済連所属の機密部隊だ。敵が何故ここにいるのか、理由こそ分からないもののこの大きすぎる疑問にレイは頭を悩ませる。


「そうですね」


 しかしミケからの返事の内容は欲していたものではなく、そしてミケはさらに続けた。


「その辺の事情に関してはマナさんから聞いてください。もう時間もないので」


 テイカーフロントが二人の素性を調べていないわけが無い。つまり二人が経済連所属の機密部隊であることを知っている。わざわざ敵を招き入れる必要は無く、何らかの理由があることは理解できる。

 まず、機密部隊である二人がここに来ていて、そして経済連に基幹システムの情報が渡っていないということは『二人が経済連を裏切ってここにいる』可能性が高い。当然ながら二人はテイカーフロントの味方だ。

 二人は前に前哨基地であった時にマナと知り合いである旨について説明していたので、マナと共にいるのはある程度納得できる。

 そしてパスワードを解除できる人員ということで紹介されたが、サンシャとクロエの二人がそうである可能性は護衛として説明された以上ないので、マナがそうなのだろう。

 テイカーフロントが――危険で無いと分かったとしても――機密部隊の者達を今回の任務に使用することは無いはず。マナを含めたこの三人が何らかの取り引きをしてここにいるのだろう。その取り引きがパスワードに関することであり、二人が経済連を裏切った理由でもある。


「なにボケっと突っ立ってんのよ」


 レイが現状の疑問点について思考を回していると腕を組みながら、マナが早く車両に乗るように催促する。

 レイは一度ミケの方を見て「ここまでありがとう」と告げてからマナの方を見た。


「なによ」


 不意に真正面から見つめられたマナは僅かな戸惑いを滲ませながら口を開く。するとレイは車両に近づきながら周りを見て、答えた。


「ミナミさんはどうしたんだ」


 マナとミナミとの関係性をレイは深く知らない。しかし中部でフィクサーとして活動していた時の記憶から、主と従者のような関係にあるのは確かだ。マナの隣にはミナミがいるもの、そう思っていたが周辺を確認する限りいない。

 その疑問に対する答えはマナが案外早くくれた。


「今、ミナミは仕事中よ。大事なね」


 どこか遠い目をしながら言うマナに対して、レイは「分かった」とだけ言って、それ以上追及することを辞めて車両の方に視線を移す。

 荷台の無い堅牢な装甲車両だ。恐らく自動追尾ロケットやターレットに対して一定の効果を持つ電波を常時発している。それだけでなく単純な防御性能も高い。テイカーフロントが今現在、すぐに用意できる車両の中で最も高価且つ性能の高い車両を用意したのだと、一目見ただけで分かる。

 乗っていればまず死なないだろう。

 それこそファージスが持っていた電磁機構砲台や神墜としでも無ければ破壊できない装甲。あくまでもレイの仕事はマナの護衛ではなく敵の殲滅とマナを基幹システムの元まで送り届けることになる。

 しかし護衛としてサンシャとクロエが乗っていることを考えるに、レイは敵の殲滅だけを考えていればいい。攻撃が最大の防御とも言うが、レイが敵を殲滅することで攻撃を防げる。

 物事は単純に考えた方がいい。

 自分はただ敵を殺す。それだけで十分だ。


「ほら、行くわよ」


 マナが後部座席の扉を開けながら言う。すでにサンシャとクロエは荷物を運び終えそれぞれ運転席と助手席に乗り込んでいた。最後のレイは後部座席に乗り込むと、その後ろのトランク部分へと入る。

 戦闘時はこの後ろの部分が一部開き弾丸を撃ち出せる状態になる。

 その際、後部座席と繋がる部分には力場装甲が張られるため弾丸や爆弾が貫通することはない。もし破壊されることがあったとして、それは電磁機構砲台や神墜とし程度の力が必要になる。もしそうなれば力場装甲を貫通するとかの次元の話ではなく、車両そのものが破壊されるのでトランク部分が開いていたこととは無関係だ。

 タイヤや燃料タンク、その他駆動に必要な設備はすべて車両の前方部分にあるのでトランク部分が破壊されたところで車両に関係が無い、レイが引きずり落とされるだけだ。


「俺はもういいぞ」


 トランク内部で先ほどサンシャとクロエが積み込んだ先頭に使う品物に囲まれながらレイが言う。

 出発するのならば早い方がいいだろうと、そう思ってまだ体勢は整っていなかったもののそう言ったレイだったが、運転席の方からサンシャの声が返って来る。


「あ、少しお待ちくださいっす。なんかミケさんが最後に渡したいものがあるらしいっす」


 そう言ってトランクが自動で開かれる。

 そして開かれた先で待機していたミケがレイを一度見て、手に持ったスーツケースを前に出した。


「渡すのを忘れていました。必要になるかは分かりませんが、一応」


 そう言いながらミケがスーツケースをレイに渡す。


「開けてみてください」


 ミケに促されるままレイがスーツケースを開ける。中には何も無かった。否、そう思った直後、レイの視界の中に半透明の粒子が見えた。


「塑性粒子か」

「はい。バルバトスと戦っている映像と、昏睡から目覚めた際に塑性粒子のことについて口にしていたのでもしかしたら、とイナバさんの許可を得て倉庫から持ってきました。テイカーフロントでは上手く扱えない代物なので、レイさんにと、これも今回の依頼の報酬です。どうですか、必要ですか」


 レイがスーツケースに詰められた塑性粒子に触れる。すると自由意思を持ったかのように塑性粒子は触れた指先から伝ってレイの全身へと移動する。


「どうやら使えるみたいだ」

「それは良かったです」


 ミケが笑って頭を下げる。


「では頑張ってきてください。テイカーフロントはあなたの帰りを待っていますので」

「ああ」


 そしてミケが顔を上げるのと同時に、トランクの扉が閉まっていった。

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