第324話 アーティファクト
テイカーフロントの地下。恐らくレイのために用意されたアーティファクトが用意されている倉庫の前にレイは立っていた。その横にはイナバの姿があり、後ろにはミケが控えていた。
「幾つか用意しました。《《体に合う》》ものを選んでください」
イナバはそう言いながら、目の前の重厚な扉へと近づく。まずは手をかざし指紋認証を解除する。次にセンサーで目を読み取り虹彩認証を終わらせる。最後に幾つかのパスワードを打ち込みロックを解除する。
「では、ここからはテイカーの領分です」
イナバが扉を僅かに開き、レイを中へと案内する。
「ここから先はミケさんにお願いしています」
レイの横に後ろで控えていたミケが並ぶ。
「では、いきましょうか」
ミケがそう言って一歩前に踏み出す。そしてレイも「ああ」とだけ答えて扉の奥へと足を進ませる。だがその前に、一度イナバの方を見た。
「今までありがとうな」
「こちらこそ、またこうしてお手伝いができれば良いと思っていますよ」
そしてレイとミケは部屋の中へと入る。その僅か後に後ろの扉が閉められる音が聞こえた。
中に入ったレイは倉庫内部を確認する。まずは一周ぐるりと確認し、部屋の広さや置いてあるものを確認する。しかしその心配がいらないほどに、だだっ広い部屋には少量の遺物しか置かれていなかった。
見る限り、強化服のようなものとリモコンほどの大きさの物体。そして突撃銃か狙撃銃かも分からないような銃。最後に義手のようなもの。これだけ大きな部屋に置かれているのはそれだけ。少し見劣りするかもしれないが、あれら遺物は一つでも300憶以上の価値を持つアーティファクトだ。
「レイさん。どれから試してみますか」
ミケが問いかける。時間もあまりなく、浪費するだけ財閥の出動時間が近づく。レイは取り合えず目に付いたものから手に取って確認してみる。
「もう触っていいのか」
「どれからでもどうぞ」
レイはまず銃器を手に取ってみる。まるで鈍器のような見た目。突撃銃にしては短く、それでいて何かを詰め込んでいるかのように中央部分が膨らんでいる。照準器も無く、ストックも無い。近くで見てみると銃器なのかも怪しい代物だ。
しかし、レイが触った瞬間にその評価は一変する。
義手の右手で触れた時は何とも無い。しかし左手を銃器に当てた瞬間にピピピと機械音が鳴り響いた。直後、銃器は瞬きをする間に展開し、格納されていた状態から本来の形へと戻る。
「……そうか」
とても銃器には見えない。中央が膨らんだあの形は銃が折りたたまれていたためだ。こうしてレイが触ったことで展開した。
そうして興味深そうに銃器を眺めるレイの後ろでミケは、顎に手を当てて「やっぱり」と小さく心の中で呟いた。
そしてそんなミケの方を一度見て、レイが問いかける。
「これはどうなんだ。撃ち出せるのか?」
「分かりません」
「回収してから撃ったことが無いのか?」
「はい。ちょっと諸事情で、もし撃つとしても何があるか分からないので荒野に向けてお願いします。ここでは駄目です」
「分かった」
「では引き続きお願いします」
一旦、銃器から手を離しレイはもう一つの装備を手に取る。それはリモコンのような見た目をした武器だ。最初と同じく、右手の義手で触れて、持ってみても何ら異変は無い。しかし左手で持った瞬間、リモコンのようなそれは形態を変化させ一本の刀となる。
その刀は『それ』で作った黒刀に似ていた。
「………」
レイは無言で刀を見る。その横でミケが一言告げる。
「その刀は、瞬間的に原子の化学結合を切断を可能とする刀です。今は起動しないでくださいね」
「ああ。分かった」
レイは刃を格納する方法を知らなかったが、直感的に操作方法を理解していた。そのため幾つかの――ボタンを押したり、ずらしたりなどの――操作をして刀をリモコンのような形の状態に戻す。
そして次へと移る。
残り二つ。強化服のような、いやどちらかというと簡易型強化服のような薄っぺらい生地の服。もう一つが義手だ。
レイは自らの機械になった右腕を触り、ミケの方を見た。
「いいのか」
もしこの義手のアーティファクトが使えたら今使っている義手は必要なくなる。完全に要らなくなるわけではないのだが、アーティファクトが壊れたり使えなくなったりなどの緊急時以外の使用はないだろう。
今まで、レイのために作られてきた義手だ。当然、完全にレイのため、というわけではなく、その延長線上にある技術発展のためでもあった。しかしレイのために労力をかけて開発した義手。申し訳なさが残る。
しかしそんな心配をミケは一言で切り捨てた。
「大丈夫ですよ。あなたはテイカー。より良い装備を選ぶのが道理です」
「……そうか」
レイは右腕に取り付けられた義手を外し、アーティファクトの義手を取り付ける。神経接続も無い。機械駆動も見えない。しかしアーティファクトを取り付けた瞬間、自らの無くなった右腕が戻って来たかのような感覚を覚えた。
その直後、僅かな痛みが走る。
見るとアーティファクトと右腕との接合部分が溶けあって融合していた。
「……やはり」
恐らくもう切り落とす以外で外すことのできなくなった義手を見てミケが申し訳なさそうに呟いた。レイは説明を求めるため義手を左手で触りながらミケを見る。
「実は、レイさんには隠していたことがあるんです。最初に言っておくべきでした」
「……なんだ」
「ここに集められたアーティファクトはすべて私達では扱えなかった物です。厳密には、稼働させることができなかった、と言った方が正しいでしょうか」
「……ああ」
ミケが何を言いたいのかレイは気がつく。
「これは私たちのような今の時代の人間には扱えない代物です。恐らく、生体認証でもあるのでしょうね。私達が銃を触っても、刀を握っても展開はしません。当然、その義手だって装着することはできても、何も接続してませんから、動かない只のなまくらでした」
「……」
「原因として考えられるのはこれらアーティファクトが旧時代の人間に合わせて作られたからでしょうね。生体認証を突破できない。それか、それに類似する理由があるはずです」
そして、もし生体認証だとして、それを突破できたレイは……。という疑問にたどり着く。そしてその答えはミケも、レイ自身も辿り着いていた。何より、旧時代の人間しか扱えない武装を持って来た時点である程度予測はしていたのだろう。
「そうか……」
レイは右腕の義手やテーブルの上に置かれた刀と銃器を見る。
「ある程度予測はできてた。今回はそれが分かって良かったよ」
レイの体はすでに今を生きる、この時代を生きる、この■■を生きる者の体ではなくなっている。そう、今証明されてしまった。確証は無く、可能性の一部としてレイも考えていた。
だからこそ、この衝撃に備えることができた。
「もう時間が無いんだ。最後だ」
レイはもう外せなくなった義手を一度だけ見て、目の前にある強化服のようなものを手に取った。




