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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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323/366

第323話 イナバの思惑

「もうこちらは動いています。しかし財閥の戦力が不透明な分、戦力は必要です。そこでレイさん、手を貸していただけませんか」


 イナバは真っすぐにレイの目を見据えた。そして続ける。


「当然、強制ではありません。報酬は難易度も含め、通常よりも多く支払わせていただきます」


 今回の件についてはすでに多くの人員を向かわせている。


「ちなみにだが、そのノーネームからのそのメールが送られてきたのは何時頃なんだ」

「ついさっきです。あなたが『外套の男』だと分かった数分後ですよ」


 だとすると1時間とかけずにテイカーフロントの上層部は情報を共有し、この難しい決断をしたのだろう。一歩でも間違えばテイカーフロントが乗っ取られ、自分達の首は飛ぶ。そんな決断を僅か一時間足らずで行った。

 

 レイは笑う。


「すごいな、イナバさん」

「そうでもないですよ。それ以外に方法が無かったというだけです」


 少しの静寂。レイはイナバの目を真っすぐ見据えた。


「今、座標に向かっているのはテイカーか?」

「いいえ。この時間にテイカーを呼ぶことはできません。依頼を出すこともできません。何より、テイカーは自由なので。今向かっているのは一緒に死んでくれる私達の部下です。戦闘課職員と言われる方々です」

「ミケの部下か?」

「はい。それと他の隊からも出てきてもらっています。少数精鋭。朝の二時にはバレるとはいえ、下手に目立って怪しまれるのも好ましくありません。それに人が増えると口が緩い人間が増えます。故に、信任の厚い戦闘課職員の中でも、さらに実績のある方々で構成しました。今、装備を整え、車両に乗り込んでいるはずです」


 レイが僅かに顔を後ろに向けた。


「ミケさんは行きませんよ。彼女は私の護衛です」

「そうか」

「はい……それでレイさん、どうなされますか。この提案、受けてくれますか」


 レイはしばらく考えるふりをして、その後笑って答えた。


「いいぜ。今まで助けてもらった借りがある。返さないとな」

「借りだなんてそんなことは」

「あるよ。あんたが知らなくてもな」


 レイはそう言って笑うと続ける。


「相手の戦力は、やっぱダグラスは出て来るのか」

「はい。恐らく」

「そうだろうな」


 ダグラス・ボリバボット。西部最強のテイカーの内の一人。かつてはテイカーとして名を馳せた彼は現在、財閥の元で動いている。完全に、テイカーとしてではなく企業傭兵として。

 つまりは敵。今回の案件を片付けるにあたって彼を相手することになるのは必然だ。


「対策はあるのか」


 対策としてレイを持って来た、ではイナバらしくない。断るかもしれないレイをダグラスの相手にさせようと持って来たのでは確実性が無いし、まずレイではダグラスと対等に戦える可能性が低い。何かしら、イナバには作戦があるはずだ。


「ありますよ、当然」

 

 イナバが口の端を僅かに上げる。


「スカーフェイスが、ケリをつけてくれるそうです」

「スカーフェイスが来るのか」

「はい。本来ならば来る予定ではなかったのですが、ダグラスの名が出ると」

「……ケリをつけるって言い回し。スカーフェイスとダグラスとの間に何かあったのか」

「二人はもともと二人組の部隊パーティーだったんですよ。詳細は知りませんが、何時しか仲たがいをし、ダグラスは財閥へ、スカーフェイスはテイカーフロントに残りました。何があるかは分かりませんが、ダグラスの相手はスカーフェイスがしてくれるそうです」

「そうか。じゃあ」

「あなたの相手は。戦闘課職員でも相手にできない財閥の企業傭兵です。一般の企業傭兵程度ならばたとえ財閥傘下でも戦闘課職員は戦えます。なにせ、もとテイカーですから。しかし完全な人の殺しの特化した。尚且つ情報が一切ない企業傭兵というのも存在しています。レイさんにはその相手を、襲撃犯が基幹システムを取り戻すまでお願いします」

「了解した。ただ、俺は今武器が無い。取りに行く時間もないだろ、貸してくれるとありがたいんだが」

「はは。大丈夫です。その辺のことはちゃんと用意していますよ」


 レイに会う強化服は無いので、武器さえもらえればいい。そう考えての質問だ。しかしイナバは笑ってその考えを否定した。


「レイさん。あなたの体にはもう現在の技術力で合う装備はありません。何より、レイさん自身も気がついているとは思いますが、すでに肉体が常人のそれとは大きくかけ離れています」

「あ、ああ」

「なので、レイさんにはテイカーフロントで保管している旧時代の装備を使っていただきます」

 

 テイカーフロントでは遺物を買い取っている。その中には武器などもあるだろう。しかしそうした武器などは莫大な価値を持つ。レイにそう簡単に渡しても良いものなのか、疑問に思う。しかしそんなレイの心配をイナバは易々と越えて来る。


「厳密には、テイカーフロントで保管している《《アーティファクト》》をあなたに使っていただきます」

「ア……は?」


 アーティファクト。これはある遺物たちにつけられる名称である。具体的な基準はない。しかし慣習的に300憶以上で取り引きされる遺物に対してつけられる名称だ。


「はい。アーティファクトを使っていただきます。そしてこれは、今回の依頼の報酬です」

「え、あ。まあ……いや、は?」

「報酬は現物ではなくスタテルの方がよろしかったでしょうか? もし今回の案件が無事に終われば経済線を越えさせることができます。なので、中部で使えない金を貰ったところで、と思いましたが要らぬ配慮でしたかね?」

「いや、まあそれはそうなんだが。アーティファクトだぞ。俺なんかがいいのか」


 イナバはレイの意見を笑い飛ばす。


「レイさん。あなたが私達に恩義を感じているように、私達もあなたに感謝しているのですよ。バルバトスの一件も、あなたがいなければ被害はさらに拡大していたでしょう。なので、これは今までの感謝の形です。あなたはもう、この仕事を終えたら中部へと帰ってしまうのでしょう? だから、これはせめてでもと、私からの贈り物です」


 真顔でそう言い除けるイナバにレイは真顔だった。しかし尚も真っすぐにレイの目を見つめるイナバを見て、レイは根負けして苦笑した。


「分かった。その感謝、受け取るよ」


 レイがそう言うとイナバも同じように苦笑した。


「これでどちらとも清算し終わったという認識でいいですかね」

「はっは。そうだな」

「では……」

「ああ。もう時間もないからな。案内頼めるか」


 そう言って二人が立ち上がると、アーティファクトが保管されている倉庫へと足を進めた。

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