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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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第322話 基幹システム

 あれから襲撃を受けることは無く、レイは無事にテイカーフロントの施設に辿り着いた。玄関前にはテイカーフロントの職員が数人待機しており、レイの姿が見えると走って近づき、一言も発さずに周りを取り囲んだ。 

 これはレイを捕まえるためではない。どちらかというと、狙撃などを警戒しての行動。

 レイは早歩きでテイカーフロントの施設内へと入り込み、玄関の中で待ち受けていたミケと目を合わせる。


「今、案内します。来ていただけますか」

 

 いつもよりもかしこまった雰囲気のミケが言う。レイは「ああ」とだけ答えてミケの横に並んでエレベーターに乗った。


「あなたたちはここまでで大丈夫です。ここからは二人で」


 周りの職員にそう告げ、エレベーターが閉まると中はミケとレイだけが残る。ゆっくりと速度を抑えて上がるエレベーターの中で二人は会話を交わす。


「ある程度、こんなこともあるかなと、可能性の話ですが、あるとは思ってましたよ」

「だろうな」


 レイは続ける。


「で、連れてきて何をするんだ」

「基本的に何もしませんよ。あなたが『外套の男』だとして、拘束する必要がありません。あなたは『外套の男』である以前にテイカーなのですから」


 ミケの言葉にレイが嬉しそうに、しかしどこか思い悩むように苦笑した。その時、エレベーターが指定の階層に着き、開いた。開いた先に見えたのは一本の道。両脇には何も飾られず、何ら模様すら施されていない白い壁。その奥には一つの扉。今いる施設は何回か使用してきたが、この階に来たのは初めて。

 当然、初めて目にする光景だ。

 どこか荘厳。ミケが先にエレベーターの外に出てレイを招く。


「今日は一つお願いしたいことがあって呼びました。当然、強制ではありませんし、実質的に強制というわけでもありません。私達は対価を払い、あなたに依頼するだけです」

「……」


 ミケの言葉を聞いて、レイは通路の奥に構えたつ扉に目を向けた。


「分かった」

「分かりました。では案内いたします」


 ミケはレイの前を歩いて先に扉の前に着く。


「私はここまでです」


 ミケはそう言うと戸に手をかけてゆっくりと開いた。中には一つのテーブル。そこにはイナバが座っていた。


「では」


 ミケが部屋の中に入るようレイを手招きする。レイはミケの方を見て一度だけ軽く頷くと部屋の中へと入った。そして扉が閉められ、部屋の中でレイはイナバと対峙する。


「まず座ってくれますか」

「ああ」


 イナバに招かれてレイがテーブルに座った。その後にイナバが対面に座る。


「今日は忙しい中来ていただきありがとうございました」

「そっちの事情もあるからな」

「はは。ありがとうござます」


 イナバは少し座り直して目の前のレイを真っすぐに見つめる。


「単刀直入に。あなたが『外套の男』で間違いないですね」

「ああ、そうだ。確かノーネームからだろ」

「はい。あなたがバルバトスと戦闘をしている映像を。見ますか」

「いや、大丈夫だ」


 イナバが息を吐いて口を開く。


「私から一つ提案をさせていただく前に、幾つか聞いておきたいことがあります。いいですか」

「ああ。今なら何でもいいぜ」

「そうですか。ではまず一つ。普通ならばテイカーの経歴などは調べないことが絶対方針なのですが、今回は例外。あなたがケアトヤマ遺跡で見つかり、その後半年間寝ていた間にあなたの素性については調べてあります」

「そうか」

「調べた結果。何も分かりませんでした。あなたがどこで生まれ、どこで生き、テイカーとなったのか。辛うじて立山建設に勤めていた程度のことしか分かりませんでした」

「だろうな。俺は中部から来た」


 イナバは僅かに目を見開き、その後、納得したように笑った。


「やはり……といったところですか。あなたが経済線を越えて中部に行きたいのには、それが関係しているのですか」

「ああ。別に戻ったところでやらなくちゃいけないこともないんだが、少し見ておきたいことがあってな」

「はは。そうですか。……そんなことを言った手前、言い出しにくいのですが。あなたが経済線を越えるのは現状不可能です」

「だろうな」


 定かではないが、バルドラ社に襲撃された。結局、死体からバルドラ社との繋がりは見つからなかったが、直感的にレイは確信している。そしてこの直感が正しければ、レイは財閥と対立していることになる。経済線の管理は経済連と財閥が管轄しているため、現状厳しいだろう。

 ただでさえテイカーフロントと対立しているからという理由で、経済線を越えるのは難しかったのに、今回の案件でさらに難しくなった。


「ええ。しかし、私達がこれから成すことの結果次第では変わります」

「聞いてもいいか」

「ノーネームから送られた情報は映像だけではありませんでした。もう一つ。座標と共に三行ほどの説明文が付け加えられたファイルがありました」

「……」

「内容は。まずこのファイルを明日の朝2時に財閥と財閥関係企業に送り付けることを告げる旨。その後に座標についての説明です。ただ一言、『旧経済連体制が使用していた基幹システムの在り処』とだけ」


 僅かな沈黙。

 レイは思考を回す。


「…………ああ。そういうことか」


 経済連旧体制下の基幹システムは財閥に乗っ取られる過程の中で、ノーネームによって奪われた。基幹システムを構築する情報だけでなく、基幹システムを構築、稼働していた複合コンピューターすらも奪い去られた。

 レイは気がつく。最初はピンとこなかったが、今理解した。

 旧経済連体制の基幹システムというのは現在の、経済連の基幹システムだけでなく、財閥企業の基幹システムにも一部が流用されている。それだけでなく旧体制下の基幹システムにはテイカーフロントに関しての情報も載っている。厳密にはテイカーフロントの管理権に関してのことだ。

 今まで経済連の管理下にあったはずのテイカーフロントが独立した組織として振る舞えたのはこの管理権の消失によるところが大きい。もし、この基幹システムを財閥に奪われれば、最悪、テイカーフロントが経済連の下部組織として帰属するかもしれない。そうなれば、実質的に財閥の管理下。すぐに遺跡の所有権に関しても吐き出されるだろう。

 

 しかし逆に、テイカーフロントがこの基幹システムを奪えれば財閥の弱みを握ることができる。幾ら財閥といえどそう簡単に基幹システムを変えることはできない。その間にテイカーフロントには多く交渉できる機会がある。

 そしてこの今にも始まりそうな火種を鎮火することすらもできるかもしれない。


 ノーネームが最初に付け加えた文言である『明日の朝2時に財閥や財閥関連企業に通達する』というのは温情。もしテイカーフロントと財閥同時にこの情報を送っていれば戦力で劣るテイカーフロントは危機的状況に晒されていた。

 そしてわざわざこの文言を両方に送るということは争って欲しいのだろう。現在時刻がちょうど日を跨ぐというところ。予定の時刻までは残り2時間しかない。加えて座標はかなり離れている。人も都市も無い辺境の地だ。完全に動き出すのはテイカーフロントが早くとも、途中で財閥に追いつかれる雑妙な時間。

 戦いは避けられない。しかし戦わなければテイカーフロントは生き残れない。


 岐路に立たされている。そしてイナバの取った選択は当然強気なものだった。


「もうこちらは動いています。しかし財閥の戦力が不透明な分、戦力は必要です。そこでレイさん、手を貸していただけませんか」


 イナバは真っすぐにレイの目を見据えた。

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