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ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第三章――西部事変

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320/366

第320話 一人見る

 ハカマダが外に出た後、僅かに時間を空けてレイが外に出る。

 すぐ先さえ見えないほどに暗く、薄く霧がかかっていた。誰一人としておらず、不気味なほどに静かな空間だ。


 レイはその中に立って周りを見渡す。最初来た時と何ら変わりない光景が広がっていた。しかしどこか違和感のある光景だ。建物の外壁についた僅かな裂傷、凹み。場を支配する緊張感。

 何かが起きたのは明確だった。


 別にハカマダとの話が終わったあとすぐに外まで出て来てもよかった。しかしハカマダが外に出た直後に聞こえた僅かな戦闘音。ただでさえ小さい戦闘音であったのに建物の厚い外壁を隔ててさらに小さくなった。それを、レイは聞いていた。

 外で何かしらの事件が起きているのは明確であり、それが終わるまで待機することにした。

 

 戦っているのはハカマダだろう。一体だれと、それは分からなかった。もしかしたらレイが助太刀した方がいい状況なのかもしれない。しかしハカマダが負けるとは、死ぬとは思っていなかった。

 どうやらその予想、直感は当たっていたようでハカマダの死体は見つからない。負けて持ち去られた可能性はあるが。


 ただ、ハカマダならば負けた時に何かしらのメッセージを残すだろう。それが無いということは無事に終われたということ。

 だが直接見ない限りハカマダが生きているか、死んでいるのかは分からない。

 

 ハカマダとレイとがいつ会うかなんて全くの不明だが、ハカマダの口ぶりからすれば今後レイの取る行動によっては必ず会えるらしい。どうだかな、と言った感じだが、取り合えずレイは自分がするべきことをすればいい。

 まずは経済線を越える。だがその前に恩返し、もとい西部でやらなければいけないことがある。今は事が動くまで待機がいいだろう。ノーネームのこともある。


 レイは最後に一度、周囲を見渡して何もなかったことを確認すると、霧に紛れるようにして消えた。


 ◆


 レイが家に帰っている途中、お腹の音と共に、そういえば今日は朝からほとんど食べていなかったことに気がつき、夜食を食べるためにある店を訪れていた。レイが定期的に訪れている店で、提供までの時間が早いことでよく来ている。

 今日もいつもの定食だ。肉や野菜、米、すべてがバランスよく取れて尚且つ量も多い。ただ多いだけでなく質も高い。その分値段は張るがレイは昔のように金欠ではない。

 この程度の金額ならばすぐに払えてしまう。

 料理は注文してからものの3分ほどで提供される。湯気が立つ定食。香りは芳醇。レイは一杯の水を飲んだ後、フォークとナイフを持って肉を切り分ける。肉の半分ほどを切り分けた。その後にナイフを置き、レイは切った肉をフォークで突き刺して勢いよく頬張った。

 

 硬すぎず柔らかすぎず。程よい食感と肉の味。合成肉では味わえない。それでいて僅かに酸味がありながらもそれが程よいアクセントになっているソース。レイは続けて切り分けた肉を口の中に放り込む。


 直後。店内に発砲音が響きわたる。

 撃ち出された弾丸はレイに向けて一直線に飛んでいく。しかし、塑性粒子の壁によって阻まれる。同時に、拳銃を引き抜いたレイは襲撃犯の頭部に向けて引き金を引いた。

 しかし襲撃犯が僅かに体を動かしたことで頭部から外れ肩の当たりに着弾する。


(簡易型強化服)


 弾丸は肩に命中しはしたものの、服の下に着ていた簡易型強化服によって阻まれる。

 レイは襲撃犯の頭部に向けて再度弾丸を放ちながら、椅子を蹴り上げて盾とする。熱い金属製のテーブルだ。しかし壁として機能するかは怪しい。相手がアセンチデータなどの貫通力の高い武器を所持していたら意味がないためだ。

 そのため、あくまでもこのテーブルは障害物。塑性粒子さえあればアセンチデータだろうと防げる。レイが障害物から出て塑性粒子の壁を展開しながら襲撃犯に近づく。しかしその行為は背後からの発砲によって止められた。

 店内を逃げ惑う客の中に隠れていた刺客からの攻撃。完全に不意と取られたレイは弾丸を後頭部に受ける。強い衝撃、弾丸がレイの皮膚を貫き頭蓋にまで達する。アセンチデータのような貫通力に優れた弾丸。

 きっと敵は一人だけだと油断させておいて逃げ惑う客に紛れて撃ち込む作戦だった。そして恐らく襲撃犯は二人だけではない。レイを取り囲むように計三人の人影が見えた。

 折りたたまれた短機関銃を持ち、今まさにレイに撃とうとしている。


 レイが気がつくことのできないほどの完璧な隠密と対応する暇を与えない完璧な襲撃。

 しかし、思い違いを一つだけしている。

 レイは右腕と共に『それ』を失い攻撃手段を失った。しかし塑性粒子という防御手段ならばまだ持っている。頭蓋に届き至る弾丸は肉体の内側に展開した塑性粒子の壁によって阻まれる。 

 同時に、周囲から放たれる短機関銃。レイは左半身からの攻撃をすべて塑性粒子の壁を使って防ぐ。そいて右から放たれる弾丸。レイは数発被弾しながらも横に飛んで位置を移動し、再度テーブルを蹴って盾とする。

 同時に、レイは装置を起動する。

 

 右腕の機械駆動を作動させ、義手から大砲へと形を変える。

 そしてテーブルごと大砲の火力で吹き飛ばしながら、その背後にいた二人の週気違反を攻撃する。大砲は今の弾切れ、一発しか義手に埋め込むことができない特性故だ。

 同時に、塑性粒子の壁が崩れた。

 直後レイの元にアセンチデータと同様の貫通力を有する弾丸が撃ち出される。だが、先ほどの壁に使用しなかった分の、残りの塑性粒子で手のひら程度の壁を作り弾丸を防ぐ。

 レイはその瞬間に距離を詰めた。

 敵は簡易型強化服を着ている。しかしその性質上頭部ががら空きだ。

 短機関銃の弾丸を僅かに被弾しながらも急所への命中は避けたレイは、左手に持ったナイフを襲撃犯の眼球に突き刺す。常人離れした怪力によって差し込まれたナイフは眼球だけでなく頭蓋を破壊し、脳を抉った。

 次。

 レイが隣にいる者へと目を向ける。貫通力の高い銃器を握り締め、レイに向けて引き金を引こうとしていた。

 ナイフを勢いよく隣にいる者に向かって引き抜く。その衝撃によってナイフは肉や頭蓋の破片、血などを巻き込んだ。吹き飛ばされた血は隣にいた者の顔面に付着し、一時的に視界を隠す。

 

 だがすでに照準は合わせていた。

 引き金を引くだけ。男が引き金を絞る。

 

 しかし発砲音が響かない。衝撃も無い。

 当然、引き金にかけていた男の人差し指はレイによって切られいる。簡易型強化服を切り裂き、振動するナイフの刃は確かに指を切り裂いていた。

 男は発砲音が鳴り響かない原因に辿り着けないまま、人差し指を切られた痛みが脳へと伝達される前に、首を切り裂かれそれどころではなくなった。もはや立つこともできず、死を待つのみ。

 レイはもう一人、最初に襲撃してきた男が残っているため、すでに死に体の男に気をかけず、最後はナイフを最初に襲撃した男へと向かって投げ脳天に突き刺した。そして結局最初しか使わなかった拳銃を、最後にレイは引き抜いた。

 

 そして右腕の義手から放たれた大砲によって重症を負った二人の襲撃犯の元まで向かう。

 さすがに大砲だけではテーブルを挟んだ後ろにいた男達は殺せなかった。簡易型強化服を着ていたし仕方ないだろう。一人は気絶し、一人は息はあるものの死にかけ。二回の発砲音を響かせた後、始末をつけた。


 その頃には首を切り裂いた男は息絶えており、店内にはレイが一人残されていた。


「……」


 店内の惨状を見ながら、なぜ自分がいきなり襲われたのかについて考える。

 恨みは買って来た。襲撃される理由はある。しかしこれほどの手練れを五人も組織的に配置するほどの相手に恨みを買った覚えは無い。というよりほどんと、後の火種になりそうな案件はその場で処理している。

 残った案件から襲撃されるにたる理由を探す。

 その時、レイの通信端末が振動した。

 レイは店から出て歩きながら通信端末を見る。相手はミケだった。

 タイミングがタイミング。僅かに嫌な予感をしながら通話に出た。


「レイさん。あなたが『外套の男』だと……ノーネームが。一度、こちらに来てください」

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