第319話 ハカマダと東部
その日の夜。予定通りレイはハカマダと会っていた。場所は昨日ハカマダと話した部屋だ。
テーブルに座って軽食をつまみながら二人は話す。
「今日、アダムスに会った」
そう切り出したレイの言葉にハカマダが怪訝な顔をする。
「アダムスって。バルドラ社のか」
「そうだ」
「詳しく聞いていいか」
「ああ」
そう言ってレイは話し始める。
アダムスがなぜか街中を歩いていたこと。恨みを持った人物が狙った事。護衛を倒してしまったことからその後の会話まで。すべてを包み隠さず話した。そしてそれらすべてを聞いた後のハカマダの第一声は困惑を含めたものだった。
「それは………大丈夫なのか?」
「大丈夫、ではないだろうな。多分もう俺の身元は調べられてる。だがあっちから直接何かしてくるわけじゃないだろ」
「それもそうか」
口ぶりからしてレイがテイカーフロントとかなり深い関係にあることは、ただの『テイカー』としてでなく、それ以上の関わりがあることは露呈しているだろう。現状の関係を考えると殺したらテイカーフロントと何があるか分からない。
つまり今は手出してこないだろう。手出しする理由もそこまでない。《《あったら》》別だが。
「そういえばイース・マーダはどこだ?」
「イースならもうどっか行っちまったよ。連絡手段もねぇし、突然いなくなるし、面倒な奴だぜ、あいつ」
雑談はここまで。
レイは昨日と今日とノーネームやアーネス、ハカマダから様々な情報を聞いた。そのうえで幾つか確定した事実。疑惑の残る矛盾点と色々とある。その中で、一つ気がついたことがある。ハカマダに関してのことだ。
「ハカマダ。お前、俺が中部から来たこと知ってるだろ」
「初耳だぜ。そんなこと」
「もう一つ。前にボファベットのことについて質問した時、お前は東部から来た友人がいるだとか言ってたが、そんな奴いないだろ」
「……」
「ハカマダ。お前は東部から来た。間違いないか」
ハカマダが僅かに笑みを浮かべてレイを見る。
「どうだかな。ただ、どうやらアーネスと俺以外からも話を聞いたらしいな。状況を鑑みるにノーネームか?」
「よく分かったな」
「あいつしかいないだろうなとは思ったよ。もし間違ってたら他のハヤサカ技研の奴らだ」
「……」
「お前と知り合ったのはもう二年前か。確か常駐依頼だったな。俺とお前が会ったのは偶然だと思うか?」
「偶然じゃないだろ。ただ必然でも無かったはずだ」
「はは。言い得て妙だな。まあ、お前が俺を知る前から、俺はお前のことを知ってたよ」
「だろうな」
「ああ。楽しかったぜ、この二年。まあ一緒に仕事したことなんてほぼ無いが、お前の無茶を見るのは楽しかった。だがこのお節介ももう終わりだ。色々と迷惑をかけてすまなかった。俺の友人がかけた迷惑を代わりに謝っておくぜ」
ハカマダが立ち上がる。
「話すことはもう無いよな。あったら他の奴に聞いてくれ。イース、あいつとまた逢えたら色々と聞いたらいい。あいつは案外物知りだ」
「あんたもな」
「はは。そうかもな。もし、次お前と会うことになるのならば、それはお前が意味のない戦いに身を投じた時だ。お前には関係のない、全くの無関係な闘争にだ。その時にもし合えたら、またよろしくってことだ」
ハカマダが立ち去る。レイはその背中に語り掛けることはない。しかしハカマダが扉に手をかけたところで立ち止まって振り向いた。
「もし、すべてを知りたいのならばハヤサカ技研ではなく、統括管理人格に聞くことだ。あいつは完全都市ライバックにいる。きっとお前なら迎え入れてくれるはずだぜ。西部の荒事が終わった後に行くといい」
特別災害指定個体、その中の一つ『完全都市ライバック』の名をあげるとハカマダは扉を開いて姿を消した。
◆
すでに外は暗く。部屋から出て来たハカマダは一枚の外套を羽織りながら息を吐く。そして建物の周りに集まった《《ヘズ教の者達》》に目を向ける。
白装束を着た者達が建物の屋上に、前に、後ろに、横に、数十人ほどいる。全員が武装しており、いつでも攻撃できる状態。ハカマダは後ろの建物を見る。中にはまだレイがいる。派手な戦いが起こればレイが出て来るだろう。いや、彼ならばすべてを察して敢えて出てこないかもしれない。
いずれにしても大事にするわけにはいかない。
「そろそろか」
ハカマダが呟く。
「《《亡霊》》。そっちの準備は」
ハカマダの背後に、薄っすらと亡霊のシルエットが現れる。
「もういいのか」
「いいさ。逃避行はここまでだ。もう用意はできた。そっちもだろ、亡霊」
「ああ。いつでも運行できる」
「じゃあ行こうぜ」
「そうだな」
そうして、二人は戦いに身を投じる。




