第316話 カルトヒーロー
「うーん。やっぱり中のレイさんが認識されてませんね」
強化服を着たレイにミケが言う。
「こっちは上手くいかなかったか」
レイは現在、強化服の試着を行っていた。しかし上手く言っていないのが現状だった。義手とは違い、芳しくない反応。ミケが持つタブレットには強化服が示す数値が映っていた。
本来ならば強化服の中に入る人物の骨格などを測定する装置がエラー。中に人が入っているのに、それ以上の検査が進まないというよく分からない状態だ。原因は不明。
後ろで待機している科学者も腕を組んでしかめっ面のまま手元の機械に映し出された情報とにらめっこしていた。なぜレイのことが認識できないのか、検査することもできないのか。その難問と戦っている際中だろう。
「やっぱり自動での判別は上手くいきませんね。レイさんの生体情報を組み込んでおいて、動かすシステムにしましょうか」
「そっちの方がやりやすいか」
「そうだったと思います」
ミケが透明なガラス一枚を隔てて後ろにいる科学者の方を見る。科学者は手で丸を作ってミケの言葉を肯定した。
事前に強化服の方にレイの詳しい生体情報を組み込むことで、わざわざ読み込む必要なくすぐに動かすことができる。しかし幾つかの問題点があり、もし強化服を拡張する場合、装備を追加、改造した後に設定や動作状況やらが変わっているので、もう一度レイの生体情報を組み込む必要がある。
加えて基幹システムが破壊されるほどの損害を受けた場合、強化服を直した後に生体情報を組み込む必要すらある。それにレイ自身が新たな装備や義手を付け加えたりなどすれば、生体情報を更新する必要性が出て来る。
さらに、これは小さな問題だが、生体情報を組み込むことでレイ以外の人物が使えなくなるようになる。別に他人に使わせないだけならばロックをかければ良いだけなので、その分制約が多くなるというだけだ。
そして生体情報はテイカーフロントの、それもミケ傘下の科学部隊しか知り得ないので、もし強化服を代えたり。補修する必要がある時は毎回お世話になる必要がある。
ミケたちは財閥関連の争いごとに備えるために新たに武器を製造している際中であり、かなり時間が無い。ミケは「レイさんの強化服を作るのは気分転換にちょうどいいので、部下も休憩の時とかにやってますよ」と言っていた。
仮に、その言葉がすべて本当だとしてもミケたちに今後迷惑をかけるのは申し訳ない。
レイが僅かに悩んでいると、ミケが横で言う。
「実はもういつでも組み込める状態です」
「いつでも、ってもうこの強化服に?」
「はい。こうなることを見越してですね、やれるようにしてます」
ミケはレイの着ている強化服に、すでに生体情報を組み込めるようにしていた。もし失敗したら次、という具合に予測して用意してくれていたのだろう。
これを無下にするのもよくない。
レイは強化服の具合を確認しながら返答を返した。
「お願いできるか」
「はい」
ミケが後ろにいる科学者に合図を出す。
科学者が幾つかのロックを解除し、起動した。
「……認識されているようです。レイさんはどうですか」
科学者の方を見て成功したことを伝えられたミケが問いかける。
起動しあからといって何かしら音が鳴るとか、強化服が自動で駆動するといったことはない。起動する前も起動した後も、明確な変化はない。しかしレイが強化服を動かしてみると明確に変わっている部分があった。
まず滑らかだ。それでいて幾つかの強化装甲と電磁装甲を備えた、相応の重量を誇る強化服を動かしているというのに重量を感じない。服一枚、その程度の抵抗感と重さだ。
感覚的には強化服を言って差し支えない。レイには違和感が無い。
「大丈夫だ」
返答を聞いたミケがもう一度科学者の方を見る。科学者は前と同じように指で丸を作り順調だと伝えていた。
「強化服の動作状況も大丈夫らしいです。少し動かしていきますか」
「いいのか」
「当然、そのための設備ですよ」
ミケが部屋の中にある小さな射撃場まで移動する。ホログラムで的が映し出され、それが動いたり、小さくなったり、大きくなったり、人質を抱えていたりなど、様々な挙動を呈しながら、的を多く撃ち抜いてポイントを積み上げる。まるでゲームのような機能を有した射撃場だ。
「武器は何を使います」
レイの横でミケが問いかける。
射撃位置である左右を柵で区切られ、前方には横に長い台が置かれた空間。その両脇にある柵の内部にガンラックがあり、幾つかの銃が置かれていた。
「なんでもいいのか?」
「はい。動作確認はしていますので」
「分かった」
レイが一つを取り出して持ってみる。初めて見る武器だ。銃に刻まれている刻印もよく分からない。どこの企業が製造しているのか、レイが微かに疑問を抱いたところでミケが口を開く。
「テイカーフロント製の新商品です。通称TEKシリーズ。拳銃、突撃銃、散弾銃、狙撃銃で展開する予定です」
「まるでGシリーズみたいだな」
「ええ。対抗してますから。性能も値段も、同価格帯のGシリーズ製品を基に決めてます」
「バルドラ社が怒りそうだな」
「はは。もう怒られてますって、色々なことで」
「それもそうか」
レイが今手に持っているのはTEK-401。突撃銃だ。突撃銃にしては少し不思議な形をしている。弾倉もよく分からない。ただ機密な駆動をしていることぐらいは分かる。
整備性の低そうな製品だ。
「耐久性と整備性はどの程度なんだ」
「Gシリーズよりいいですよ。まあちょっとタイプが違うので一概に言えないですけどね」
とてもそうとは思えないが、ミケが嘘を吐く理由もないのでレイは納得しておく。
「性能を長々と説明するのもあれですし、一回使ってみてはどうですか」
ミケがそう言うと射撃場に幾つかの的が映し出される。
「別に点数とかないですし、強化服の動作状況も兼ねて撃ってみてください」
「ああ」
レイがTEK-401を構える。
強化服を着ているため引き金の重さについては判別不可能。ゆっくりと引き金を絞ると、通常の銃器よりも浅い場所で弾丸が撃ち出された。弾丸は的に当たると同時に爆発し、周辺の的も巻き込みながら破壊する。
「今のが起爆性の弾丸です」
レイが一度弾倉を引き抜いて確認する。
「そういう仕様の銃なのか?」
「弾丸によって色々変えられますよ、他には発火だったり電気だったり、色々とあります。当然、通常のもありますよ。その状態でもG-シリーズより性能高いです」
「……遊び心があるな」
「はは。そうですね」
「ちなみになんだが、今の起爆式の弾丸に整備不良とか、長期保存時の不具合とかあるのか」
「その辺は安心してください。どんな環境でも動いてくれます」
要らぬ心配。レイが予想できることは他の科学者も同様に予測できている。対策しないわけがない。
「値段はGシリーズよりどのくらい安いんだ?」
「このモデルだと100万スタテルぐらいですね」
「すごいな、それ」
「へへ。ありがとうございます。あとで科学班に言っておきます」
後ろにいる科学者とグットポーズをするミケを横目に、レイは続けて弾丸を撃ちこんだ。
◆
次の日の朝。レイは通信端末の着信音によって起こされた。まだ暗い部屋の中、灯る画面の光に手を伸ばし、宛名を確認する。
イナバからだった。早朝から何の連絡なのか、まだ寝起きの頭を動かして用件を予測しながら電話に出る。
「おはよう。良い目覚ましだったでしょ。カルトヒーロー」
変音器によって誰の声か分からなかった。しかしイナバのものでないのは事実。最初、イナバから何らかの方法で通信端末を奪い、レイにかけてきた線も考えた。しかし『カルトヒーロー』という言葉がそれを否定する。
レイ以外に自身が『外套の男』『カルトヒーロー』であることを知っている人物はいない。イナバも知らず、ミケも知らず、誰一人として知らない。ただ一人を除いては。
「ノーネームか」
「正解。ご褒美あげちゃおうかな」
レイが正解に辿り着いた時にはすでに、眠気は消えていた。




