第313話 身体の具合
「まずはレイさんからどうぞ、こっちは別に緊急の用件じゃないので」
ミケの言葉を聞き、レイが口を開く。
「助かる。こっちはヘズ教に関してのことだ」
「何かありましたか?」
「今ちょうど襲われて、撃退したところだ」
ミケが少し黙る。恐らく思考を巡らせながら手元にメモを用意しているのだろう。5秒ほどの沈黙の後、ミケが口を開く。
「すみません。続けてください」
「ああ。あいつらいつもは機械人形でしか現れないだろ?」
「そうですね、確かに」
「今回襲撃してきた奴の中に一人生身の奴がいた。今気絶してる」
「……はい」
「俺には特に使えそうにないが、テイカーフロントなら気絶してる奴の身柄を使えるんじゃないかと思ってな」
「まあ……そうですが」
「じゃあ話は早いな。B-24。あとは通信端末の居場所をオンにしておくから見てくれ」
「分かりました。でもいいんですか。だ――」
ミケが話そうとした直後、通話口の向こう側から爆発音が聞こえた。
「え、え、何かありましたか」
少し間を置いてレイが答える。
「今の話は無しでいいか。気絶してたヘズ教の奴が爆発した」
情報の秘匿のためだろう。脳を解析されて情報を抜き出されては損失に繋がる。こういった事例はそこまで珍しくはない。しかしこうも遅く爆弾が発動するとは思わなかった。
ミケは突然のことに驚きつつも珍しいことではないので冷静に処理していく。
「分かりました。そちらには一旦回収部隊を向かわせますので付近で待機していてくれませんか」
「どのくらいかかりそうだ?」
「5分ほど。もう向かっています」
「分かった。その他に俺が何かしておいた方がいいことはあるか」
「特に大丈夫です。散らかった部品などはこちらで回収するので」
「分かった」
話が一段落つくと、レイは路地裏の壁に背中を預けながら続きの話を聞く。
「俺の用件はこれで終わりだ」
「分かりました。では次はこちらのですね」
ミケは手元で開いていたメモ用紙を閉じて、一息置いてから口を開く。
「明日か明後日か、テイカーフロントに来てくれませんか」
「分かった。義手のことか?」
「はい。義手と、それと強化服のことについてです」
「新しい試作品が?」
「はい」
「わざわざ悪い」
「いいですよ、これは別にレイさんのためだけに開発してるわけじゃないのでね」
「はは。そうか」
「ふふ。体の状態などはどうですか」
「特に異常はない。前回の時と変わってないと思うぞ」
「だったら合うんじゃないんですかね。まあ試してみたいことには分かりませんけど」
「そうだな」
「それと他に身に着けて動かない機械製品とかありますか。もし合ったら明日用意しておきます」
「やっぱり機械化手術に使う系の部品は駄目だな。合わない。それと強化外骨格。あれは稼働する。外付けの部品はやっぱり大丈夫だ」
「ですよね。分かりました。義手もその方向で、ちょっぴりだけ手を加えたので、まあ分かりませんが明日試しましょう」
「ああ」
レイは現在、原因不明の症状によって機械部品を体の中に埋め込むことも、つけることもできなくなっている。微弱な電流を常に体中から発している状態であることが分かっているが、それに対応した機械をつけてみても上手く稼働しない、または連動しない。
義手などの機械も同様だ。本来ならば神経と接続することで本来の腕を同じように動かすことができる製品がある。しかしレイが使おうとすると動きが鈍くなるし、最悪動かない。
しかし外部駆動だけに頼る義手を装着すれば十分に本来の性能を発揮する。しかし耐久性やメンテナンスに難があるものが多く、何よりも戦闘に使える状態ではない。
加えて、レイは同様の症状によって強化服を着るのも不可能な状態だ。外骨格アーマ―などの生体情報を必要としない製品であれば使用は可能だ。しかし強化服などの、着ている人物の生体情報を必要とし、合わせる必要のある商品を着ることはできない。
今のところ、この症状はテイカーフロントの施設で調べても原因不明のままだ。
しかしテイカーフロントは初めての症状ということもあり今後のためにレイの体を調べている。その対価としてレイはテイカーフロントから強化服や義手を作ってもらっていた。
しかし今のところ体に完全に合うものは無く、何度も試行錯誤を繰り返している際中。
明日もまたその試行錯誤の回数を増やしに行く。もしかしたら完成品に出会えるかもしれないが。
「明日はそれと近況報告を、少ししたいと思います」
「財閥関係のか?」
「はい。面倒ごとになる前に終わらせたい事案がいくつもあるので、一応報告と言う形で」
「分かった」
「また力を借りることになるかもしれませんがね、はは」
「内容による」
テイカーフロントと財閥の関係は悪化している。元々、水面下では緩く敵対していた関係。しかし鋼海重工の握っていた地下都市の案件が財閥に漏れたことで争いは一気に表面化した。
遺跡の管理権はテイカーフロントが持っている。
しかし遺物という文明を、科学を発展させる鍵をすべてテイカーフロントに握られている事実を財閥は許容できない。否。今までは許容してきた。しかしこれからは許容できない。
最初は上手くいっていた支配体制も強固になり過ぎると軋轢を生む。最初こそ緩い連帯で協力し合っていた七大財閥は少しずつ喧嘩を起こし始めている。ここで遺跡で手に入る資源を再分配できれば七大財閥の不満を解消することができる。当然、遺物の配分量などで意見がぶつかることは目に見えている。
しかしそれを差し引いてももうすでに市場に餌が残されていない中で財閥が新しい餌を求め新天地へと、遺跡へと手を伸ばすのは考えるに難しいことじゃない。今まで、財閥は機械を伺っていた。
いつテイカーフロントと喧嘩するか、その準備を水面下で進めていた。同時に、テイカーフロントもその情報を盗み聞きしていたため準備をしている。そして、地下都市の案件が明るみに出ると財閥が権利獲得のために身を乗り出した。
遺跡の危険性も知らないで、その価値だけを求めて手を出した。
間違えば稼働する工場以上の悪夢を、バルバトス以上の被害を生みだす可能性がある。資本主義に染まった企業が遺跡に手を出せば悪い未来が待っているのだけは事実。
そしてテイカーフロントがテイカーフロントであるためにもここは真正面から対決する必要があった。
それが今の対立。
すでにテイカーは財閥の商品を割り引きで買う事ができなくなっている。
これを機にテイカーを辞めたものもいる。
しかしテイカーフロントにはスカーフェイスを筆頭に、まだ多くの人材が残っている。
正面から戦えばテイカーフロントはまず負ける。しかし七大財閥の幾つかに再起不能レベルの損害を与えるいことができる。故に今はどちらも話し合い程度。だがもし戦いになれば、という話である。
「大変そうだなそっちも」
「はは。そうですね。それじゃあ、明日待ってますね」
「ああ」
通話が切れた。
同時に、テイカーフロントの回収部隊が着いた。




