第310話 旧知の再会
「きみは……てき?」
イース・マーダはレイに問いかけた。
レイは自分がここにいた理由を述べようと口を開く。
「てきだね」
「――ッッ!!」
気がついた時にはイースの脚がレイの眼前にまで来ていた。レイは咄嗟に腕を顔と足との間に挟み防御する。しかし足とレイの腕とが接触した瞬間、嫌な音と共にレイの体が吹き飛ばされる。
(腕が――)
完全に折れた。一本しかない腕が今の使用不能だ。
レイは衝撃で壁を突き破りながら屋外へと投げ出される。幸い、裏路地の奥まったところにあるので人はおらず、二次被害はない。しかしレイへの被害は甚大だ。壁を突き破り、隣の家の壁に埋まったレイの元にイースが一瞬で距離を詰める。
足を振り上げ、叩き落す。
レイは咄嗟に塑性粒子で壁を作る。
甲高い音が鳴り、イースの足と塑性粒子とが衝突する。これまでバルバトス以外には破られたことのない絶対の防御。レイはその内に離れようとした、しかし塑性粒子に亀裂が走る。
直後、塑性粒子の壁は破壊されレイに向けて足が叩き落される。
幸いにも塑性粒子の壁が作った僅かな時間でレイは逃れていた。しかし逃げながら体勢を整えるレイに対してイースは一瞬で距離を詰めた。
「ここだと、周りの邪魔になるから」
イースはそう小さく呟いてレイの腹を蹴った。しかしレイは直前で塑性粒子の壁を作り勢いを殺す。その間に離れようとしたその時、レイの体が遥か空中へと叩きあげられる。
何が起きたのか分からずレイが周りを見渡す。
地面を見るとイースが見えた。そしてその周りで地面を飲み込むようにして侵食する黒色の液体も確認できる。そしてその黒色の液体は意思を持つかのように、イースの足元に集まると勢いよく伸びた。
同時にイースも空へと投げ飛ばされレイと同じ場所まで来る。
レイが防御しようとするが黒色の液体がレイに迫るのと同時に、イースの蹴りが繰り出される。どちらか一方しか防御できない。感覚的に黒色の液体を危険だと判断したレイは、代わりにイースの蹴りを正面から受けることで被害を最小限に留める。
「こい――」
凄まじい衝撃がレイの体を襲う。体が真っ二つに折れ曲がるような感覚。血を吐き出しながら遥か後方へと飛ばされる。幾つものビルを越え、都市の外周部にある廃工場に激突し、天井を、まるで平たい石が水面を跳ねるように、レイの体が吹き飛ばされる。
レイの体はそのまま荒野へと投げ飛ばされ、砂塵を巻き上げながらゆっくりと止まる。
腕は確実に逝った。足も変な方向に曲がっている。しかしこれはどうにかすれば治る。
内臓は破裂しそうなほどの衝撃を与えられ、十分に稼働しているか分からない。息も絶え絶え、体に力が入らない。そして、レイが目を開けるとそこには覗き込むようにして顔を近づけるイースの姿があった。
「おしえて」
「何を、だよ」
「ハヤサカはどこ」
ハヤサカ。恐らくハヤサカ技術研究所の名前の元となった人物だろう。しかしレイにはそんな知識は無いし、答えることなんてできるはずが無い。
「しら、ねぇよ……」
「じゃあもういらない」
イースの足元から湧きあがった黒い液体が槍を形作り、レイに差し向けられる。そして突き刺されようとした瞬間、遠くからイースに向けて一発の弾丸が放たれる。
弾丸はいともたやすく防がれる。地面から黒い液体が壁を作ってイースの前身を覆い、弾丸は黒い液体に着弾すると共に飲み込まれて消える。
「だれ……」
イースが暗澹たる荒野の奥を見つめる。するとすぐにその正体は現れた。まずは車両が近づく音が聞こえ、その音が大きくなると暗がりの中から都市の光に照らされてその姿が僅かにだが見えるようになる。
イースは車両に攻撃することなく、ただじっと見る。
車両が近づいて、そして近くまで来て停車してもだ。
レイは一体何が起きているのか分からず、近くで止まった車両を見ていた。フロントガラスは加工されていて外からは見えない構造になっている。一体誰なのか。弾丸を撃った犯人は自ら運転席から外に出てきて姿を現した。
(……ハカマダ)
運転席から出てきたのはハカマダだった。
ハカマダは全く丸腰の状態で、イースを向き合う。お互いに一歩も近づかず、話さず。
異質な緊張感が場を支配する。
その静寂を破ったのはイースだった。
「あれ……はかまだだ」
そう言うイースの目は段々と見開いて、目の前にいるハカマダを見る。
「久しぶりっ!ハカマダ!」
そう言って、イースはハカマダの元まで行くと抱き着いた。




