第307話 亡霊との邂逅
一年前。
『神墜とし』によって神を撃墜したあの日。更地になった遺跡へと、骨や肉が機械部品と共に空へと舞って散り去って、レイは落ちて行った。右腕が空中でバラバラになっていく中で、笑いながら。
途切れかけていた意識。なぜ笑っているのかも分からず、右腕が消えようとしているのに疑問すらも抱けないほどに憔悴しきった意識。神墜としによって圧縮され、鉄板のように硬くなった地面に落下した時、衝撃のあまりレイの意識は僅かに正常を取り戻した。
曇天の空が視界を占め、それ以外には何もない。更地になった遺跡内にレイよりも背の高いものは無く、視界には何も映らない。塵すらも無く、ただ透き通った世界。レイはしばらくの間そうして空を見上げていた。
鈍い意識の中、足音が近づく。体の動かないレイは音だけが近づいて来るのを聞いていた。一歩、また一歩とレイの方へと近づき、音が大きくなる。音がすぐ傍まで来るとその音の正体が分かった。
「亡霊………か」
見たのはこれが初めて。しかし自らを見下ろす人物が亡霊だというのは直感的に理解している。顔は黒塗りでもされているかのように見えず、その存在はつかみにくい。
体躯はかなり大きく、しかし威圧感はない。
レイの呟きに対して亡霊は言葉を返さず、ただ視線を送る。しばらくの静寂。その後、遠くの方から爆発音が鳴った。確かこの方角は前哨基地がある方向。ただそれが分かった所でレイには何もすべきことがない。
少しの静寂の後、亡霊は前哨基地の方向を見て呟いた。
「時間はない……」
亡霊の声はノイズが走っているように、聞こえずらい。
「レイでは足りなかった」
「なに、いってん……だ」
「……お前は必要ない。計画変更だ。後は人造人間で補う。これから先、好きにするといい」
「かってなこと……いってんじゃ……」
「だが、その前に貸していたものを返してもらう」
次の瞬間、おもむろに亡霊が足を上げ、レイの顔面を踏みつぶした。
「っぐぁ」
「Quantaはやる。人格再生機構は返却だ」
もう一度、レイの顔面が踏みつけられる。頭部が地面に埋まり、僅かに凹む。そして踏みつけられたと同時に、レイの意識は消失した。
◆
レイが遺跡では無く近くの荒野で発見されたのには恐らくこのことが関係しているのだろう。
半年間昏睡状態だったのももしかしたら亡霊が関わっているかもしれない。右腕が無くなったのは確実に『それ』を使い過ぎたからで、亡霊は関わっていないだろう。今更亡霊の言葉に対して考証しても答えは出てこないし、まず荒唐無稽すぎた。
取り合えず今は無くなった右腕の代わりを探す。幸い、高性能の義手を買えるぐらいの金銭はある。しかし、バルバトスの戦闘を経てレイの体はかなりガタがきている。
今は《《強化服も着れないし義手も合わない》》。
中部の情勢を見る限りことは早めに進めた方がいいのだろうが、経済線を越えるこやレイの体の問題はすぐに片付くことでもないだろう。今は取り合えず目先の問題に対処していく、改めてその決意を固めてレイが路地裏を歩いていると、一人の人物が道を塞いだ。
「おまえ」
「レイ。君はなぜモンスターが人類をあれほど敵視し、襲うのか、その理由を考えたことはあるかい?」
手配書で見た事のある顔だった。
アーネス・ウォッチャー。西部にて懸賞首として認定されている男がレイの目の前に立っていた。




