第304話 第二次典痘災害
荒野を一台の車両が走っていた。砂塵を巻き上げながら日の下を進んでいる。運転席には一人の男性が、荷台には荷物と共に一人の女性が座っていた。褐色の肌に露出の多い恰好。灰色がかった白色の髪が特徴的な女性だ。
女性は荷台で膝を抱えて座りながら情報処理端末に目を向けていた。情報処理端末の画面に映し出されているのは最近話題になっているカルトヒーローに関してのものだ。
バルバトスを単騎で倒したという人物。尾ひれはついているのかもしれない、しかし女性の目をもってすれば尾ひれことついているもののバルバトスと互角の勝負を繰り広げたことぐらい分かる。
(すか……ふぇいすか、な)
恐らく彼だけで倒すのは無理だっただろう。確かバルバトスの討伐にはスカーフェイスが向かっていたはず、その情報から最後はスカーフェイスが仕留めたのだと理解する。
女性はノーネームが公開した映像の中でもカルトヒーローが映った部分だけを切り抜いて何度も再生する。何分と、何十分と見続け、ふと女性は笑った。そして小さく呟く。
「このひと、ならやれるかも、しれない……」
自らの旅の終着点に同行する仲間を見つけた喜び。スカーフェイスには断られたが、彼なら大丈夫だろう。そう言って彼女は笑う。
「探しにいく、かな」
彼を探し出し、必ず同行者として引き入れる。多少に強引になったとしても。
突然、彼女は立ち上がってふらふらと荷台の縁まで行く。それをバックミラーで見た運転手は声をあげた。
「おい嬢ちゃんどうした! あぶねぇぞ!」
女性は運転手の方を見て礼を述べた。
「ありが、とう。でも、ここまででいい」
「え、おいおいおい、ちょちょちょ!」
女性が荷台から飛び降りようとする。運転手は慌てて車両の速度を緩めようとしたが、ある光景に目を奪われて足を踏み損ねる。
「おいおいおい、どうなってやがんだ」
女性の足元から黒色の液体が溢れ出し、蜷局を巻きながら女性の体に巻き付いていく。
直後、運転手が瞬きをした間に女性の姿が消えた。
「はっ?! どこに消えたって……」
女性は遥か後方、すでに通り過ぎた地点に佇んでいた。いつ降りたのか、運転手の頭の中に疑問が浮かび上がる。だがその前に女性の元まで行こうとハンドルを切った時、荒野から忽然と女性が姿を消した。
「いったいどうなってやがんだ」
まるで幽霊でも乗せたかのように、音も無く消えてしまった。
そして、そうして運転手が戸惑っている時、女性は一人荒野を歩いていた。裸足で、音も無く歩いていた。
ゆっくりと歩きながら彼女はバルバトスと戦闘をする外套の男を思い浮かべる。そしてやっと念願の人物が現れたと、彼女は笑った。
「ぜったい、みつける、から」
西部に君臨する三人のテイカーの内の一人、《《イース・マーダ》》は不敵な笑みを浮かべて荒野の風に紛れて消えて行った。
◆
一年後。
経済の中心地としてさらに発展したクルガオカ都市に立ち並ぶビルの屋上で、一人の男が地上を見下ろしていた。都市の中心部は明るく光り輝き、少し離れるとネオンの明かりが怪しく輝く。外周部のスラムまで行くと火の明かりが眩しい。
一年経とうが社会構造は変わらず、風景もあまり変わらない。
立ち並ぶビルの幾つかが壊され、また新しく建築されただけだ。何も変わらない光景だが、少し久しぶりに見える光景。男は地上を見ながら笑みを浮かべた。視線を少しずらしてみれば幾つかの広告が目に入る。
その内の一つにバルバトスと一人で戦う人、という構図で描かれた絵があった。あそこでバルバトスに対して二挺の拳銃を向けているのが所謂カルトヒーローと呼ばれている人物だ。
本当は拳銃を二挺も使っていないのに、随分を脚色されたものだ。それどころか人から人へと伝わる中で悪魔だとか神だとか、酷い言われようだ。どちらかというと神として信仰されたいたのはバルバトスの方だろう。
「ふっ」
昔の出来事を思い出して男が笑う。
一年前にバルバトスが起こした事件。男はあの事件で遺跡内にいたテイカーの唯一の生き残りだ。凄まじい戦いだった。バルバトスは強く、己が身を犠牲にした。しかし勝ち、自分は今ここにいる。
男は笑みを浮かべたままゆっくりと空を見上げた。
「はっは」
踵を返し、仕事をへと戻るために足を進ませる。
男が一年前に遭遇し、己が力で退けた難敵。すでに討伐されていたはずの特別災害指定個体が発見された事件。《《自らがカルトヒーローとして祭り上げられるきっかけ》》となった出来事。
後に西部に多くの動揺と事件を生んだあの事件は第二次典痘災害として記録されている。
第二章 『第二次典痘災害』――終




