第157話 モリタ
桧山製物は他の大企業と比べると小規模な会社だ。資本、人員、伝手、あらゆる部分が少なく、小さい。しかしながら技術力という一点において桧山製物は大企業に並びえる。
特に強化服や外骨格アーマーなどの外部補助駆動。中継都市の建設にも使われている建設機械類。自動マッピングや熱源探知、音源探知などの機能が高水準で搭載された情報処理端末。高性能な探査レーダーなどの製品は高い評価を得ており、巡回依頼を行う車両にも一部機能が搭載されている。
ただ問題点があるとすれば値が張ってしまうことだ。建設機械類の製造にかかる材料費と運搬費。工場の数や敷地の狭さなど大量生産はあまり望むことができず、バルドラ社などの大企業に値段の面で負けてしまう。そしてそれは売り上げにも響く。たとえ桧山製物の方が性能が良くてもだ。
桧山製物が力を入れている外部補助駆動や建設機械類はまだ他者と戦えているが、武器になるとまず勝てない。銃を作っている企業はあまりにも多く、そこに参入するのは難しい。NAK社、ハップラー社、アストラ社。そしてバルドラ社は当然のこと技術力を持った企業が多く存在する。
すでに飽和し、空きの少ない市場、業界に参入して成功するためにはそれなりのコストがかかり、桧山製物だけが持つ特色を活かすことが必要だ。桧山製物といえば高性能、高品質が売りだが、それはバルドラ社も同じ。
外部補助駆動や建設機械類はすでに桧山製物が市場で名を売っているためバルドラ社にも引けを取らないほどの信頼がある。しかし銃に関しては違う。桧山製物は全くの新参だ。
加えて、銃やその他の武器を使うような者達のほとんどは企業傭兵かテイカーかのどちらかだ。それらの職業は一つでも選択をミスれば簡単に死ねる環境に置かれている。
故に武器は信頼性に長けた物しか使わない。その信頼性とは、例えば上司や仲間からの勧めや周りからの評価、業界での地位、といった築き上げたもので判断される。故にもし桧山製物が銃を作ったところで――もし高性能であったとしても――手に取ってもらえない可能性が高く、実績を築き上げることができない。
性能で突きつけようにもバルドラ社がいる。値段で突きつけようにもハップラー社を筆頭に多くの企業が生涯になり得る。
つまり、全くの新参である桧山製物が銃を作るメリットは少ない。
しかし今回、桧山製物は銃器の製造を開始した。作るのは突撃銃、散弾銃、狙撃銃、拳銃の四種類。
桧山製物が技術と人員と金を注げばGATO-8程度の武器は作れるが、それだとバルトラ社との価格競争で負ける。今回作ったの同価格帯の製品を圧倒する性能を持った銃器だ。
照準を合わせたのは1000万スタテルから1500万スタテルの価格帯。桧山製物は1300万スタテル程度の価格で、同値段帯の銃器よりも高性能な武器を作ることに注力した。
極限まで無駄を削ぎ落し、価格を下げた。簡易型強化服や強化服の技術を流用し、他社では見られない内部機構の武器を作りながら、十分に信頼性が確保できる程度までに試行錯誤を重ねた。
そうして、桧山製物は幾つかの試作品を作り上げた。
「そして。こちらが、私達が作り上げた試作品になります」
レイにそう言いながら、テーブルの上に置かれた幾つかの武器をモリタが指し示す。
レイも一歩近づいてテーブルに並べられた武器を見る。その際にモリタが口を開く。
「依頼。受けてくれてありがとうございます」
「別にまだ受けたわけじゃない」
レイはアンドラフォックに行く途中にモリタからの通話を受けた。その際に依頼料や試作品についての情報について聞かされた。モリタを怪しみもしたものの、調べれば調べるほどモリタが桧山製物の人間だという信憑性が増した。
そしてこうして会ってみて、モリタは桧山製物の人間で、桧山製物からの依頼ということも確認することができた。正直なところ、レイにこの依頼を頭ごなしに断る理由は無かった。
時間的制約があったわけではなく、体調が良くなるまでに済ませたいこともあったが、それはいつでもできること。もし強化服を買いに行くならば明日でも遅くはない。
モリタが桧山製物の人間であると信頼できた点や依頼料、そしてテスターがどんなことをするのか単純に興味を持ったためレイは桧山製物の模擬実習場に来ていた。だがここまで来て、銃を見させてもらったもののまだ正式に受けたわけではない。
ただ事前に機密情報保持に関しての契約はしているので、レイが試作品についての情報を漏らすことは無い。
「触ってもいいのか?」
「はい」
レイが並べられた銃の内、手ごろな拳銃を手に取る。造形は少し歪だが拳銃としては良くある形だ。重心も一般的なものと変わらない。弾倉、スライドに関しても特に異常は見られない。
だが問題は内部機構だ。
簡単には分解できそうにない、そして覗き込んで確認することも出来ない。レイは色々と触りながら色々と訊いていく。
「弾丸は」
「4.7ナノ弾です」
「装弾数は」
「21発です」
「そんなに入るのか?」
「ええ。特殊仕様です。そちらは主に護衛や隠密下での任務を想定し、作られました。出来るだけ携帯しやすいようコンパクトに、それでいて十分な弾倉を確保できるよう。また専用の消音器も売っております」
「……そうか」
レイが拳銃の近くに置いてあった資料を手に取る。資料には拳銃に関しての詳しいこと―――内部機構や細かい部品などのことについて乗っていた。
威力や反動などは撃ってみないと分からないが、カタログスペックだけ見るのならばかなり優秀。問題があるとするのならば値段だ。資料に値段は載っておらず、レイが気になって訊いてみる。するとモリタは待ってましたと言わんばかりに商売臭い笑顔を浮かべて言う。
「42万スタテルです」
「……安いな」
「そう言っていただけると、こちらとしても頑張った甲斐がありましたね」
この性能ならば致命的な欠陥を抱えていない限り、60万スタテルは越えてもおかしくない。
そして性能、値段を見たレイがモリタに拳銃を渡しながら言う。
「それの上位モデルも製造してるんだろ?」
するとモリタは商売臭い笑顔を消して、また別の笑顔を浮かべる。
「はい。ここに置いてあるものがすべてではないです。特に拳銃は製造にかかるコストも低いで、幾つかのモデルを出そうと思っています」
ここのテーブルに上位モデルの拳銃も一緒に置かなかったのは単に設計図止まりでまだ製造されていない―――というのはありえないので、恐らくレイが情報を口外してしまうのを恐れてのことだろう。
レイは機密情報について口外しないよう契約を結んではいるものの、中には契約を破って他者に情報を売る者も存在する。そう言った者はその実績からあらゆる企業で信用されなくなるが、一生分のスタテルと引き換えに情報を明け渡しているので、生きる分に働かなくとも問題は無い。
そしてレイが口外しないという絶対の補償は何処にもない。そんな者に多くの機密情報が詰まった製品を見せるわけにはいかなかった。企業として当然のリスク管理だ。
加えてレイは高ランクのテイカーというわけでもなく、企業との取引に関して実績が足りない。警戒されるのも当然のことだった。
だとするのならば、今度はレイの方から歩み寄る番だろう。
「分かった。テスターの依頼を受ける。何をすればいい」
レイの言葉を聞いたモリタは再度、商売臭い笑みを浮かべると依頼に関しての詳細情報を話し始めた。




