表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロストテイカー  作者: しータロ(豆坂田)
第二章――第二次典痘災害『上』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/178

第131話 妥協点

 情報屋とレイが話してから数日が経った。その間、レイは愚直に遺跡探索を繰り返していただけで、稼働する工場に関して一度も関わっていなかった。情報端末を預けた以上、情報をどう料理するかは情報屋の手に委ねられている。ただ今回の案件は対応を間違うとレイの方にまで飛び火するため、気になりはする。

 今、裏でどのような取引が行われているのか正確に知ることは出来ないが、綱渡りの交渉が行われているのだと分かる。レイが関与することは出来ないため、どうしようもないが、とにかく無事に終わってくれることを祈るのみだ。

 今日も遺跡探索を終えたレイテイカーフロントが運営する施設へと足を踏み入れた。

 用件は今日集めた遺物を売り払うだけだ。銀行口座をテイカーフロントとを連結しているため昨日に売却した遺物の代金は自動的にそちら側に振り込まれる。今日も遺物を渡すだけだ。ただ昔使っていたスラム街近くの施設ではなく、今は中位区画にある比較的大きなテイカーフロントで遺物の売却を行っている。というのも、窓口が多いというのが最大の理由だ。

 スラム街のテイカーフロントは窓口が二つしか無く、また駆け出しのテイカーも多いため手続きで手間を取る。適材適所と言うべきか、レイは自身の実力に見合った施設に拠点を移していた。

 いつものように施設の中に入り、遺物の売却を済ませる。そして施設から出ようとしたところで職員に呼び止められた。


「レイさん。少々お時間いただけますか?」

「え……あ、はい」


 何かしてしまったのかと、頭の中でぐるぐると思考が回る。職員が用件を言ってくれることは無く、ただ「着いて来てください」とだけ言って通常ならば入れない勝因専用の通路まで案内される。

 そして通路を歩き、二階まで来くるとある部屋の前で立ち止まった。


「レイさん。こちらの中で支部長がお待ちです」


 支部長……? と頭の中で言葉が反芻する。レイの困惑を置いて、職員は勝手に話を進める。

 扉を開き、中にレイを案内する。


「…………」


 何も分からぬままレイが部屋の中にまで入る。そして職員は勝手に出て行って、そして一度お辞儀をすると扉を閉めてどこかに行ってしまった。

 高価だろう、床に引かれたカーペットは踏みしめるごとに深く沈む。備え付けられた机や椅子はすべて一級品だ。そして部屋の中にはレイともう一人。きっちりとスーツを着こなす男だ。服の上からでも分かる。細身だが筋肉質。威圧感がある。

 そんな男と部屋で二人きりだ。そして職員の発言からもこの男が支部長だと分かる。言葉だけで高い地位にいる男だというのが簡単に理解できる。

 部屋の扉が閉じてすぐ男はレイに言った。


「まずは座ってください」


 男が誰だとか、なんで呼んだんだ、みたいなことを訊ける雰囲気では無かった。レイは大人しく言われた通りに座った。すると男が口を開く。


「私はテイカーフロント支部長。イナバです。今回は用件があってレイさんをお呼びしました」

「あ、はぁ」

「時間も無いので本題から。恐らく聞かされていないと思いますが、今回は『稼働する工場』について話し合うために来ました」


 その言葉を聞いた瞬間にレイが固まる。工場のことについて知っているのはレイと情報屋の二人だけだ。そしてレイは誰にも話していないため、ワーカーフロントが独自に情報を入手したから情報屋から知らされたの二択だ。

 ただ情報屋は前の話し合いで財閥と面倒なことになっても大丈夫なよう、後ろ盾にテイカーフロントを使うと言っていた。その時はまだ手段と構想がまとまっておらずただ聞かされていただけだったが、もし情報屋が伝えたとなるといつのまにか知らされていたようだ。


「情報源は情報屋からですか」

「はい。今回の件について情報を《《提供》》していただきました」


 情報を提供、ということは工場の事に関して金銭面のやり取りをしたわけではないようだ。ただあくまでも金銭面でのやり取りが発生していないだけで、借りや恩と言った目に見えない取引がされたのかもしれないが。

 少なくとも、今回の件で情報の出所が情報屋だと分かったのならば安心できる。彼女がレイのことを裏切る可能性はあるが情報屋は信頼が命だ。取引をしたのならば誠実に応じるのが普通である。


「あなたのことは彼女から情報提供を受けている時に知らされました。今回の件で大切なことは幾つかありますが中でも、あなた達が危惧しているのはテイカーフロント(わたしたち)や財閥と面倒な争いに発展してしまうことについてでしょう。なのでまず約束させていただきます。あなたがあの工場について関わっていることは絶対に口外しません。これは情報屋と交わした契約です」


 金銭面でのやり取りは無かったが、ワーカーフロントを後ろ盾として使うために契約を交わしたようだ。


「まず情報屋と交わした契約について順を追って説明しましょう」


 男はそう言って話し始める。

 今回の件でレイたちが最も恐れているのは情報が財閥へと渡り、自分たちが巻き込まれてしまう危険性だ。正直なところ、情報屋があのまま情報端末を処理すれば事態が露呈する可能性は低かった。しかしながら万が一ということもある。情報の所在、管理人をうやむやにしておく必要があった。少なくともレイたちが関与しているという情報だけは消す必要がある。

 加えて職業病と言うべきか。彼女は手にした『稼働する工場』という情報を出来るだけ有意義に使いたかった。

 そこでテイカーフロントに白羽の矢が立った。基本的に遺跡やテイカーの管理はテイカーフロントが行っている。稼働する工場に関してもテイカーフロントが執り行うべき事案だ。

 今回の工場についてもテイカーフロントが管理すべき案件。

 だが西部において財閥の力は大きい。多額の金銭と情報網を駆使し、テイカーフロントよりも早く工場を占拠する場合がある。それに今回の件については、稼働する工場など何十年に一つ見つかるか、という案件だ。財閥同士でも争いになり混乱を生む。

 そしてこれ以上、財閥に力を付けさせないためにも工場の早期確保は優先されるべき事案だった。場所が場所だ。いつ稼働し始めたのかは分からないが、あと何年とかからずに必ず発見されていただろう。今回はたまたまそれがレイであっただけ。そしてレイで良かった。

 馬鹿なテイカーであれば金銭に目がくらんで財閥に情報を明け渡していた。

 これ以上、西部の権力構造を歪な物にさせないためテイカーフロントが必ず、管理しておく必要があった。

 ただここまでの説明を聞いて、レイが疑問に思う。


「ちょっと待ってください。テイカーフロントの上って経済連ですよね」


 中部で議会連合があったように、西部でも同様の立ち位置に『経済連』がある。ただ一つ違うことがあるとするのならば、議会連合は企業達を上手く統制できたが経済連は上手く管理できなかったということだろう。経済連がしっかりとしていれば今頃、財閥が権力闘争の頂点に座ることも無かった。そして権力の頂点が財閥だということは経済連はその下にある。つまり経済連は七大財閥の実質的な支配下にあった。そしてテイカーフロントを運営しているのは経済連だ。そのためテイカーフロントが『稼働する工場』を所有したところで、実質的には、経済連を支配している七大財閥のものになる。

 財閥に気づかれる前にどれだけ動いたところで意味は無いのではないかと、レイが言う。しかしイナバは首を横に振った。


「いえ。私達は経済連支配下の組織ではありません。昔まではそうでしたがね。今、テイカーフロントを所有するのは架空の財団です。文面上にだけ書かれる、実態の無い機関がテイカーフロントを経営しています。経済連との繋がりは、財閥によってその機能を失い始めた時に我々の判断で切り離しました。先人たちのおかげで私達は実質的に自由に動ける機関になりました。つまりは、経済連、ひいては財閥でさえもテイカーフロントに対して如何なる権利も持ち合わせていないのです」

「……そんなこと出来るのか?」


 にわかには信じたがたい話。抜け穴でも使ったのだろうか。だがそのことについてイナバは苦笑しながら答える。


「テイカーフロントと経済連が分かれた時と今とではかなりルールが違っていますから……やれることもやれないことも大きく変わっています。今、同じことをしようと思ったら確実に不可能ですが、昔ならば出来たのではないでしょうかね。現に、私達はどこの組織にも属していません。理解は難しいと思いますが、今、当時の状況について考察するとかなり無理くりすればいけたんじゃないかと思いますね」


 イナバは続ける。


「今回の件で大事なのはあなた達の情報の保護です。私達は完全に切り離された組織であり、この情報についてテイカーフロントの上層部しか知りません。工場についての情報が洩れることは絶対にないでしょう。私達としても、財閥を助長させないために情報を私達に預けてくれて感謝しています。七大財閥と直接敵対関係というわけではないですが、もしかすると経済連だけでなく私達も乗っ取られてしまう可能性があるので弱みは見せたくはありませんでした。この工場のことについては財閥に一度も露呈させることなく、こちらだけで処理します。これ以上、財閥に権力を増幅させないよう、それに生物兵器の製造工場です。企業が管理したらよくないことが起こるのは想像にかたくない。私達としても有効に活用したいですが、後に起こる権力闘争を考えると…………」


 イナバがレイの目を見て口を開いた。


「工場は早急に潰しておいた方が良さそうです」

「いいん、ですか?」


 稼働している工場はそれだけで莫大な価値がある。それを破壊すると言っているのだ。


「ええ。工場が何か変なモンスターを生み出す前に稼働を停止させた方がいいですし、このままにしておくのも財閥が横やりを入れてくるでしょう。そしてこの情報を秘匿し、工場周りを閉鎖したところでいつかは気が付かれ、財閥とテイカーフロントとで面倒な争いになることは必須でしょう。ならば誰にも気が付かれることが無いまま、その存在を葬った方が効率的です」


 果たしてその判断が良いのかレイには分からない。そしてそれも当然だ。レイのようなテイカーは財閥と直接関わりを持たない。故にその危険性を少ししか知らない。実感がないのだ。しかしイナバは違う。テイカーフロントの役員として財閥とは直接接することが多かった。他の上層部も同じだ。

 危険だと、面倒だとそう判断せざるを得ない。


「工場破壊の件は《《スカーフェイス》》に頼むことにしました。彼の所在は最重要機密事項。財閥ですら彼のことは知らない。知っているのはテイカーフロントの上層部でも上澄みの者だけです。財閥に動きが露呈することなく、きっと10分もあれば工場を跡形も無く破壊できるでしょう」


 中部で名実共にテイカーの頂点とされる三人の内の一人。単騎での小規模遺跡攻略。大規模遺跡の中心部侵入、生還。元懸賞金最高額の懸賞首『ククルカン』の単騎討伐。三人の内の一人に数えられるスカーフェイスはそれらの偉業を成した。他にもある。数え切れないほどに。

 そのスカーフェイスに仕事を頼むと言っているのだ。今までは危険なことは分かっていながらもどこか実感が無かったが、それほどの人物が動くのならば工場の一件がどれほどに重要な事案であるか認識できる。

 ただここで、イナバが注意点を述べる。レイに関してのことだ。


「本来。この情報には相応の対価を支払わなければなりません。しかしこの情報について我々は大金を払えません。財閥は金の流れに敏感です。こちらが何か怪しい動きをすれば勘づかれるでしょう」


 テイカーフロントのような巨大な組織が自由に動いている。財閥が監視していない訳が無く、少しでも変な動きをしたのならば察知される可能性が高い。レイに少額の報酬ならば振り込むことが出来るが、情報に見合っただけの報酬ともなると財閥が勘付く可能性がある。

 そのため、レイには報酬が払えない。そのことについて不満こそあるものの、仕方が無いことだと納得もできる。


「渡せない報酬の分をテイカーランクの上昇にてたいところですが、そうするとそれ相応の実績が必要になる。そして工場発見を実績とするのは……今の状況を鑑みれば無理だと分かりますね。つまりは、この情報に対して我々が君に出来ることは本当に僅かです。この点、本当に申し訳ない」


 相応の働きをしたものに報いることが出来ない。テイカーという者たちを管理しているからこそ、その重大さがイナバには分かっている。だからこそ役員という立場でありながら、レイという一端のテイカーに頭を下げた。形式的なものではない。心の底から、思っての行動だ。

 そしてイナバは頭を下げたまま言う。

 

「ただ、代わりと言ってはあれですが。君がもし困っていることがあったのならば私の名前を出してください。こう見えて、それなりに権力がある方です。テイカーフロントだけでなく、傘下の企業、組織でも通じるはずです。そして微量ながら報酬も払わせていただきます」


 それが今回の妥協点。『稼働する工場』に関してはレイと情報屋だけでは解決できない問題だった。二人にもう少し力があれば、本来の価値を引き出せていたかもしれないが。企業を相手に大立ち回りを演じられるだけの伝手も権力も無かった。故に今回はテイカーフロントの力を借りる形となった。爆弾の処理を任せたのだ。その処理費用をテイカーフロントが払ってくれたのだと解釈すれば、報酬が微量なのも納得ができる。

 そして遺跡から持ち帰って来た『稼働する工場』に関する情報はレイのものではない。あれは情報屋が所有しているものだ。確かに探し、見つけ、調べたのはレイだがそれは依頼があったから。情報端末に入っている情報のすべてが情報屋の所有物だ。

 今回の一件で情報屋はテイカーフロントとの繋がりも貸しも作れた。レイもイナバという権力者との伝手やテイカーフロントの後ろ盾といったものが作れた。

 それが今回の妥協点。

 情報屋が上手く運んでくれたおかげ、レイ達が被害を被ることは無かった。十分だろう。最悪の状況からは程遠い。

 十分だと、レイが納得するとイナバに言った。


「全然大丈夫です。ここまでしていただいてありがとうございます」


 その言葉を聞くと、イナバは緊張を和らげるように息を吐きながら頭をあげた。そしてこの後、二人は細かい報酬の話し合いなどを一瞬で終わらせ、イナバは「あまり長居すると面倒なことになるかもしれないので」と言い残して部屋から去って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ