【異世界恋愛】空中都市アルヴァ・エルドだか何だか知らないけど、彼をゲットするためなら、火の輪でも何でもくぐってやるわ。
『空中都市アルヴァ・エルドの恋愛決闘』
--
ここは、浮遊大陸アルヴァ・エルド。空を流れる魔素の海に浮かぶ学園都市。
魔導士の卵たちが集うこの島で、恋愛と決闘は切っても切れない関係だった。
なぜなら。この世界では、異性への決闘は求愛の第一歩とされているからだ。
「リオン・グレイバーグ! 我が名はグレイス・ヴァレンティア! この天空に誓い、汝との決闘を申し込む!」
「うわ、また空飛ぶ馬で登場してる……あれ何て名前だっけ、ペガなんとか?」
決闘場の観客席がざわつく。
学園最上位階級、風属性貴族・ヴァレンティア家の嫡子による十回目の求愛決闘。
だが――相手は、よりにもよって鈍感な異世界転移者、リオンである。
◆
リオンは地球出身、三ヶ月前にトラックではなく魔導蒸気列車の脱線事故で異世界に転移してきた。
「……で、なんでまた決闘してくるんだろうな、グレイス嬢は。俺、嫌われてるのか?」
「おまえ……いい加減気づけよ。あれ、求婚なんだぞ?」
「えっ、マジで!? この世界、決闘がプロポーズなの!?」
「今さら!? 校内放送でも言ってたじゃん、“恋は火花とともに”って……」
「いや、あれ比喩だと思ってた……」
そう――リオンは、異世界語は完璧に読めるが、文化をまるで理解していないのだ。
◆
「今日の決闘では、風の魔導大剣を捧げるつもりだったのに……」
グレイスは、風をまとう巨大な魔剣を肩にかつぎながら、決闘場の隅で落ち込んでいた。
「“これで君を守りたい”って言ったら、“そんな重そうなものより、カバン持ってほしい”って……」
側近たちは黙って頷く。十連敗である。
学園内では「グレイス嬢のプロポーズ芸」と呼ばれ始めていた。
だが彼女はあきらめない。
「次は……海上決闘ね。飛行呪文で水上を駆け、炎の輪をくぐって登場するわ。さすがにそれなら気づくでしょう……!」
気づかない、いや……気づけないのである。
◆
異世界転移者リオンは、今日も学食でカレーをのんきに食べながら言う。
「グレイス嬢ってほんと勝負好きだなぁ……。俺、別にすごい魔法使えるわけでもないのに」
隣のラティーナ嬢が無言でスープを啜る。
「でもまあ、あの馬(※ペガロフォーン)だけはカッコいいと思う。名前何だっけ……確か“好きって言ってよ”って意味の古語だったよな?」
「……(それが彼女の最後のヒントだったのに……学園一鈍感って本当ね)」
異世界の空は、今日も青い。
(完)
※名前の=を・に修正しました。