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第22話「召喚儀式の始まり」

そして精霊召喚儀式の朝が訪れた。


キオは早くから目を覚ましていた。昨夜はほとんど眠れなかった。窓の外には冬の冷たい空気が漂い、夜空にはまだ星が瞬いている。


『今日だ...』


心臓が激しく鼓動している。


『キオ』


シュバルツの声が優しく響く。


『今日、俺が初めて姿を現す。そして...ベゼッセンとの再会だ』


『怖い...でも、君がいてくれるから』


『そうだ。お前は一人じゃない』


キオは深く息を吸い込んだ。支度を整え、鏡の前に立つ。夜空色の黒髪が、朝の光を受けて深く輝いている。


『大丈夫。みんながいる。シュバルツがいる』


部屋を出ると、廊下ですでに何人かの生徒たちが緊張した面持ちで歩いていた。


「今日だね...」


「緊張するな」


誰もが同じ気持ちなのだろう。




食堂に向かうと、すでに4人の友人たちが集まっていた。


「おはよう、キオ君」


ルイが優しく微笑む。でもその目には心配の色が浮かんでいる。


「おはよう、ルイさん」


「キオ、眠れたか?」


オーウェンが気遣うように尋ねる。


「あまり...」


キオが正直に答えると、カリナが明るく声をかけた。


「私も全然眠れなかった!わくわくしすぎて」


「僕もです...緊張で何度も目が覚めました」


セドリックも同じようだ。


5人で朝食のテーブルに座る。いつもの会話も、今日はどこかぎこちない。


「みんな、今日のこと考えてる?」


カリナが率直に聞く。


「そりゃそうだよ。人生で一度きりの大事な儀式だもん」


オーウェンが答える。


「キオ君は...大丈夫ですか?」


ルイが心配そうにキオを見つめる。


「うん...友達がいてくれるから」


キオの言葉に、4人が温かく微笑んだ。


「当然だ。僕たちがそばにいる」


オーウェンが力強く言った。




1年生全員が召喚大広間に集合するよう指示された。


5人は一緒に広間に向かう。途中、他のクラスメイトたちも緊張した面持ちで歩いている。


「すごい人数だね」


セドリックが周囲を見回す。


「1年生全員だから、100人以上いるはずよ」


カリナが数えようとしている。


召喚大広間は、学校の中でも最も神聖な場所とされている。普段は入ることができない特別な空間だ。


重厚な扉が開かれると、息を呑むような光景が広がっていた。




広間は円形で、天井は遥か高くまで続いている。壁一面には精霊たちを表す美しいステンドグラスがはめ込まれ、様々な色の光が幻想的に差し込んでいた。


中央には巨大な召喚陣が描かれている。七色に輝く複雑な魔法陣で、見ているだけで魔力を感じる。


「すごい...」


生徒たちから感嘆の声が漏れる。


「こんなに大きな召喚陣、見たことない」


セドリックが目を見開いている。


「わあ!私の故郷の召喚陣とは全然違う!もっときらきらしてて、ものすごく大きいわ!」


カリナも興奮している。


広間の奥には壇上があり、そこには数名の教師と、見慣れない人物たちが立っていた。


『あの人たちが、シュバルツ一族の専門家...』


キオの心臓が早鐘を打ち始める。


『キオ、落ち着け』


シュバルツの声が支えてくれる。


『でも...ベゼッセンがいるかもしれない』


『大丈夫だ。心を落ち着かせろ。』




生徒たちが着席すると、シュトゥルム先生が壇上に立った。


「皆さん、おはようございます。本日はいよいよ精霊召喚儀式です」


先生の声が広間全体に響く。


「今日、皆さんを指導してくださるのは、シュバルツ一族の精霊召喚の専門家の方々です」


キオの体が緊張で硬くなる。


「まず、副指導者のアーデルハイト・シュバルツ・フリードリヒ先生」


壇上に立ったのは、30代くらいの優雅な女性だった。紫寄りの黒髪を持ち、穏やかな微笑みを浮かべている。


「そして、技術指導のカスパー・シュバルツ・ヴォルフガング先生」


次に現れたのは、厳格そうな40代の男性。彼も紫がかった黒髪を持ち、鋭い眼光が印象的だ。


『まだベゼッセンは出てこない...』


キオは少し安堵したが、すぐに次の言葉が来ることを予感していた。


「そして...」


シュトゥルム先生が少し間を置いた。


「主任指導者であり、精霊召喚の第一人者、ベゼッセン・シュバルツ・ヴァーグナー先生です」


その瞬間、キオの世界が止まった。


壇上に現れたのは、7年ぶりに見る、あの人だった。




ベゼッセン・シュバルツ・ヴァーグナー。


30代後半の男性。黒髪は以前と変わらず美しく、整った顔立ちをしていた。記憶の中よりも少し老けた気がする。



ベゼッセンは壇上から生徒たちを見渡した


その時、その目がキオを捉える


キオを見つけた瞬間、ベゼッセンの目が大きく見開かれた。


キオは思わず、視線を下ろした


やはりあの視線が嫌いだった。


『だめだ...』


キオの体が震え始める。


「キオ君?」


ルイがすぐに異変に気づいた。


「顔色が...」


オーウェンも心配そうにキオを見る。


『キオ!』


シュバルツの声が強く響く。


『落ち着け。俺がいる大丈夫だ』


でも、キオの体は恐怖で動かなかった。

記憶が蘇る。あの恐怖が。


顔をあげられなかったが

ベゼッセンが壇上から、まっすぐこちらを見ているような気がした。

事実、ベゼッセンは、まるで他の生徒など存在しないかのようで、キオだけを見ていた。


「皆さん、本日は...」


ベゼッセンが話し始めたが、キオには言葉が耳に入らなかった。


『逃げたい...』


『キオ、耐えろ。友人たちもそばにいる』


オーウェンがそっとキオの手を握った。


ルイも反対側からキオの服の裾を掴む


カリナとセドリックも、自然とキオの傍によった


「大丈夫...私たちがいるから」


カリナが小声で言う。


そのみんなからの温もりが、キオを現実に引き戻してくれた。


『そうだ...僕は一人じゃない』




ベゼッセンの説明が続く。キオは必死に聞こうとしたが、その視線がずっとこちらを向いているのが分かったので

あえて下を見続け、気持ちを落ち着かせるように務めた


「精霊召喚は、皆さんの魔力と精霊界の力を結びつける神聖な儀式です」


ベゼッセンの声は落ち着いていていた


「一人ずつ、召喚陣の中心に立っていただきます。そして自分の魔力を解放し、精霊界との接触を試みます。私たちはそのサポート為、学園に来ました。安心して儀式を受けてください。」


生徒たちが真剣に聞いている。


「相性の良い精霊が現れたら、契約を結びます」


「先生、質問があります」


一人の生徒が手を挙げた。


「はい」


「もし、複数の精霊が現れたらどうするんですか?」


「その場合は、最も強く惹かれ合う精霊を選びます。複数契約も可能ですが、自身の力に見合わない契約はオススメしません」



説明は続いた。





「それと、特別な事情のある生徒が一名います」


ベゼッセンが言った。


「カリナ・マージェンさん」


カリナが「はい!」と元気よく返事をする。


「あなたは故郷から精霊パートナーを既に連れてきています。異文化の精霊契約システムを尊重し、あなたは今回の儀式の対象外とします」



カリナは元気よく頷く


「ただし、儀式は見学できます。そして、もし新しい精霊と契約したいということであれば、別途対応できますので、その場合は我々に相談して頂ければと思います」


「わかりました!」


キオはほっとした。自分のことは言及されなかった。


『良かった...特別扱いされずに済む』


『ああ。さすがのあいつも、公私混同はしないようだな』


シュバルツの声にも安堵が混じっていた。




「それでは、本日の精霊召喚儀式を開始します」


ベゼッセンの宣言と共に、召喚陣が光り始めた。


何人もの魔力が魔法陣へと注ぎ込まれる


七色の光が渦を巻き、広間全体が神秘的な雰囲気に包まれる。


「美しい...」


生徒たちから感嘆の声が漏れる。


「順番は名簿順に行います。最初の生徒は前へ」


緊張が広間を支配した。誰もが自分の番を待ちながら、期待と不安を抱いている。


キオは友人たちに囲まれながら、心の中でシュバルツと対話していた。


『シュバルツ、僕たちの番が来たら...』


『ああ。俺が姿を現す。』


『ベゼッセンは...何もしてこないよね?』


『安心しろ、あいつが驚いて何も出来ないように、俺が格好良く、かつ力強い演出で現れてやろう』


『ふふふ、それは面白そうだね』


シュバルツの言葉にキオは笑うことが出来た


『任せておけ』




「アーデライデ・ブラウ・アルトハウス」


最初に名前を呼ばれた少女が、緊張した面持ちで召喚陣の中心に立った。


青い髪を持つ、ブラウ一族の少女だ。


「深呼吸をして、自分の魔力を感じてください」


アーデルハイト先生が優しく指導する。


少女が目を閉じると、青い光が彼女の周りを包み始めた。


そして、召喚陣から淡い青色の光が立ち上る。


「精霊が来ています。目を開けてください」


少女が目を開けると、そこには小さな人型の水精霊が浮かんでいた。半透明の水色の体を持ち、可愛らしい妖精のような姿だ。


「わあ...」


広間から小さな歓声が上がる。


「契約の意志を確認してください」


少女と精霊が見つめ合う。そして、二人は頷き合った。


「契約成立です。おめでとうございます」


拍手が起こる中、少女は嬉しそうに席に戻っていった。


「次、アレクサンダー・ゲルプ・ベルク」


次に呼ばれたのは黄色い髪の少年だった。彼の前に現れたのは、小さな雷の動物型精霊。黄色く輝く子狐のような姿だ。


「すごい、動物の形だ」


誰かが呟く。


「次、クララ・パーネル」


茶色い髪の平民の少女が呼ばれる。彼女の前には、淡い緑色の丸い光が浮かんだ。植物を育てる精霊だという。


「形が違うんだね」


カリナが興味深そうに見ている。


次々と生徒たちが召喚陣に立ち、それぞれの精霊と出会っていく。


人型の火精霊、動物型の土精霊、球体の風精霊、ぼんやりとした光の治癒精霊...


魔力の強さによって、精霊の姿も様々だった。


「次、ディートリヒ・グリューン・ミラー」


緑髪の少年の前には、小さな人型の森の精霊が現れた。


「次、エミリア・ブラウ・シュミット」


平民の少女の前には、水色の四角い光が現れる。


様々な精霊が現れ、生徒たちと契約を結んでいった。




「セドリック・モイヤー」


セドリックの順番が来た。


「頑張って!」


カリナが励ます。


セドリックは緊張しながらも、召喚陣の中心に立った。


「はい!」


セドリックが返事をして、召喚陣の中心に進む。


光が彼を包み、やがて—


小さな動物の姿が現れた。


雷の力を宿した、淡い黄色の光を纏う小さなフェネック。大きな耳を持ち、ふわふわの尾を揺らしながら、セドリックを見上げている。


「え...えええええっ!?」


セドリックが驚きの声を上げ

慌てて自身で口を塞ぐ


動物型の精霊が現れたのだ。平民の自分に、こんなにはっきりした形を持つ精霊が?


小さなフェネックは、セドリックに近づくと、その足元にすり寄ってきた。まるで「僕を選んで」と甘えるように。


「す、すごい...」


セドリックが震える手でフェネックに触れると、小さな精霊は嬉しそうに尾を振った。


「契約の意志を確認してください」


先生の声に、セドリックはフェネックを見つめる。


フェネックも、まっすぐセドリックを見つめ返している。その瞳には、信頼と期待が満ちていた。


「...よろしくお願いします」


セドリックが涙声で言うと、フェネックが小さく鳴いた。


契約成立の光が二人を包む。


「やった...やった!」


セドリックが嬉しそうにフェネックを抱き上げる。小さな精霊は、セドリックの腕の中で幸せそうに丸くなった。


「おめでとう、セドリック!」


キオたちが小声で祝福する。


「動物型精霊だ...すごいね」


「可愛い!」


カリナが目を輝かせている。


次々と名前が呼ばれ、やがて—


「キオ・シュバルツ・ネビウス」


キオの名前が呼ばれた。


『とうとう来た...』


『大丈夫だ、キオ。俺がついている』


キオは立ち上がり、召喚陣に向かって歩き始めた。


周囲の視線が一斉に集まる。シュバルツ一族の召喚に、誰もが注目していた。


そして壇上では、優しく微笑むベゼッセンがキオを待っていた。


『何が起きても、僕は一人じゃない』


そう自分に言い聞かせながら、キオは召喚陣の中心に立った。


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