第19話「期待と準備の日々」
土曜日の朝、キオは昨日のシルヴィア先生との会話による動揺もシュバルツとの対話で落ち着いていた。
今日は勉強会の日ではないが、友人たちと図書館で会う約束をしていた。
精霊召喚儀式について、もっと詳しく調べてみようということになったのだ。
「おはよう、キオ!」
図書館の入り口で、カリナが元気よく手を振っている。
隣にはルイとセドリックも立っていた。
「おはよう、みんな。オーウェンは?」
「もう中で席を取ってくれてるよ」
セドリックが指差す方向を見ると、確かに奥のテーブルでオーウェンが手を振っていた。
5人で集まって資料を広げ始めると、昨日の精霊召喚の話の続きが自然に始まった。
「昨日話してたこと、もっと詳しく調べてみたくて」
キオが資料をめくりながら言う。
「私も!どんな精霊さんたちがいるのか、もっと知りたいの」
カリナが目をきらきらさせる。
「昨日セドリックが言ってた雷の精霊以外にも、色々いるのかな?」
ルイが興味深そうに尋ねる。
「そうそう!僕、昨日は雷の精霊がいいって言ったけど...」
セドリックが少し考え込む表情を見せる。
「でも、この資料を読んでいたら、土の精霊も面白そうだなって思ったんだ。継続的な努力を支えてくれることが好きな精霊って書いてあって」
「土の精霊か。努力家なタイプと相性がいい精霊かもしれないな」
オーウェンが資料を指差しながら言う。
「そういえば私、昨日オーウェンは大地の精霊がいいって言ったけど、やっぱり光の精霊の方が王族らしいのかな」
カリナがオーウェンを見る。
「うーん、家の系統の方がよいということもあるかもしれないが、結局は僕との相性次第かな」
オーウェンが少し考え込む。
「大地の精霊の方が僕を支えてくれそうだけど、それを頼りすぎるのもなぁ…」
「そっかー」
カリナは次にルイに話しかける
「それじゃあ。ルイは?ルイは昨日、火の精霊や水の精霊って言ってたけど、どう?」
「そうだね…。実は前から、お父さんに手紙で精霊のことを相談してたんだ」
ルイが遠慮がちに話し始める。
「昨日は火の精霊さんって言ったけど、お父さんからの手紙で、植物の精霊さんも料理人との相性がいいって教えてもらってたんだ。新鮮な野菜やハーブを育てるのに力を貸してくれるからって」
「植物の精霊さん!それも素敵ね」
カリナが目を輝かせる。
「食材から大事にするなんて、料理人を目指しているルイらしい考えだね」
キオが感心して言う。
その言葉にルイは照れたように笑った
「あ、でも。ルイの場合は水の精霊さんでもいいかもしれないわね」
カリナが閃いた!という顔をしていた
「実はね、火の精霊さんと水の精霊さんって、一見正反対に見えるけど、実はお互いを必要としてる関係なのよ」
カリナが目を輝かせて話す。
「必要としてる...ってどういうこと?」
セドリックが不思議そうに尋ねる。
「火の精霊さんはね、水の精霊さんがそばにいると安心して力を出せるの。水の精霊さんがいれば、自分の力が危険なものになりすぎないって分かってるから」
「逆に、水の精霊さんは火の精霊さんがいることで、今まで知らなかった自分になれるの。冷たい水だけじゃなくて、温かいお湯にも、ふわふわの湯気にもなれる」
「お互いがいることで、自分らしくもいられるし、新しい自分にもなれるんだね」
キオは面白そうにカリナの話を聞いていた
「そう!それに、温泉やお湯、お料理の煮込みとか...火と水が一緒に働くことで生まれる素敵なものってたくさんあるのよ」
ルイの目が輝いた。
「それって...お互いを高め合う関係なんですね」
「その通り!私の故郷では、料理上手な人は火の精霊さんと水の精霊さん、両方と友達なの」
「それは、すごく心強いね」
ルイが嬉しそうに微笑む。
『色々な考え方があって面白いな』
その後も相性などの話で盛り上がった
しばらくして、オーウェンが興味深そうに本の項目を指さした。
「これは珍しい記述だな。『契約の種類』という章がある」
「契約の種類?」
みんなが身を乗り出す。
「普通の精霊契約だけじゃなくて、『一時契約』『永続契約』『相互契約』なんていうのもあるらしい」
オーウェンが読み上げる。
「一時契約って何?」
セドリックが興味深そうに尋ねた。
「必要な時だけ精霊の力を借りる契約らしい。その時限りの力にはなるけれど、魔力の消費は少ないのがメリットとのことだ」
オーウェンはページをめくる
「次に永続契約だけど、これは生涯にわたる精霊との契約形態で、基本的には契約主が亡くなる時まで続く契約とのことだ」
「相互契約というのは?」
ルイが尋ねる。
「精霊と人間が対等の関係を築く契約と書いてあるな」
「それって永続契約とあまり変わらないよね?何が違うんだろう?」
ルイの疑問にオーウェンが本を読み進める
「永続契約と相互契約との違いは...精霊によって変わるらしい」
よくわからず、みんなが首を傾げる
「精霊は基本的に精霊界にいるみたいなんだが、精霊の力の大きさによって、僕たちの世界に来られる来られないがあるみたいだね。例えば力の弱い下級や中級の精霊までは気軽にこちらに来られるようなんだが、力の強い上級以上になると簡単にはこちらに来られないようなんだ」
「えっ、そうなの?」
セドリックは目を丸くする
「ああ、理由については記載されてないが。上級精霊は人と契約することで繋がりができ、こちらに来られるみたいだ...でも強い精霊ほど、こちらには興味が無い精霊が多いみたいだね。だからこちらにこられなくても困ることもないし、人と積極的に契約しようとすることもないみたいだ」
更にページをめくる
「永続契約は召喚主の魔力を使って精霊を呼ぶけれど、それで契約できるのは基本的に下級か中級の精霊のようだね。上級精霊ともなると、その召喚を拒否出来るらしい。代わって相互契約は、上級精霊が人と契約しても良いと承諾し、あくまで精霊と人とが対等な存在として契約するもののようだ。永続契約と違って対等だから、契約主の言うことを聞かないことも出来るし、精霊の方から契約を解除することもできるみたいだね」
「色々な関係があるんだね」
話を聞きながら自分とシュバルツはどういう関係なのだろうかと
少し考えるキオだった
「そういえば、儀式の前に実習があるって聞いたことがあるよ」
セドリックが思い出したように言う。
「実習?」
「精霊召喚の予備練習みたいなもので、来週から始まるんだって」
「それは楽しみだね」
ルイが期待を込めて言う。
「でも、ちょっと緊張するな...」
オーウェンが正直に呟く。昨日から体調が優れないこともあって、不安そうだ。
「大丈夫よ!みんな一緒だから」
カリナが励ます。
「そうだよ。それにオーウェンなら大丈夫だって」
キオも優しく声をかける。
「もし倒れそうになったら肩を貸してくれ」
「君のためならいつでも貸すよ」
キオとオーウェンは笑いあった
その時、図書館に見慣れない生徒が入ってきた。
白銀の髪を持つ、少年だ。
彼はキオたちのテーブルの近くを通りながら、チラリと視線を向けた。特にキオを見つめる視線が印象的だった。
「あの人、誰だろう?」
セドリックが小声で呟く。
「1年生ではなさそうだな。見たことがない」
オーウェンも首をかしげる。
少年はそのまま奥の席に向かったが、時々こちらを振り返っていた。
「なんだか、キオのことを見てたみたいね」
カリナが素直に言う。
「僕?そんなことないよ」
キオは首を振るが、確かに視線を感じていた。
『また新しい問題が起きなければいいけど...』
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午後になって、5人は学校の中庭を散歩していた。
「来週から実習が始まるけど、みんな準備はどうだ?」
オーウェンが話題を切り出す。
「私は...基本的な魔力調整の練習をしてるよ。精霊契約には安定した魔力が必要だって聞いたから」
ルイが答える。
「それは大事なことだ。僕も体力をつけるために、軽い運動を始めた」
オーウェンが言うと、カリナが心配そうな表情を見せた。
「無理しちゃダメよ」
カリナが注意する。その声にはいつもより少し強い気遣いが込められている。
「分かってる。ありがとう」
オーウェンはカリナを安心させるように微笑んだ。
それを見てカリナも笑顔を返す。
少しだけ2人の雰囲気が変わっていた。
オーウェンの笑顔が、カリナに向けられる時だけほんの少し柔らかくなり、カリナもオーウェンを見る視線がいつもより少しだけ長い。
でも、経験値の低いキオにはその微妙な変化が分からなかった。
『気のせいかな?』
何となく、2人の間に特別な空気があるような気もするが、それが何なのかキオには理解できない。
ルイも同じく首を傾げている。
「どうしたの?ルイ」
キオが聞くと、ルイは少し困ったような顔をした。
「えっと...なんだか、オーウェン君とカリナ、仲良しだなって」
「元からだよね?」
キオの言葉に、ルイも頷く。
「そう...だよね」
二人とも、その「仲良し」が何か特別なものに変わりつつあることには気づいていなかった。
しかし、少し離れた場所で歩いていたセドリックは、違った。
彼はオーウェンとカリナの微妙な空気の変化に気づいていた。
『あれ...もしかして...』
セドリックは本をたくさん読む。
恋愛小説も例外ではない。
だからこそ、オーウェンがカリナに向ける視線の優しさや、カリナがオーウェンを気遣う時の特別な表情に、何か芽生えつつあるものを感じ取っていた。
『まだ本人たちも気づいてないかもしれないけど...』
セドリックは少しドキドキしながらも、この変化を見守ることにした。
キオやルイに言うべきか迷ったが、まだ何も起きていないし、本人たちも自覚していないようだから、黙っていることにした。
『でも...なんだか、物語みたいだな』
セドリックは心の中で微笑んだ。
大切な友達が、お互いを特別に思い始めている。
それは素敵なことだと思った。
なぜか心の奥でシュバルツが笑っている気がした。
『気のせいかな?』
キオは首を傾げながらも、友人たちとの楽しい午後を過ごし続けた。
オーウェンとカリナの間に何かが芽生えつつあることにも、ルイの困惑も、セドリックの気づきも知らずに。
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