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間話5オーウェン視点「歌声と王冠」


王族である少年と

異国の少女とのちょっとしたエピソード



11月のある午後。オーウェンは校舎の廊下を歩きながら、少し気が重かった。


午前中の授業で体調を崩しかけて、昼食も軽めにしか取れなかった。時折、対応しなければいけない王族としての公務の疲れが、まだ抜けきっていないのかもしれない。


『少し休もうか...』


そう思った時、食堂の前でカリナの明るい声が聞こえた。


「音楽室ってどこにあるの?」


通りかかった上級生に尋ねている。褐色の肌、キャラメル色の髪、抹茶色の瞳。いつも通りの元気いっぱいの様子だ。


オーウェンは、自分でも不思議なほど自然に足を向けていた。


「カリナ」


声をかけると、彼女が振り返った。


「あ、オーウェン!」


その屈託のない笑顔を見た瞬間、オーウェンの心が少し軽くなった。


不思議だ。

いつもならこの時間は自室で休むところなのに、今日は彼女と一緒にいたいと思った。


「音楽室を探しているのか?」


「うん!この学校の楽器を見てみたくて」


「それなら、案内しよう。僕もちょうどそっちの方に用があったんだ」


嘘だった。


でも、カリナと一緒にいたかったから、自然とそんな言葉が出ていた。




音楽室は学校の北棟にある。二人で廊下を歩きながら、オーウェンはカリナの横顔を盗み見た。


彼女は周りの景色を興味深そうに見回している。窓から差し込む秋の午後の光が、キャラメル色の髪と褐色の肌を美しく照らしていた。


『綺麗だな...』


そう思った瞬間、オーウェンは自分の思考に驚いた。


それがなんだかわからず

『あたまがぼーっとしているな…』そう自分に言い聞かせる。


音楽室の扉を開けると、窓からは中庭の景色が見え、秋の名残の紅葉が美しく色づいていた。


カリナは部屋の中央に置かれたピアノを興味深そうに眺めていた。


「わあ、大きなピアノ!故郷にはこんな立派な楽器はなかったわ」


その目の輝きを見て、オーウェンは思わず微笑んでいた。


カリナのこういうところが、いいな。何を見ても新鮮に驚き、素直に喜ぶ。王宮で育った自分には、もうとっくに失われてしまった感覚だった。


「せっかくだから、一緒にいてもいいか?」


オーウェンが尋ねると、カリナは嬉しそうに笑った。


「もちろん!一人より二人の方が楽しいもの」


それが、どれほど嬉しいことか。


オーウェンは窓際の椅子に腰を下ろした。

カリナの邪魔にならないよう、少し距離を取る。


でも、なぜか

本当は彼女の近くにいたいと思う自分がいた。




オーウェンは窓際の椅子に座り、カリナを見守った。


彼女がピアノの鍵盤に触れる姿は、まるで子供が新しいおもちゃに出会ったようだ。


「カリナの故郷にはピアノのような楽器はあったのか?」


「うーん、基本的には吹いたり叩いたりする楽器が多かったかな。それにこういう大きい楽器よりも持ち運べるくらいの大きさの楽器が多かったかも!その方が気軽に演奏できるし、すぐに歌ったり踊ったり出来るしね!」


カリナはふわりとスカートをなびかせて

その場で踊りを披露した

そして故郷の歌を歌う


まるで舞姫のようだった


「カリナは歌が本当に上手だな。この前の授業で聴いた時だって皆が驚いていた」


オーウェンの言葉に、カリナは踊りの止め照れたように笑った。


「ありがとう!でも故郷では、歌は生活の一部だったんだ。朝も夜も、みんなで自然に歌うのよ」


その自然な様子が、彼女らしい。


カリナは再びピアノと向き合い鍵盤に指を置いた。

慎重に一つの音を鳴らす。


「ドの音だわ。これは分かる!」


そして、いくつかの鍵盤を適当に押す。

でたらめながらも、楽しげな音が響いた。


その様子を見ているだけで、オーウェンの心が和んでいく。


城での生活では、すべてが完璧でなければならなかった。音楽も、優雅で洗練されたものでなければならなかった。


でも、カリナのこの自由な音には、そんな堅苦しさがない。


「ピアノは弾けるのか?」


「ううん、全然。でも音を出すのは楽しいわね」


『楽しいから、やる』


そんな単純な理由で何かをすることが、自分にはどれだけあっただろう。


「先程の歌もそうだが。故郷では、どんな歌を歌っていたんだ?」


オーウェンは興味深そうに尋ねた。


「色々あるわよ。朝の歌、海の歌、踊りの歌...」


カリナの目が輝く。故郷を思い出しているのだろう。


「一番好きなのは、家族の歌かな。お母さんがよく歌ってくれたの」


その表情に、少しだけ寂しさが混じった。


「聴かせてもらえるだろうか?」


オーウェンの言葉には、本当に聴きたいという気持ちが込められていた。


「いいわよ!あ、でも。さっきの歌と違って、ちょっと声を出さないといけない歌だから、迷惑だったりしないかな?」


カリナがキョロキョロと周りを見渡す


「大丈夫だ。僕だけだし」


できるだけ優しく、安心させるように言った。


その言葉に安心したのか、カリナが深呼吸をする。


そして、彼女が歌い始めた。




それは波の音を思わせる、ゆったりとした旋律だった。


故郷の言葉で歌われる歌は、オーウェンには意味は分からなかった。


でも、不思議なことに、その温かさは確かに伝わってきた。


カリナの声は澄んでいて、それでいて力強い。まるで海の風が部屋の中を吹き抜けていくような、不思議な感覚があった。


オーウェンは静かに目を閉じた。


城で聞いてきた、あらゆる歌を思い出す。


宮廷音楽家たちの完璧な歌声。

豪華な舞台での華やかなオペラ。すべてが美しく、洗練されていた。


でも、カリナの歌には、それらとは違う何かがあった。



自分にはその違いをハッキリと言葉にはできないが

ただ、心が込められている。そう感じた。


母親への愛情、故郷への思い、家族の温もり。

すべてが、その歌声に乗せられていた。


オーウェンの胸が、じんわりと温かくなった。


カリナの歌声がとても好きだ。そう思った。


歌が終わると、しばらく静寂が続いた。


オーウェンは目を開けて、ゆっくりと拍手をした。


「...素晴らしかった」


その言葉は、心の底から出たものだった。


「本当に、心が温かくなる歌だ」


カリナが嬉しそうに笑う。その笑顔を見て、オーウェンも自然と笑っていた。






「えへへ、ありがとう」


カリナが嬉しそうに笑う。


「この歌はね、『どこにいても家族は一つ』っていう意味なの。島を離れる人に歌う歌なのよ」


「そうか...カリナも今、故郷から離れているんだな」


オーウェンの声は優しく、どこか心配するような響きがあった。


カリナは少しだけ寂しそうな表情を見せた。


「うん。でも、寂しくはないわ。だって、ここには新しい家族...じゃなかった、友達がいるもの」


カリナの笑顔が戻る。


その言葉に、オーウェンは安心したような気持ちになった。


「...そう言ってもらえると嬉しい」


普段は王族として感情を表に出さないようにしているオーウェンだが、今は素直な笑顔を見せていた。


カリナの前では、なぜか自然体でいられる。


「オーウェンは、故郷が恋しいってなったことってある?」


カリナが無邪気に尋ねる。


オーウェンは少し考えた。


どう答えればいいだろう。

城を遠く離れたことはあまりない。

この学校にきてからも公務のため、時折城へと行っている


でも、カリナの真っすぐな瞳を見ていると、素直な気持ちを言葉にしたくなる


「城を離れるようになったのはカリナと同じくこの学園に来てからだ。それに今も時折戻ったりもしている...でも城にいた時の方が、ある意味では孤独だったから、あまり恋しいという気持ちはわかないな」


その言葉を口にした瞬間、オーウェンは自分でも驚いた。


こんなことを誰かに話したのは、初めてだった。


「えっ?どういうこと?」


カリナが不思議そうに首を傾げる。


すこし間をあけてオーウェンは口を開いた


「王族だから、いつも周りにはたくさん人がいた」


オーウェンは窓の外を見つめた。


「みんな、僕優しくしてくれるけど、それが僕個人に対してなのか、王族だからなのか、いつも分からなかった」


言葉にすることで、今まで抑えてきた寂しさが溢れ出してくる。


「小さい頃から、『王族らしく』と言われ続けた。感情を表に出してはいけない、常に完璧でいなければならない、公平でなければならない…それが王族としての役目だからと」


それを自分に言ってきたのは誰だっただろうか…


「そう言われる度、心を開くのは…良くないことだとも思った。心を許してしまうと公平ではいられなくなるから」


それでも…この学校に来て

キオに話しかけたのは、淡い期待を抱いていたからかもしれない

僕にも友達が出来るかもしれないと


カリナは真剣な表情でオーウェンの話を聞いている。普段の明るさとは違う、真摯な眼差しだ。


その眼差しに、オーウェンは続ける勇気をもらった。


「でも、ここに来て変わった。キオやルイ、セドリック...そして君」


オーウェンはカリナを見つめた。


「みんな、僕を一人の友達として見てくれる…君たちとの日々がすごく輝いていて…」


オーウェンは言葉を選ぶように少し間を置いた。


「王族としては失格なのかもしれないが…君が立場関係なく、自然に接してくれることが、とても嬉しいんだ。僕も普通の学生になれたような気がした」


オーウェンは優しげにカリナを見た

カリナはキョトンとした顔をしている


「当たり前じゃない」


カリナがあっけらかんと言った。


「オーウェンはオーウェンだもの。金髪だろうと王族だろうと、それはオーウェンの一部ってだけで、全部じゃないわ。あなたは普通の学生よ」


オーウェンは目を丸くしてカリナを見ていた


「それに大丈夫よ」


カリナはその美しいキャラメル色の髪をなびかせて

オーウェンに笑顔を向けた


「オーウェンはちゃんと公平だわ。オーウェンはダメなことはダメって言うし、ちゃんとみんなを見てくれてる。友達がいたとしても、あなたはちゃんと公平よ」


その言葉を聞いた瞬間、オーウェンの胸が温かくなった。


「だから私もキオもセドリックもルイもオーウェンのことが大好きだし、大切な友達と思ってるわ」



その笑顔が眩しくて思わず目を背けてしまった


「ありがとう、カリナ」


オーウェンの声が少し震えた。


「君のそういうところが...本当に好きだ」


その言葉を口にした瞬間、オーウェンは少し顔が熱くなるのを感じた。


何か変なことを言っただろうか。でも、素直な気持ちだった。


「えへへ、褒められちゃった」


カリナがくるくると回る。


その無邪気な様子を見つめるオーウェンの表情は、いつもより柔らかかった。






しばらく音楽の話をしていると、オーウェンは少しめまいを感じた。


さっきから少し体調が良くなかったのだが、カリナと話すのが楽しくて気にしていなかった。


でも、限界が近づいているのが分かる。


「オーウェン、大丈夫?顔色が悪いわよ」


カリナの心配そうな声。


オーウェンは慌てて笑顔を作った。


「ああ...少し疲れただけだ。心配いらない」


弱いところを見せたくなかった。


気持ちを吐露したとはいえ

王族として、常に完璧でいようという気持ちはあったからだ


それに、せっかくの楽しい時間を、自分の体調不良で台無しにしたくなかった。


「心配いらないって...そんなの心配するに決まってるじゃない!ちょっと待ってて」


カリナは慌てた様子で部屋を飛び出していった。


オーウェンは一人、椅子に座ったまま呆然としていた。


『心配してくれる...のか』


当たり前のことなのに、それがとても新鮮だった。


王宮では、体調が悪ければ医師が呼ばれ、適切な処置が施される。


でも、誰も「心配」はしてくれなかった。


いや、心配はしていたのかもしれない。


でも、自分がその「心配」を信じきれなかった


カリナは違う。


彼女は、オーウェン自身を心配してくれている。

そう思えた。


数分後、カリナが水の入ったコップと、何かの葉っぱを持って戻ってきた。


息を切らせている。きっと、急いで寮まで取りに行ってくれたのだろう。


「はい、これ飲んで」


「これは?」


「故郷のハーブよ。疲れた時に飲むといいの。メラメラちゃんに少しだけ温めてもらったから、飲みやすいはず」


カリナが差し出すコップから、優しい香りが立ち上っている。


オーウェンはコップを受け取った。


その時、カリナの指が少し触れた。


温かかった。


「...ありがとう」


オーウェンが一口飲むと、確かに体が温まる感じがした。


「...美味しいな」


「でしょ?お母さんが持たせてくれたの。大切な時に使おうと思ってたんだけど、友達のためなら惜しくないわ」


カリナの純粋な気遣いに、オーウェンは胸が熱くなった。


「ありがとう、カリナ」


オーウェンは普段見せない、本当に安心したような表情を見せた。


「君は本当に...優しいな」


その言葉は、いつもの王族としての礼儀正しさではなく、心からの感謝だった。


「えー、優しいんじゃなくて、友達だからよ。友達が困ってたら助けるのは当たり前じゃない」


カリナの言葉は、いつも通りあっけらかんとしていた。でも、その中に込められた温かさが、オーウェンの心に深く響いた。


オーウェンは自分でも気づかないうちに、カリナに対して特別な柔らかさで微笑んでいた。


『この子の笑顔を守りたい』


そんな感情が、自然と湧き上がってきた。






ハーブティーを飲んで少し元気になったオーウェンに、カリナが提案した。


「ねえ、オーウェンは何か得意なことってある?」


「得意なこと?」


オーウェンは考えた。


「魔法は一通りできるが...体が弱いから、効率的に使う工夫をしているくらいだな」


「それってすごいことよ!私なんて、何も考えずに精霊さんにお願いしちゃうもの」


「でも、君の精霊魔法は素晴らしい。あの自然な感じは、僕には真似できない」


オーウェンの言葉には、本当に感心している様子が表れていた。


「お互い得意なことが違うのね」


カリナが嬉しそうに言う。


「だから一緒にいると面白いのかも。私ができないことをオーウェンができて、オーウェンができないことを私ができる」


「ああ...」


オーウェンは少し考えた。


カリナと一緒にいると、確かに面白い。楽しい。


心が軽くなる。笑顔になる。自然体でいられる。


「君といると...楽しいな」



カリナの前では、つい素直になってしまう。


「今度、キオやルイ、セドリックも一緒に、みんなの得意なことを教え合わない?」


「それは良いアイデアだ。勉強会でそういう時間を作れるかもしれない」


「やった!楽しみ」


カリナが飛び跳ねる姿を、オーウェンは微笑んで見守っていた。






気づけば、窓の外は夕焼けに染まっていた。


「あら、もうこんな時間」


カリナが驚く。


「そろそろ寮に戻らないとな」


オーウェンが立ち上がる。体調も随分良くなっているようだ。


「今日は楽しかったわ。オーウェンと二人で話せて」


「僕もだ。君と話していると、とても自然でいられる」


オーウェンの言葉には、いつもの王族としての丁寧さだけでなく、本心からの安らぎが込められていた。


二人は音楽室を出て、廊下を歩き始めた。


「ねえ、オーウェン」


「ん?」


「私、この学校に来て本当に良かった。最初は不安だったけど、今はすごく幸せ」


カリナの言葉に、オーウェンは穏やかに頷いた。


「僕も同じだ。君たちと出会えて、本当に良かった」


「これからもずっと友達でいようね」


「ああ、もちろん。約束する」


オーウェンが右手を差し出すと、カリナは力強く握手した。


「約束!」


夕日に照らされた廊下を、二人は並んで歩いていく。


オーウェンは今日一日を振り返りながら、なんだか充実した気分だった。





その夜、オーウェンは自室で今日のことを振り返っていた。



『友達だから当たり前』


その言葉が、心に残っている。


ただ純粋に心配してくれたのだと心から信じられる


窓の外を見ると、星が輝いている。


『カリナ、ありがとう』


オーウェンは心の中でつぶやいた。


『君と出会えて、僕は幸せだ』


今日は、とても楽しい一日だった。


カリナと二人で過ごした時間。彼女の歌声。温かいハーブティー。


そのすべてが、オーウェンにとって特別な思い出になった。


明日もカリナや他のみんなと話せる。それを考えるだけで、なんだか嬉しい気持ちになる。


そんな自分の気持ちを、オーウェンは素直に受け入れていた。


良い友達ができた。


窓を閉めて、オーウェンはベッドに横になった。


心地よい疲労感と共に、穏やかな気持ちで眠りについた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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