第17話「対立の始まり」
木々が冬への身支度を始めた、ある日の昼休み。
キオは中庭で友人たちと昼食を取りながら勉強会の話をしていた。定期的になった勉強会は、5人の友情をさらに深めている。
秋の陽だまりで、ベンチに座りながらサンドイッチを食べる。中庭には他にも生徒たちが思い思いに過ごしていて、のんびりとした雰囲気だった。
「昨日のオーウェンが持ってきてくれた古代魔法の資料、面白かったね」
キオが嬉しそうに振り返る。
「ああ、あの『調和の魔法陣』の話か?昔は魔法陣に魔力を貯めて、障壁などの国を守る魔法を使っていたという話だったな。確か貴族や平民などに関わらずみんなで使用していたとも…」
オーウェンも興味深そうに頷く。
「それってみんなで協力してたってことでしょ?私からすると不思議なのよねー。だってみんなで力を合わせるなんて普通じゃない?なのにそれが今はあまり使われなくなっちゃったっていうのがさ」
カリナが本当に不思議そうな顔をしていた
そんなカリナの様子にセドリックも考える素振りをする
「うーん、たぶんだけど。魔力が測定できるようになったのが原因じゃないかな」
「どういうこと?」
カリナの周りに?が飛んでいた
「今ってさ。測定器を使えば自分がどのくらいの魔力を持っているのかってすぐに分かるでしょ?だからこそ、魔力の量が人によって違うってことももちろん知ることが出来る。そうだよね?」
「うん、それはこの国に来て検査したから知ってる」
セドリックの言葉にカリナも頷く
「魔力量がわかるなら、わざわざ魔力が少ない人から魔力を集めたりするよりも魔力を持っている人から集める…それか集めるんじゃなくて、魔力を持ってる人に魔法を使ってもらった方が効率がいいってなったんじゃないかな?魔力をほとんど持っていない人が魔力を放出したり、魔法を使ったらすぐに倒れちゃうだろうから、そういったことも防げるし」
セドリックの考えにキオも頷いた
「そうだね…もしかしたらその魔力量が多い人達が今の貴族になったんじゃないかな。魔力を持っていたことで色々な責任ある事を任されることが増えていって。その結果、防衛とか政治とかの国の中枢の役目を担うことになったんじゃないかな。なんだろ…その当時の役割分担が今の制度や体制になっていったってことかもしれないね」
「役割分担…得意な人が得意なことをってなっていったら、確かに魔法を集める魔法陣も使わなくなるよね。だって必要ないもの。でもその魔力を持っている人ばかりに頼るっていうのもどうなんだろう…」
ルイが控えめに意見を述べる。
「なかなか難しいよね。持っている人ばかりに仕事や責任が降りかかってしまうのは大変だけど、どこまでやってもらうのかっていう、その線引きが難しいよね。永遠の課題な気がするなー…」
キオが感心していた時、少し離れた場所から誰かがこちらを見ているのに気づいた。
振り返ると、そこには見慣れない少年が立っていた。教会にいると聞くセレネという聖女と同じく白銀の髪を持つが、彼女ほど純粋な色ではなく、やや薄い色合いだ。背が高く、品格のある顔立ちをしている。教会関係者のような落ち着いた雰囲気を纏っていた。
その少年はしばらく迷っているようだったが、意を決したように近づいてきた。
「あの...すみません」
その少年は適度な距離を保ちながら、丁寧に声をかけた。
「キオ・シュバルツ・ネビウス様でいらっしゃいますでしょうか?」
キオが振り返ると、少年は軽く頭を下げた。
「はい、そうですが」
「初めまして。私、ルドルフ・ジルヴァ・ハイリヒと申します。1年B組におります」
ジルヴァ一族…宗教という立場から国を支えている教会に所属する一族だ。キオは立ち上がって丁寧に挨拶した。
「ルドルフ・ジルヴァ・ハイリヒ君ですね。初めまして」
「お忙しい中、失礼いたします」
ルドルフは周囲にいるキオの友人たちを見回した。明らかに何か言いたそうにしているが、人がいることを気にしているようだ。
「もしよろしければ...少しお時間をいただけませんでしょうか」
「お時間、ですか?」
『また、このパターンか…』
キオが首を傾げると、ルドルフは友人たちの方をちらりと見た。ルイ、カリナ、セドリック、オーウェンが好奇心いっぱいの表情で見守っている。
「はい。シュバルツ一族の方だけに、ぜひお聞きしていただきたいことがございまして」
その言い方に、オーウェンが微かに眉をひそめた。なんとなく、自分たちには聞かせたくないような響きがあったからだ。
「みんなの前でも大丈夫ですよ」
キオが自然に答えると、ルドルフは少し困ったような表情を見せた。
「恐れ入りますが...もしできましたら...」
「えー、なんで秘密の話なの?」
カリナが素直に疑問を口にする。
「私たちも聞きたいわ!」
ルドルフはカリナの明るい声に、一瞬表情を硬くした。そして、その褐色の肌と異国風の顔立ちに気づくと、さらに眉をひそめた。
「あなたは...異国の方ですか?」
「そうよ!マルジャナ島から来たの!」
カリナが元気よく答えると、ルドルフの表情がより一層厳しくなった。
「なるほど...」
ルドルフは明らかに不快そうな様子を見せた。そして、キオの周りにいる友人たちを見回す。
「キオ様は...このような方々とお親しくされているのですね」
その言葉の「このような」という部分に、明らかな軽蔑の響きがあった。
「このような、とは?」
オーウェンが静かに、しかし王族としての威厳があった
「ああ、オーウェン様...別に貴方様のことを言った訳ではありません」
ルドルフはオーウェンの言葉にゆっくりと首を振って否定をする
「キオ様が身分の異なる方々と交流していることについて、少し心配になりまして」
「心配?」
キオが眉をひそめる。
「なぜ僕の友人関係を心配する必要があるんですか?」
「友人関係と申されますが...」
ルドルフは少し言葉を選びながら続けた。
「やはり、お立場というものがございますでしょう?シュバルツ一族ともあろう方が...こんな平民や異国のものを友と呼ぶなど…」
セドリックが顔を赤くした。
今まで身分の差に対し、軽く指摘をされることはあったが
ここまであからさまに見下されたことは無かった
「僕たちと友達でいることが、そんなにおかしいですか?」
セドリックの震え声に、ルドルフは冷たく答えた。
「おかしいかどうかではなく、適切かどうかです」
「適切って...」
ルイも小さく呟いた。
そんな彼女を見下ろすようにして、ルドルフは続ける。
「我が国には、神竜が定めた美しい秩序があります。それぞれが自分の立場を理解し、それに相応しく振る舞うことで、社会全体の調和が保たれるのです」
「でも、友人関係に立場なんて関係ないでしょ?」
カリナが反論すると、ルドルフはさらに厳しい表情になった。
「関係ないはずがありません。特に異国の方には、我が国の神聖な秩序は理解しにくいかもしれませんが」
その瞬間、中庭の空気が張り詰めた。
「やめてください」
キオはルドルフの言葉を遮った
「僕の友人たちを馬鹿にするのは許せません」
なぜ急に自身の友人たちが侮辱されなければいけないのかわからず
ただただ怒りしかわかない
「馬鹿になどしておりません」
ルドルフは冷静に返す。
「ただ、それぞれの立場に相応しい関係があると申し上げているのです」
「相応しい関係?」
キオの紫の瞳が怒りで光った。
「僕にとって、彼らは大切な友人です。それが一番相応しい関係です」
「それは違います、キオ様」
ルドルフは食い下がった。
「あなたは黒竜の血を引く方。いえ…もしかしたら黒竜の化身なのかもしれない。そのような神聖な方がただの人間と付き合うことなどあってはいけない。それは社会の調和を乱す行為です。あなたは特別な存在なのです」
「僕は普通の学生です」
キオがきっぱりと言い切る。
「僕は僕という存在である、ただそれだけです」
その時、廊下から力強い足音が響いてきた。
「おい、何だ騒がしいな」
現れたのは、ヘルムート・アイゼン先生だった。赤みがかった茶色の髪と筋肉質な体格、そして鋭い眼差しが中庭の面々を見回す。
「真昼間から何をもめてるんだ?」
「あ、アイゼン先生...」
キオが安堵の表情を見せる。
「お前は...」
ヘルムートはルドルフを見つめた。
「こいつらとは違うクラスの生徒だったじゃないか?確か1年B組だったな」
「はい。1年B組のルドルフ・ジルヴァ・ハイリヒです」
ルドルフが丁寧に挨拶すると、ヘルムートは腕を組んだ。
「それで、他のクラスの生徒に絡んで何をしている?」
「絡むと言うのは失礼ではありませんか?身分について、正しい理解を深めていただこうと...」
「身分だぁ?」
ヘルムートの声が大きくなった。
その場にいた全員がその大きな声に固まる
「身分がなんだっていうんだ。俺の見るところ、この生徒たちは立派に友人関係を築いている。それでいいだろうが?」
ヘルムートがキオたちを見回しながら言う。
「よくないですよ、先生。神が定めた秩序を...」
「秩序がどうした」
ヘルムートは一喝した。
「俺は教師だ。目の前の生徒たちが健全に成長することが第一だ。仲間と切磋琢磨し、交流を深めているこいつらになんの問題がある?お前の言う秩序とやらで、こいつらの友人関係を壊すようなことしていいと思っているのか?そんな真似、俺が絶対に許さん」
ルドルフは言葉を失った。
元騎士の威圧感に気圧されたのもあるが、自分の信念を真っ向から否定されて動揺していた。
「あのな、坊主」
ヘルムートはルドルフに近づいた。
「俺は長年騎士として戦場に立った。そこで学んだのは、本当に大切なのは肩書きじゃない、心だということだ」
「しかし...」
「このガキどもを見てみろ」
ヘルムートはキオたちを指差した。
「互いを思いやり、助け合い、共に学んでいる。もう一度言う、これのどこが間違っているんだ?」
ヘルムートの有無を言わせぬ
その言葉にルドルフは拳を強く握った
「私は...教会の教えに従っているだけです」
ルドルフは苦しそうに答えた。
「教会の教えが、子供の友人関係を否定するのか?」
ヘルムートの質問に、ルドルフは答えられなかった。
「いいか、坊主。もう二度と他のクラスの生徒たちに説教するな。次にやったら、俺が直接指導してやる」
その迫力に、ルドルフは青ざめた。
「...承知いたしました」
ルドルフは不満そうな表情を隠しながら、教室を出て行った。
ルドルフが去った後、ヘルムートは優しい表情で振り返った。
「お前たち、気にするな」
「先生...」
キオが感謝を込めて見上げる。
「俺から見れば、お前たちの関係は立派なことだ。誇りを持て」
そして、特にルイとセドリックに向かって言った。
「平民だからって卑屈になるな。お前たちにはお前たちの良さがある」
「本当ですか...?」
ルイが小さく尋ねる。
「ああ。素直で、努力を惜しまず、仲間を大切にする。それこそ本当の財産だ」
「先生、ありがとうございます」
セドリックも感動して頭を下げた。
「カリナも、故郷の文化を恥じるな。多様性があるから世界は豊かになるんだ」
「はい!ありがとうございます!」
カリナが元気よく返事をする。
ヘルムートが去った後、5人は改めて座り直した。
「先生、かっこよかったね!」
キオが感心して言う。
「ああ。あんなに心強い先生がいるなんて」
オーウェンも感動している。
「でも、ルドルフって人...ちょっと怖かった」
セドリックが不安そうに呟く。
「ジルヴァ一族って教会の人達でしょ?みんなあんな感じなのかな?」
カリナはどうやら怒っているようで珍しく眉間に皺を寄せている
「分からないけど…でも、僕たちは僕たちらしくいればいい」
キオが微笑む。
「みんなが一緒にいてくれる限り、どんなことを言われても平気だよ」
「私も!」
カリナが手を挙げる。
「僕も、がんばります」
セドリックも決意を込めて頷く。
「私も...皆さんのお役に立ちたいです」
ルイも小さく、しかし確かな意志を示した。
「よし、それなら今まで以上に仲良くしよう」
オーウェンが提案する。
「理不尽なことを言われても、みんなで支え合えばきっと大丈夫だ」
5人が手を重ね合わせ、頑張ろうと誓い合った
その夜、キオが部屋で今日のことを振り返っていると、心の中でシュバルツの声が響いた。
『キオ』
『シュバルツ』
『ルドルフの考えは教会のものなのかはわからないが…少し厄介だな』
『そうだね、これからもっと大変になるかもしれない』
『それでも、大丈夫だ。お前はお前の友情を貫け。それがお前の道だ』
『うん...みんなを大切にしていく』
『ああ。大丈夫だ。お前たちなら大丈夫』
不安な気持ちを抱え、キオは眠りにつくのだった
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