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第15話「日常の中での発見」

夜週末の図書館で勉強会を終えたキオたちは、その楽しい時間がすっかり気に入ってしまった。

休み時間や昼食時間にも、自然と集まって話をするようになったのが、この数日間の変化だった。



「あ、カリナ、今日の髪飾り可愛いね」


昼休み、中庭のベンチに座ってサンドイッチを食べながら、ルイがカリナの髪に付けられた小さな青い貝殻の飾りに気づいた。


「これ?ふふふ、故郷から持ってきたのよ!海で拾った貝殻を加工して作るの」


カリナが嬉しそうに髪を揺らして見せる。

陽の光に当たって、貝殻が美しく光った。

まるで小さな宝石のように輝いている。


「わあ、綺麗...宝石みたい」


ルイが憧れるような目で見つめた。

彼女の瞳にも、貝殻と同じような青い光が宿っている。


「本当に美しいな。自然の素材をこんなふうに活用するなんて」


キオも感心して見入った。

前前世では、こうした手作りのアクセサリーに触れる機会は少なかった。


「作り方、教えてあげる!簡単なのよ。貝殻に小さな穴を開けて、海藻の繊維で編んだ紐を通すだけ」


カリナが身振り手振りで説明する。

その手つきには、幼い頃から慣れ親しんだ技術への自信が表れていた。


「海藻の繊維?」


オーウェンが興味深そうに身を乗り出した。


「そうなの!海藻から糸を作るのよ。とっても丈夫で、水に濡れても大丈夫なの。それに、海の精霊さんの力も宿ってるから、お守りにもなるの」


「ほう、それは驚きだ。この国では動物の毛や植物の繊維が主流だが、海藻とは考えたことがなかった」


オーウェンが感心する。様々な知識に触れてきた彼でも、マルジャナ島の文化は新鮮だった。


「私の故郷では、女の子は10歳になると自分で髪飾りを作るの。一人前になった証拠なのよ」


カリナがキャラメル色の髪を揺らしながら誇らしげに説明する。


「素敵だね。10歳で一人前の証か...」


ルイが感慨深そうに呟いた。


「ねえ、今度作り方教えて!私も髪飾り作ってみたい」


ルイが目を輝かせて頼むと、カリナは大喜びした。


「もちろん!でも貝殻がないのよね...代わりに何か使えそうなものないかしら?」


カリナの言葉にキオが思い出したかのように口を開く


「学校近くの雑貨屋さんに、綺麗なビーズがあったよ」


ルイが驚いたような顔をした。


「え!キオ君も街の雑貨屋さん行くの?」


ルイの驚きように今度はキオの方が驚いた。

まさかそんなことで驚かれるとは思わなかった。


「ルイ、貴族でも買い物をするために街に出たりするよ?」


「あ、えっと…貴族の方のお家だと専属のお店の方がいて、街のお店さんには行かないと思ってました」


ルイの素直な疑問に、オーウェンが明るく笑った。


「はははっ、確かにお抱えの商人がいる家もあるだろうが。ここは王都だからね。貴族向けのお店なんかも数多くあるから、買い物に出かける貴族もいるんじゃないかな」


オーウェンの言葉にキオはとても微妙な顔をする

『うーん、私は普通にぶらぶらと出かけてお店行っちゃってるけど、おかしい事だったのかな…?』


キオは少し心配になった。

もしかして、自分の行動はやはり貴族としては変わっているのだろうか。

今世では上に二人の兄がいるが、その兄たちからは特に注意されたことはない

二人とも「良いものは自分の目で耳で足で探すべきだ」という考えの持ち主だった

家族みんなそんな節があったため、違和感がなかった…が

キオは思わず考え込んでしまった


「あ、あそこね!私も見たことある。ビーズもだけど、可愛い小物とかアクセサリーもあったよ!」


カリナが弾んだ声で言う。


「じゃあ、今度みんなで見に行こうか」


オーウェンの提案に、その場にいた皆が賛成した。


「それ、楽しそう!私も街のお店、もっと見てみたかったの」


ルイも嬉しそうに笑った



一方、少し離れたベンチでは、マルク、エルヴィン、セドリックが別の話で盛り上がっていた。


「昨夜、王立劇場で『翼ある恋人』の公演を見たんだ!」


マルクが興奮気味に語る。

その目には、感動の余韻がまだ残っている。


「あの舞台か!僕も先月見たのだが、主演女優の歌声が素晴らしかったな」


エルヴィンが目を輝かせる。


「わかるぞ、エルヴィン!特に第二幕のアリア『空への憧憬』は鳥肌がたった。あの衣装も豪華で...青と銀の羽根を使った衣装は、まさに天使のようでした」


マルクが身振り手振りで説明する。


「あの場面は確かに圧巻だった。舞台装置の雲も、本物のように見えたな」


エルヴィンが頷く。


二人の会話を聞いていたセドリックが、少し申し訳なさそうに口を挟んだ。


「あの...僕は舞台は見たことないんですが、原作小説は読んだことがあります」


「原作小説…だと?」


マルクが驚きながらセドリックのほうを振り返る。


「はい。『翼ある恋人』の原作、リュヌ・ブランの『空駆ける二人』です。図書館にあったので」


「あの舞台には原作があったのか!?それは知らなかった…」


エルヴィンが驚き、そして感心して口を開いた


「ちなみにだが、舞台と原作では、どのような違いがあるんだ?」


「えっと...原作では主人公の心理描写がもっと詳しくて、なぜ彼が空を飛ぶことに憧れるようになったのか、幼少期のエピソードから描かれているんです」


セドリックが恥ずかしそうに、しかし熱心に説明する。


「例えば、主人公が7歳の時に鳥の巣から落ちた雛を助けようとして、自分も高い木から落ちそうになった話とか。その時に『鳥のように飛べたら』って初めて思ったという場面があるんです」


「なるほど!舞台では時間の制約で、その部分は省かれていたな」


マルクは目を輝かせ、うんうんと頷く。


「そうなんです!舞台では大人になってからの恋愛が中心でしたが、原作では子供の頃の純粋な憧れから始まって、それが恋愛と結びついていく過程が丁寧に描かれているんです」


セドリックの説明に、二人とも真剣に聞き入った。


「原作を読んでから舞台を見ると、また違った楽しみ方ができそうだな」


エルヴィンが興味深そうに言った。


「じゃあ…今度、原作を読んでから一緒に舞台を見に行かないか?セドリックも一緒に」


マルクの提案に、セドリックは驚いた。


「え、でも僕なんかが...」


「何を言っているんだ。君の原作解説、とても面白かった。それに同じものが好きな同士じゃないか!」


エルヴィンが自然に言うと、セドリックは嬉しそうに頷いた。


「えへへ…ありがとうございます。ぜひお願いします」


「それじゃあ、次の公演はいつだったかな...確か来月にも上演があったはずだ」


マルクがうーんと唸りながら思い出そうとする。


「私が家で調べてみよう。チケットの手配もできるかもしれない」


エルヴィンが提案した。

エルヴィンの言葉にセドリックもマルクも嬉しそうに笑った



この場の空気を表すかのように空は雲一つない晴天だった



昼食を終えて教室に戻ると、キオが提案した。


「そういえば、ちょっと提案なんだけど。勉強会の頻度を増やさない?」


「頻度を?」


セドリックが興味深そうに聞く。


「えっと…みんなで勉強すると楽しいからさ。もしよかったらなんだけど」


キオの提案に、カリナが手を挙げる。


「いいアイデアね!私も賛成」


「僕も参加したいです。一人で勉強するより、みんなで教え合った方が、理解が深まりますし」


セドリックも積極的だ。


「私も...でも、お忙しい中、お時間をいただいて本当にありがとうございます」


ルイが控えめに答える。彼女は相変わらず遠慮がちだが、勉強会への参加意欲は感じられる。


「僕も賛成だ。ただずっと図書館で勉強するのも飽きてしまいそうだし、課外活動をするのもいいんじゃないか?」


オーウェンの提案に、みんなの目が輝いた。


「課外活動?」


キオが興味深そうに尋ねる。


「たとえば図書館で調べた植物を森に探しに行ったり…ああ、そうだ。確か二つ隣の町には週一回異国からの商品を販売する市が開催されていたはずだ。異国の文化を学ぶために、そういったものにも出かけるのもいいんじゃないか?まあ、純粋に図書館で古代魔法などを勉強するでもいいとは思うが」


「いいじゃない!探検やお店巡りもいいし!…というか古代魔法って何!?面白そう!」


カリナが飛び跳ねた。


「待って…楽しそうだけど、頭が追い付かない…ってか古代魔法って!?」


セドリックが考え込んだと思ったらカリナと同じように叫んだ


「それじゃあ、みんなの予定が空いてたら開催しよっか。内容についてはその時々ってことで」


二人の驚きようをスルーしてキオは提案する。

キオの提案に一応みんなうなづいた


「それじゃあ、基本的な場所は今まで通り図書館でいいかな?」


「はい、あそこは静かで集中できますね」


ルイが頷く。


「じゃあ、とりあえず次の勉強会では僕が古代魔法の資料をもってこよう。城にある資料の原本は持ってこれないが、写本してもらえるように手配してみる。それなら図書館でも安心して見られるだろう」


オーウェンの言葉にキオは不安そうに尋ねる


「えっ…その資料は僕らが見ても大丈夫なの?」


「ああ、ぼくが幼いころに勉強したことがある内容だからな。そう珍しい資料でもないから大丈夫だ」


その言葉にキオは安心したようにうなずく


「すごい...王族の方の資料が見られるなんて」


セドリックは感動しているのか震えていた


「セドリック…大丈夫?」


キオはセドリックの怒涛の反応を見て思わず笑ってしまった




落ち着いたころ、それぞれが期待を口にし始めた。


「私、カリナの故郷の精霊魔法についてもっと詳しく知りたいの」


ルイが恥ずかしそうに言う。


「もちろん!メラメラちゃんたちのことも紹介するわ。あ、でも図書館だと火の精霊はダメって言われちゃうかも」


カリナが心配そうに呟く。


「僕は、オーウェン君の効率的な魔法の使い方をもっと教えてもらいたいです」


セドリックが真剣に言う。


「任せてくれ。体力に制約があるからこそ編み出した方法だが、きっと役に立つはずだ」


オーウェンが頼もしく答える。


「僕は、みんなの魔法に対する考え方を聞くのが楽しみかな。それぞれ違うアプローチがあって、とても勉強になる」


キオが率直に言った。


「キオ君の説明はいつもわかりやすくて助かってます」


ルイが感謝を込めて言う。


「そんなことないよ。僕も、みんなから学ぶことばかりだ」



その時、授業開始のベルが鳴った。


「あ、次の授業だ」


「急がなくちゃ」


みんなが慌てて席に戻る中、キオは満足そうに微笑んだ。


友達と何かを計画するということが、まるで修学旅行を控えた前準備の時のようだと、そう思うのだった




その夜、寮の部屋でキオは今日を振り返っていた。


『キオ』


シュバルツの声が心に響く。


『今日はどうだった?』


『とても楽しかったよ。カリナの故郷の話も興味深かったし、みんなで話をした勉強会というか課外活動とかも楽しみかな』


キオは窓の外の星空を見上げながら答えた。


『ふふふ、楽しいな』


『お前の友人たちは本当に個性豊かだな』


『そうだね。カリナの明るさ、ルイの優しさ、セドリックの真面目さ、オーウェンの配慮深さ...みんな違って、みんないい』


ちょっとくさい言葉かもしれない


『お前らしい考え方だ』


シュバルツは優しく受け入れてくれた


『でも、今日気づいたことがあるんだ』


『何だ?』


『僕が普通だと思ってやっていることが、実は当たり前じゃないかもしれないってこと。街の雑貨屋に行くのも、ルイには意外だったみたいだし』


『お前の場合は、昔の記憶があるからな』


『もしかしたら、僕は貴族としては変わった行動をしているのかもしれない。それが悪いことだとは思わないけど、ちょっとは「貴族の普通」を勉強したほうがいいのかもね』


『無理しない範囲で頑張るといい。俺は応援しているからな』


『うん。ありがとう、シュバルツ。明日も楽しみだね…』


キオは心地よい疲労感と共に眠りについた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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